配達員ろること2号 第4話『エレベーター点検中』

第4話『エレベーター点検中』
「……あ、ここか。防災センター寄らなくていいマンションだ。ラッキー」
ろるこはチャリのスタンドを立て、スマホをちらっと確認する。
配達先は1803号室。18階。
面倒な鍵発行もない“当たりマンション”。
「これなら昼ピ終わる前にあと1件いけるじゃん……」
チャリをエントランス脇に停めてロックし、バッグを背負い直す。
オートロックの呼び出しもスムーズ。
このままエレベーターに乗って18階まで――
『本日、エレベーター点検中です。再開予定:13:00』
「は?」
スマホの時計を見る。12:53。
(……まだいけるか……?)
そのとき、管理人が声をかけてくる。
「あ、配達の方? あと5分くらいで終わると思いますよ」
(5分待ってたら、昼ピ終わっちゃうじゃん……)
「……行きます」

バッグの肩紐をぐっと締めて、非常階段のドアを押し開けた。
1階、2階、3階――前半はまだ脚が軽い。チャリ稼働で鍛えてる分、足取りも安定してる。
(いけるかも、って思った私がバカでした)
6階、7階――ふくらはぎが重くなる。
乳酸がたまりはじめ、階段を踏む足がだんだん沈む。
10階、11階――踊り場で呼吸を整える時間が、じわじわ増えていく。
ピロリン。
スマホが鳴った。
ろるこはうんざりしながらポケットを探る。
画面には、高単価の案件。
しかもピック距離も悪くない。
(くっそ、今じゃなければ……)
(……でも、まだドロップに時間かかるし)
ろるこは悔しそうに、✕ボタンを押した。
「泣くわ……」

15階、16階――手すりを頼りに、もはや無心で登る。脚が棒。階段の段差が壁みたいに感じる。
ようやく18階の踊り場に到着。
インターホンの前で、一度深く息を吐く。
「……ピンポン」
ドアが開き、中から年配の女性が顔を出す。
「あら、ごめんなさいね〜、エレベーター止まってたでしょ?」
(知ってたんかい……)
ろるこは無言で会釈し、商品を手渡した。

マンションの外。
チャリの横に腰を下ろして、ろるこは足を投げ出す。
額には汗、背中にもじんわり。もう昼ピは終わっていた。
「……昼ピ、終わったわ……」
そのとき、影が差す。

顔を上げると、2号が立っていた。
手には、小さなコンビニ袋。
何も言わず、その袋から湿布を1枚取り出し、ろるこの前に差し出す。
「……まさか、買ってきたんすか?」
2号は何も言わず、それだけを置いて一歩、後ろに下がる。
ろるこはそれを見つめて――ふっと笑った。
「……早く言ってよ」
湿布を受け取り、チャリに寄りかかる。
「いやマジ、筋肉痛確定なんですけど……」
2号はそのまま、背を向けて歩き出す。
言葉はなかった。
でもそれで、十分だった。

あとがき
これは素人。
このひとことにつきます。
僕だったらエレベーター点検中だったら、ギリ6階ぐらいまでなら……まぁ、行くかもしれませんが、
年齢や体力的なことを考えると、それ以上になるとマジで回復に半日かかる。
だからサポートに連絡してこう言います。
「エレベーター止まってて届けられないっすね~」
そしてキャンセルしてもらいます。
しかもこの話では、注文者が点検中なのを知ってて注文してるわけで、完全なる確信犯。
ちょっとした悪意まで感じる。
これはもう、キャンセルされても仕方ない案件です。
……でも、ろるこはいい子だから頑張っちゃう。
ピュアな新人配達員ムーブ。そう、かつての僕もそうでした。
何気なく配達に行ったら、エレベーター点検中。11階。
「は?」ってなるよね。
でもピュアだった僕は、心の中でありったけの暴言を叫びながら階段を登りました。
それだけが原動力でした。
汗だくになって11階到着、タオルで汗拭いて、呼吸整えてインターホンを押す。
「あ、遅かったですね〜」
……なんだと……?
心を殺して笑顔で渡しました。
ドアが閉まり、階段で降りる。
1階に着くと、エレベーターが普通に動いてる。
こうしてまた、親切な配達員が1人減っていくわけです。
で、今回もう一つのろるこの素人ムーブ。
途中で鳴った高単価案件、取れよ。
いやまあ、気持ちはわかるよ。
「今受けたらこのドロップ遅れるかも…」とか、
「キャンセルしたら迷惑かも…」とか考えちゃうの。
昔の僕もそうだった。
お客さんに迷惑かけたくなくて、
鳴った案件スルーしたり、わざわざキャンセルしたこともあった。
でもね、そういうのって、Uber側も注文者側も織り込み済みで案件飛ばしてくるんです。
こっちが「迷惑かな?」とか考えた時点で負け。
そんなことまで考えてたら食っていけないんです。
だから僕は今なら取る。
2号なら、取ってる。
というわけで、今回の話は“ろるこの未熟さ”を描いた回でもあります。
ただ、だからこそ、そこに2号の湿布が効く。
次に同じ状況が来たら、ろるこはどうするのか。
その答えは、きっとすぐにまた描かれるはずです。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
いいなと思ったら応援しよう!
無理のない範囲で応援いただけたら嬉しいです。
チップはnote更新や資料費にあててます。
読んでもらえるだけでもありがたいっす。