見出し画像

介護職の市場価値は、本当に低いのか。仕事内容と給料の決まり方を分解してみた

介護職って、不人気職として扱われることが多いですよね。

人手不足。 大変。 給料が安い。 夜勤がある。 体力的にきつい。

まあ、色々言われます。

ただ、普段フリーランスで企業の採用や組織について相談を受けていると、こういうときに一回やることがあります。

その仕事をバラして考える。

「人気がない」
「市場価値が低い」
「給料が安い」

みたいな、いつの間にか前提になっているものを一回横に置く。

そのうえで、

で、この仕事って実際には何をやってるんだっけ?

から考え直します。

今回は、それを介護職でやってみようと思います。


今回、社会的意義はいったん無視します

最初にひとつだけ。

今回は、介護職の社会的意義はいったん度外視します。

高齢化が進んでいるから介護職は必要だ。
社会を支えている尊い仕事だ。

もちろん、それはそうです。

でも介護職で働いている人全員が、「少子高齢化社会を支えるためにこの仕事を選びました!」 と思って働いているわけではないでしょう。

エンジニア全員が日本のDX推進のためにコードを書いているわけではないのと同じです。

念のため書いておくと、これは介護を軽く見ているわけではなくて、単に論点を絞りたいだけです。

「社会に必要だから価値がある」で話を始めると、そこで議論が終わってしまう。
必要かどうかと、その人にいくら払われるかは、実は別の話なので。

なので今回は、
一人の労働者が提供している仕事として見たとき、介護職にはどんな価値があるのか。

こっちを見ます。


まず、介護職って何をしているんだっけ?

「高齢者のお世話をする仕事」

と言ってしまえば一言です。

ただ、この一言がかなり曲者で、中身を開けると全然一言では終わらない。

身体介護。
生活援助。
状態観察。
コミュニケーション。
多職種連携。
記録・申し送り。
突発事象への対応。

ざっとこのくらい。

ひとつずつ見ていきます。


身体介護って、「どこまでやるか」の要件定義では?

食事。 着替え。 入浴。 排泄。 移動。

介護する側が全部やってしまえば、たぶんその場は早いんですよね。

自分で服を着るのに10分かかる人がいる。
介助する人が全部やれば3分で終わるかもしれない。

じゃあ全部やればいいじゃん。

……とはならない。

全部やってしまえば、本人がまだできる動作までやらなくなります。
結果的に、できること自体が減っていく可能性もある。

つまり介護する側は、

この人は何を求めているのか。

だけではなく、

自分はどこまでやるべきなのか。

まで判断しなければいけません。

もうこの時点で、そんなに簡単な仕事ではないですw

仕事の言葉に置き換えると、かなり要件定義に近い。
必要な支援を把握して、介入範囲を決める。

しかも、支援しすぎることにもデメリットがある。

これ、マネジメントでも同じですよね。

部下の仕事が遅い。
上司がやったほうが早い。
だから全部上司がやる。

短期的には早い。
でも、それを続けたら部下は育ちません。

「ここまでは本人に任せる」
「ここからは手を出す」

という線引きをする。

介護とマネジメントでは目的も対象も違いますが、 相手ができることを奪わないように、介入量を調整する。 という部分はかなり似ています。


「相手の立場に立つ」の、もう一歩先

生活援助も面白いです。

相手が暮らしやすい環境を作る。

これは 「相手の立場に立って考えましょう」 という話なので、多くの仕事で求められるものです。

でも介護は、さらに一歩先に行きます。

「今日、この人なんか違うぞ?」

を見る。

いつもより食事が遅い。
会話が少ない。
立ち上がるときの動きがおかしい。
なんとなく表情が違う。

これ、簡単そうに聞こえますけど結構高度です。

普段を知らないと「違い」には気づけないので。

つまり、その人なりの平常値を頭の中に持っている必要がある。

しかも厄介なのが、平常値は人によって全然違うことです。
Aさんの「無口」は異常サインだけど、Bさんの「無口」は平常運転かもしれない。
一律の基準では判断できない。

これを会社に置き換えると、
いつもよく喋る部下が今日は妙に静か。
普段返信の早い人から返事が来ない。
会議には出ているけど、なんとなく様子がおかしい。

ここで、

「仕事はできてるからいいか」 とするのか。
「何かあった?」 と声をかけるのか。
仕事量を調整するのか。
場合によってはメンケアするのか。

マネジメントでも難しいところです。

数字に異常が出る前の小さな変化を拾えるか。

介護職は、それを日常業務としてやっています。


コミュニケーションは「話す力」より「聞く力」

介護職のコミュニケーションも、一般的な接客とはちょっと違います。

相手に説明することもある。
でも、それ以上に求められるのが、話を聞いて、安心してもらうこと。

いわゆる傾聴ですね。

ただ、傾聴という言葉だけ書くと、なんとなく穏やかな絵面を想像しがちなんですが、介護現場のそれはもう少しハードです。

同じ話が20分おきに繰り返される。
入浴を頑なに拒否される。
本人と家族の言っていることが食い違っていて、両方から板挟みになる。
そもそも言葉として出てこないので、表情と動きから推測するしかない。

この状態で、

相手の話を途中で奪わない。
こちらの価値観ですぐ評価しない。
何を言おうとしているのか確認する。

をやる。

研修のロールプレイでやると「まあできそう」に見えるんですが、これを毎日、しかも別の相手に対して同時進行でやるとなると難易度が跳ね上がります。

さらに、介護職。 看護師。 ケアマネジャー。 リハビリ職。 医師。 家族。
専門領域も立場も違う人たちと連携する。

会社でいう「部署内コミュニケーション」より、 専門分野の違う他部署や協力会社と組んで案件を進める に近いかもしれません。


記録と申し送りは、属人化を防ぐ仕事

今日何があったのか。
何をしたのか。
どんな状態だったのか。
次の人は何に注意すべきなのか。

それを記録する。

これは完全に、「自分しか知らない」を作らない仕事ですよね。

普通の会社で属人化が問題になると、

「マニュアルを作ろう」
「ナレッジを残そう」
「引き継ぎ資料を整備しよう」

となります。

介護現場では、それが日常業務に組み込まれている。

しかも、ただ書けばいいわけではありません。
次に読む人が理解できなければ意味がない。

事実を整理する。
重要な情報を選ぶ。
言語化する。
相手が理解できる状態で残す。

普通にドキュメンテーション能力です。


そして、毎日がイレギュラー

介護って、人間相手なので変数が多いです。

突然体調が悪くなる。
転倒する。
予定していたことを拒否する。
利用者同士でトラブルが起こる。
家族から連絡が来る。
昨日と今日で状態が違う。

極端な話、

毎日がイレギュラーです。

マニュアルはある。 手順もある。

でも、マニュアルを覚えたら仕事が完成するわけではない。

その場で「今回はどうする?」を判断する必要がある。

……で、ここは後半の話につながるので覚えておいてほしいんですけど、これって裏を返すと 標準化しにくい仕事ということでもあるんですよね。

工場のラインなら、手順を磨けば一人あたりの生産量が上がる。
介護は、そこが上がりにくい。 相手が毎日変わるので。

このあと出てくる「なぜ給料が上がらないのか」の話に、これが効いてきます。


……これ、全部同時にやってるんですよね

ここまでを並べます。

要件を把握する。
介入範囲を決める。
相手の平常値を知る。
変化を察知する。
話を聞く。
専門領域の違う人と連携する。
情報を言語化する。
属人化しないよう記録する。
突発事象に対応する。
その場に合わせて判断する。

これ、違う業界の求人票だったら、

「マネジメント能力」
「課題発見力」
「ステークホルダーマネジメント」
「ドキュメンテーション能力」
「臨機応変な対応力」

みたいに書かれるやつです。

そして個人的に一番すごいと思うのは、これを順番にやっているわけではないことです。

利用者Aさんの入浴介助をしながら、離れた席のBさんの様子が気になっていて、その間に看護師から声をかけられ、頭の片隅では今日の記録に何を残すか考えている。

並列処理なんですよね。

少なくとも、

「単純労働だから価値が低い」

で片付けられる仕事には全然見えません。


じゃあ、なんで給料は高くないの?

ここで次の疑問です。

これだけ色々やっているのに、

なぜ介護職の給料は高くないのか。

先に結論を言うと、
「仕事が簡単だから」ではなく、
給料を上げにくい構造になっている。という部分が大きいです。

ここからちょっと数字の話が続きますが、この記事で一番大事なところなのでお付き合いください。


介護施設の財布はどうなっている?

めちゃくちゃ単純化すると、介護サービスのお金には、

利用者の自己負担。 そして介護保険からの給付。があります。

「利用者と国の2つの財布」と考えたくなるんですが、厳密には少し違います。
介護保険の財源は保険料と公費で構成され、公費にも国・都道府県・市町村のお金が入っています。

社会全体で集めた保険料や税金で介護サービスを支えている。という構造ですね。

そして介護保険サービスの場合、事業者が好きな価格を付けられません。

要介護度。 サービス内容。 利用回数。 各種加算。 地域。

こういったものによって介護報酬が決まります。

しかもこの価格、決めているのは事業者ではなく国です。
原則3年ごとの改定で見直される。

普通の会社なら、 「原材料費も人件費も上がったから10%値上げしよう」 という選択肢があります。

もちろん顧客や競合がいるので簡単ではないですが、価格を変える余地はある。

介護はその自由度がかなり低い。

売上単価の大きな部分を、自分たちで決められないビジネスなんです。

ここ、意外と知られていない気がします。


平均月給33.8万円。でも中身を見ると結構違う

厚生労働省の令和6年度の調査では、処遇改善加算を取得している事業所の常勤介護職員(月給)の平均給与額は、

月33万8,200円。

「思ってたより高いじゃん」と思うかもしれません。

ただし、これは手取りではありません。

内訳を見ると、
基本給と毎月支払われる手当を合わせた「基本給等」が、約25万4,000円。 残りは賞与などの一時金を月割りした分。

これを全部足した数字が33万8,200円です。
夜勤や時間外の手当も、ここに含まれています。

前年から約1万4,000円上がっているので、改善はしています。

じゃあこれは高いのか低いのか。

比較対象がないと判断しづらいので、ひとつ並べておきます。
国税庁の調査による給与所得者全体の平均給与が、年収ベースで約478万円。 33万8,200円を単純に12倍すると約406万円。

「言われるほど激安ではないが、平均よりは下」くらいの位置ですね。

もうひとつ、面白いのがここです。

同じ調査で、 介護福祉士の平均給与額は35万50円。
ケアマネジャーは37万5,410円。
勤続2年未満は29万8,760円で、勤続20年以上は38万2,520円。

同じ介護業界の中でも、資格と年数で数万円単位の差がついている。

つまり「介護職の給料は安い」とひとくくりにするのも、実はちょっと雑なんですよね。


謎ワード「処遇改善加算」

介護業界の外にいると、処遇改善加算という謎ワードも出てきますw

これ、「国から介護職員本人に毎月3万円振り込まれる」 みたいな制度ではありません。

ざっくり言うと、
一定の条件を満たした事業所の介護報酬を上乗せして、それを職員の賃金改善に充ててもらう仕組みです。

介護報酬。

事業所。

賃金改善。

という流れ。

ここでポイントになるのが、真ん中に事業所が挟まっていることです。

事業所がどの区分の加算を取っているか。
それをどう配分しているか。によって、個人の手元に来る形が変わる。

基本給に乗る事業所もあれば、手当として付く事業所もある。

自分の給与が、自分の働きぶり以外の変数で結構動く。

これ、この記事の後半で出てくる「給料は能力だけで決まらない」の、かなり分かりやすい実例だと思っています。


介護職は「市場価値が低い」のか?

じゃあ本題です。

介護職って、市場価値が低いんでしょうか。
そもそも市場価値とは何か。

かなり単純化すると、その人を欲しい企業がどれくらいいて、働ける人がどれくらいいて、そこにいくらの値段が付くのか。

需要。 供給。 価格。

この3つを合わせたようなものだと思ってください。

で、ここが重要なんですが、「高度なスキルがあるなら企業はいくらでも払う」わけではありません。

会社である以上、売上があります。人件費があります。 原価があります。 経費があります。 利益も残したい。

極端な話、100万円の売上を生むために200万円の人材を雇えば、100万円赤字です。

どれだけ優秀でも、その会社が200万円を払えるビジネスになっていなければ払えません。

つまり給料って、「あなたがどれくらいすごいか」の得点表ではなく、 「あなたのいる場所がいくら払えるか」の答え合わせに近い。

ここ、混同されがちなんですが完全に別物です。


需要はむしろ高い。なのに値段が上がらない

介護職の需要が低いのかというと、むしろ逆です。

介護関係職種の有効求人倍率は、直近でおよそ4倍前後で推移しています。 全職業はだいたい1倍台の前半。

つまり、

「欲しい企業がいない」

どころではない。

普通に足りない。

だったら本来、需要と供給の関係だけなら値段は上がっていくはずです。

でも介護では、それが起きにくい。

理由は2つあると思っています。

1つめは、さっきの話です。

給料を上げたい。

人件費が増える。

その分売上を増やしたい。

でも介護報酬を自由に値上げできない。

需要が多くても、払える上限に天井がある。

2つめは、供給側の話。

介護は、無資格・未経験でも入れる職種です。

これ自体は良いことです。門戸が広いのは強みだと思います。

ただ労働市場の値段の付き方で言うと、 「その仕事に就ける人の入口が広い」ことは、 「一人ひとりの交渉力が生まれにくい」ことでもある。

事業者から見たとき、 「この人でなければ回らない」 という状態になりにくいんですよね。

だから、 「業界全体としては人が足りない」 のに、 「個人としては値段を上げにくい」 という、ちょっとねじれた状態が起きる。

さらに、さっき書いた「毎日がイレギュラー」の話がここに乗ります。

標準化しにくい仕事なので、一人あたりの処理量を機械的に増やすことができない。
売上単価は上げられない、一人あたりの生産量も上げにくい。

……これ、なかなかの詰みっぷりだと思いませんか。


完全にリソース分配ゲーじゃないですかw

抽象的な話が続いたので、具体的に見てみます。

分かりやすいのでデイサービス(通所介護)です。

厚生労働省の令和7年度の経営調査(令和6年度決算)を見ると、通所介護1事業所あたりの平均月収入は約594万円。 常勤換算の職員数は10人ほど。

そして給与費が、

収入の約61%。

当然ですが、残り4割が全部利益ではありません。

建物があります。
車があります。
設備があります。
水道光熱費があります。
消耗品があります。
食事関係の費用があります。
その他諸々あります。

その結果、収支差率は6%程度。

「6%って高いの?低いの?」と思った方へ。

同じ調査で、介護サービス全体の平均収支差率は4.7%。 そして赤字の事業所が、全サービス平均で37.5%あります。

3件に1件以上が赤字。

この前提で、

「介護職が大変だから全員5万円昇給!」

と簡単にできるか。

10人なら月50万円。 年間600万円。

収支差率6%の事業所で、月収入594万円なら利益は月35万円ちょっとです。

……はい。一発で吹き飛びます。

しかも介護は、

「人が足りないから1人で50人見てください!」

と簡単にはできない。

施設の種類や利用者数によって、人員配置基準があります。

介護職。 生活相談員。 看護職。 機能訓練指導員。 管理者。

必要な職種や人数が、ある程度決められている。

利用者を増やす。

人も必要になる。

人件費が増える。

でも単価は自由に上げられない。

完全にリソース分配ゲーですw

介護職の給与問題って、

「もっと評価してあげましょう」

という精神論だけでは解決しないんですよね。

ちなみに、この構造にも抜け道がないわけではありません。
保険外の自費サービスは価格を自分で決められるので、そこを伸ばしている事業者もあります。

ただ現状、通所介護の収入に占める保険外の割合は1割弱。
主戦場にはまだなっていない、というのが正直なところです。


じゃあ、介護職のスキルをIT業界に持っていったらいくらになる?

ここでちょっと遊んでみます。

介護職で使っている能力と似た能力を、中核スキルとして使っているIT職種にはどれくらいの値段が付いているのか。

つまり、スキルの代理価格を見てみます。

先に強めに書いておきますが、
「介護職なら明日からIT業界で年収1,000万円です!」という話では絶対にありませんw

ITならITの専門知識が必要です。
これから出す年収は「その職種に就いている人の相場」であって、「転職したらもらえる額」ではありません。

数字は国内の求人情報やRobert Half Japan「Salary Guide 2026」などを参考にした、かなりざっくりしたレンジです。

その前提で、能力の中身だけ並べてみます。

「どこまでやるか」を決める仕事は、650万〜1,000万円超

介護でいうアセスメントと、介護計画を立てるところですね。

ITでこれに近いのが、ビジネスアナリストやプロジェクトマネージャー。

要るものを洗い出して、優先順位をつけて、介入範囲に線を引く。

さっき書いた「全部やってしまうと本人ができなくなる」の話、あれと同じ判断です。

「今日この人なんか違うぞ?」に気づく仕事は、450万〜800万円

普段との違いに気づいて、話を聞いて、本人がまだ言葉にしていないニーズを引き出す。

これはカスタマーサクセスに近い。

顧客の状態を継続的に見て、問題が表面化する前に手を打つ職種です。
解約されてから慌てるのでは遅い、というのが前提にある。

「数字に出る前に気づく」が仕事、という点でほぼ同じですよね。

専門の違う人をつないで、記録に残す仕事は、600万〜900万円

多職種連携と、申し送りです。

ITだとPMOやテクニカルライター。

関係者の間で情報を揃えて、次に読む人が動ける状態にして残す。

「自分しか知らない」を作らない仕事、というのはさっき書いた通りです。

突発事象に対応する仕事は、750万〜1,000万円超

テクニカルサポートやサービスデリバリー。

想定外が起きたときに、自分で処理するのか、誰に上げるのか、その場で決める。

エスカレーションの判断ってマニュアル化しきれないので、経験値がそのまま値段になりやすい領域です。

そして、これを全部同時に回すと、700万〜1,000万円超

プロジェクトマネージャー、あるいはサービスデリバリーマネージャー。

……で、ここが一番言いたいところなんですけど。

上の4つ、介護職は別々にやってるわけじゃないですよね。

入浴介助をしながら、離れた席の別の人の様子が気になっていて、その合間に看護師と話して、頭の片隅で今日の記録を組み立てている。

一番値段が高いのは、実はこの「全部同時に」なんです。

もちろん完全一致ではありません。

でも、面白くないですか?


「多職種連携」がITに行くと「ステークホルダーマネジメント」になる

介護では、「多職種連携ができます」と言う。

ITに行くと、
「複数ステークホルダーを巻き込んだプロジェクト推進経験があります」となる。
急に値段上がったぞ?w

申し送りもそうです。

介護では「申し送り」。

ITでは、「ドキュメンテーション」 「ナレッジマネジメント」 「属人化解消」みたいな名前になります。

別に横文字にしたら偉いわけじゃないんです。

言いたいのは、同じ能力でも、どの市場で使うかによって値段が変わるということです。

そしてもうひとつ。
介護の能力は、介護業界の言葉でしか説明されていないことが多い。

これ、けっこう損してると思っていて。

例えば職務経歴書に、

特別養護老人ホームにて、入居者20名の身体介護および生活援助を担当。記録・申し送りを実施。

と書くのと、

入居者20名を担当し、それぞれの状態変化を日次でモニタリング。異常の兆候を早期に検知し、看護職・リハビリ職・ケアマネジャー・ご家族の間で情報を連携。判断根拠を含めた記録を残し、担当者が交代しても同水準の対応が可能な状態を維持。

と書くのとでは、やっていることは同じでも読み手の受け取り方が全然違う。

嘘は一個も書いていません。 翻訳しただけです。


「介護しかやったことがない」で、自分を下げる必要はない

ここまで読んで、「でも私、介護しかやったことないです」と思った人もいるかもしれません。

別に、自分を下げる必要ないですよ。

確かにITのPMになろうとしたら、システム開発。 プロジェクト管理。 クラウド。 ネットワーク。

そういう専門知識が足りないかもしれない。

でも、

「今その専門性を持っていない」

と、

「その仕事に必要な素養がない」

は別です。

今できないから、今後もできない。にはならない。


そして、別に転職しなくてもいい

ここまでIT業界の話をしてきたので、
「つまり介護から出ろってこと?」と読めてしまったら、それは僕の書き方が悪いです。全然違います。

さっき数字で見た通り、介護業界の中でも値段は動きます。

無資格から介護福祉士を取る。
サービス提供責任者や生活相談員になる。
ケアマネジャーの資格を取る。
現場のリーダーから管理者、施設長へ進む。

このあたりは、そのまま単価に効いてくる道です。

もっと地味な話だと、
記録のIT化を推進できる人。
新人の育成設計ができる人。
加算の要件を理解して取得まで持っていける人。

このへんは、どの事業所でもわりと慢性的に足りていません。

要は、 「介護をやめて別の何かになる」 だけが選択肢じゃない、ということです。


人材の価値って、複利なんですよ

僕は、人材の価値ってかなり複利的だと思っています。

単利で考えると、
介護経験10年。 以上。になります。

でも実際には、その10年で、
傾聴力が身についた。 観察力が身についた。 突発対応に慣れた。 他職種との調整ができるようになった。 情報を整理して伝えられるようになった。

そこに次の経験を乗せる。

例えばITを勉強する。

すると、

介護+ITになる。

営業を経験する。 介護+営業。
採用を経験する。 介護+人事。
マネジメントを経験する。 介護+マネジメント。

ここで面白いのは、新しいスキルが1個増えるだけではないことです。

新しい経験によって、昔の経験の価値まで変わる。

介護現場を知っていてITも分かるなら、介護Techのプロダクト側で強いかもしれない。
現場を知らないエンジニアが作った記録システムって、だいたい現場で使われないので。

介護経験があって営業もできるなら、介護事業者向けの法人営業と相性がいい。
「その加算の話ですよね」が通じる営業は、それだけで信用が違います。

介護経験があって採用も分かるなら、介護業界の採用支援。
これは有効求人倍率4倍の市場なので、需要はいくらでもあります。

昔の経験が、後から資産になることがある。

これが複利っぽいんですよね。


介護職という肩書きを、自分の能力の上限にしない

今回やってみたことは、かなり単純です。

介護職という仕事を、一回バラした。
仕事内容を確認した。 求められる能力を抽象化した。
給料が決まる構造を見た。
他業界で似た能力にいくらの値段が付いているかを見た。

すると、最初にあった、

「介護職=不人気で市場価値の低い仕事」

というイメージが、かなり雑だったことが分かります。

もちろん大変な仕事です。
給与もまだ高いとは言いにくい。
業界構造として難しい部分も多い。

だからといって、働いている人自身の価値まで低いとは限らない。

値段が低いことと、価値が低いことは、そもそも別の話なので。

だから、
「介護しかやったことがありません」ではなく、
「介護を通じて何ができるようになりました?」から考えてみる。

そのうえで、ここに何を足したら面白い?を考える。

別にITじゃなくてもいいです。 転職しなくてもいい。 介護業界に残ってもいい。

重要なのは、現在の職種名を、自分の能力の上限にしないこと。

介護職という肩書きは、今やっている仕事を表しているだけです。
これからできる仕事まで決めているわけではありません。

そして仕事をちゃんと分解してみると、次に持っていける材料って、案外もう手元にたくさんあるんじゃないでしょうか。


※IT職種との比較は「同じ仕事である」という意味ではなく、介護職で使用する能力と似た能力を中核に持つ職種の市場価格を比較する目的で掲載しています。

いいなと思ったら応援しよう!