短編小説『下手くそピアノで宇宙と交信』

下手くそピアノで宇宙と交信
夕暮れの駅。
奏太は駅ピアノに向かって、ぎこちない指を動かしていた。
「……ドミソ、ドシラ、ドレ……あれ、また間違えた」
「……へたくそすぎない?」
隣のベンチで聞いていた結衣が、思わずつぶやく。
「……なんでこんな下手なのに、毎日練習してんの?」
奏太は鍵盤を見つめたまま、小声で答える。
「……誰かに聞いてほしいからかな」
「へ、変なの」
結衣は少し赤面してそっぽを向いた。
その瞬間――
空からゴゴゴゴと音がして、光の粒が落ちてきた。
「流れ星?」
「いや、隕石だろこれ!俺の演奏で世界終わるの!?」
ズドーン!!
駅の近くに巨大クレーター。
そこからUFOが半分突き刺さるように落ちてきた。
「マジで俺の音が地球破壊兵器扱いかよ……」
「笑えないんだけど」
ガチャッ。
UFOの扉が開き、青い宇宙人がよろよろ出てくる。
「ウゥ……アイス……アイスを……」
「え、遺言それ?」
ドサッ。宇宙人は手紙を落として倒れた。
奏太と結衣が覗き込む。
そこには乱れた文字でこう書かれていた。
《仮死状態。蘇生するにはUFO内の冷蔵庫にあるアイスクリームを与えよ。ただし鍵が必要。本国にメロディで連絡すべし》
「いや説明丁寧だな!」
「……これ、流れ星が残した手紙みたいだ」
「急にお題回収すな!」
よく見ると手紙の下部にさらに追記が。
《冷蔵庫はUFOコックピットの床下にある。
ただし鍵は……本国に忘れてきた。すまん》
「忘れてきたのかよ!」
「雑すぎる謝罪だね……」
「でもメロディって、俺が弾くの?」
「他に誰がいるのよ」
「俺の演奏でまた墜落するんじゃ……」
手紙の横には、星座みたいな謎の記号が並んでいた。
「これ……鍵盤の位置じゃない?」
結衣がのぞき込み、「あ、これオリオン座の並びだ!」と指差す。
「ほんとだ!……で、オリオン座ってどこから始まるの?」
「知らんのかい!」
「ド、ミ、ファ……いや違うか?」
奏太が弾くたびに、遠くのUFOがグラグラ揺れる。
「やばいやばい、慎重に……」
「ちょっと!近所の犬が遠吠えしてるんだけど!」
「ごめんごめん!」
「今ので街灯ひとつ倒れたよ!」
でも焦るほどに音を外し、電車の警報が鳴り響く。
ようやく暗号を解き、メロディを奏でた。
すると空が一斉に光る。
「わぁ……流れ星がいっぱい!」
「いや全部、隕石型UFOだぞ!?」
ドン!ズドン!ボン!
駅前があっという間に更地になった。
「やばいやばい!駅前消滅してる!」
「大丈夫、ほら……着陸っぽい」
「更地にしといて着陸とか言うな!」
次々と降りてきた宇宙人が列を作り、
「鍵忘れたんだ、貸して」
「俺も」
「自分も」
と騒ぎ始める。
「お前ら毎回忘れてんのか!」
「アイス星人って、IQ低すぎない?」
やっと鍵をもらって冷蔵庫を開けると――
奏太はコックピットの床板をガコッとこじ開け、隠された冷蔵庫を引っ張り出した。
中にはスーパーカップ(半額シール付き)がひとつ。
「……なんか庶民的」
「これのために駅前更地にしたのか」
よく見ると、手紙の追記に小さな文字でこう書かれていた。
《地球産のバニラは、宇宙では“生命の霊薬”とされる》
「そんな理由あんの!? コンビニで買えるんだけど!」
「いや、宇宙的には超レアなんでしょ……」
蘇生アイスを食べた宇宙人はむくりと起き上がり、
「うっま!!」
と叫んだ。
「感想それ!?」
「死にかけてたよね今!」
すると復活した宇宙人が、にこやかに言った。
「いやぁ、間に合ってよかった! 今ウッツミーマートでバニラ味がセールやってるからね」
「セール狙いで来たの!?」
「しかも期間限定の“キャベツ&ニラ味”も買いに来たんだ」
「絶対まずいでしょそれ!!」
「いや今、俺らの惑星で“健康食品ブーム”なんだよ」
「ブームで来るなよ!!」
宇宙人は胸を張って言い直した。
「……でもな、奏太。君の演奏、最高だったぜ!」
その瞬間――奏太の和音がまた外れる。
宇宙人「うっ……!」バタッ。
「また死んだーーー!!」
「無限ループじゃんこれ!」
結衣は笑いながら言った。
「……でも、あんたのピアノ、なんか面白いから好きだよ」
「嬉しいけど! 地球規模で迷惑なんだよ!!」
夕暮れの駅に、今日も下手なピアノが響き渡るのだった。
――そして数日後。
駅前の更地は「流れ星ピアノ名所」として観光地化され、
奏太の演奏は地元名物になってしまった。
「いや俺の黒歴史を名物にすんなーーー!!」
あとがき
「3つのお題に空想のひらめきを」に参加させていただきました。
今回のお題は 流れ星の手紙/鍵のかかったアイスクリーム/夕暮れの駅ピアノ です。
みかんさんのお題と言えば「リオの物語」なんですが、今回は「流れ星の手紙」にビビッと来てしまい、どうしても宇宙人を出したくなりました。
リオの物語に宇宙人は出てこないだろうと思ったので、独立した短編に挑戦です。
最初に思いついたのは、
「アイスクリームの鍵を解くのにピアノを使う」
「そのピアノのヒントをくれるのが手紙」
――じゃあその手紙を誰が持ってくるの? となったら、もう宇宙人しかいないですよね。
勢い重視で、だいぶギャグに振った作品になりました。
舞台は実は栃木県宇都宮。
「第七隔離地区」を岩手に置いたのと同じで、宇都宮ってどうしても「餃子」のイメージしかなくて(笑)。
そこから ウッツミーマート や キャベツ&ニラ味 が生まれました。
ちなみにウッツミーマートは完全な架空の店なので、宇都宮を探しても出てきません。
今回はそんな感じのノリで書きました。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます!
🎹宣伝パート
もし「下手くそピアノ」で宇宙人を呼び寄せるドタバタを楽しんでいただけたなら――
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連載中の 『配達員ろること2号』 では、
UFOの冷蔵庫をこじ開ける代わりに、マンションのオートロックや謎仕様のインターホンに挑んでいます。
ある意味こちらも“地球規模で迷惑なミッション”かもしれません。
さらにXでは、フードデリバリーの日常ネタや、小説の更新、AIイラストを発信中。
「今日は鍵が開かない冷蔵庫より、鍵が開かないマンションに泣かされた」なんて話も飛び出します。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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