[40]【平穏を手放す前に】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-
◾️この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
僕が生きてきた記録です。
外田新聞店。
お世話になって、数ヶ月が過ぎていた。
人生の大底にいた僕を、
もう一度、立たせてくれた場所だった。
朝の新聞配達。
配達員たちとの会話。
パンを食べながら笑う時間。
家に帰って、ほっとする瞬間。
それだけで十分だった。
本当は、それだけでよかった。
でも、この成功体験が、
僕をまた懲りない男にしていく。
どんな状況になっても、
必ず道は開ける。
僕は、そう思ってしまった。
いい意味ではなかった。
悪い意味で、
そう思うようになっていくことなど、
この時の僕にはまだ分かっていなかった。
誰にも相談できていなかった。
午前一時。
日付が変わる。
僕はいつものようにコーヒーをいれる。
このコーヒーを飲むという行為は、
僕にとって、ほとんど儀式だった。
人生の支え。
僕が僕であるための確認。
そんな大げさなものに、
いつの間にかなっていた。
ぼんやりとコーヒーを飲みながら、
少しずつ、仕事ができる自分に戻していく。
今日も配達がある。
今日も働ける。
今日も生きている。
それで十分なはずだった。
ふと、思った。
みんな、このままでいいのだろうか。
人夫出しで、
毎日、日銭を稼いで生きていく。
体が動くうちはいい。
でも、いつか働けなくなった時、
どうするのだろう。
僕に、何かできることはないのだろうか。
そんな考えが、頭に浮かんだ。
少し余裕ができてきたからかもしれない。
皆に対する罪悪感からかもしれない。
僕だけが、
外田新聞店で助かったような気がしていたのかもしれない。
せっかく手に入れた平穏を、
僕はまた手放そうとしていた。
危険な考えに、
少しずつ包まれていく。
いつも通り、配達をした。
いつも通り、配達員たちとパンを食べた。
いつも通り、談笑した。
いつも通り、家に帰ってほっとした。
これが大切なのに。
本当に大切なのは、
この繰り返しだったのに。
その日の配達中も、
松下さんと吉田のことが、頭から離れなかった。
松下さん。
僕に電話をくれた人。
吉田。
僕を助けてくれた人。
吉田。
君には感謝しかない。
恩返しをしないといけない。
そう思った。
人夫出しで、
毎日、日銭で生きていく。
でも、今なら、
そこから抜け出せるかもしれない。
年齢的にも、
まだギリギリ間に合うかもしれない。
そのサポートをしよう。
僕は、そんなことを考え始めていた。
僕にできること。
何があるだろうか。
朝のコーヒーを飲みながら、
僕はまた、
余計な夢を見始めていた。
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7月13日更新
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】


【第ニ章・新聞配達編】


