スピノザ。神という名の自然。第1回
スピノザという不思議な哲学者。
だからこそ、努力は必要だ。
私は、【絶望】というキーワードから、スピノザという名の不思議な哲学者と巡り合うことができました。
まず、このスピノザについて、ある小説をご紹介します。
それが、夏川草介先生の著作『スピノザの診察室』です。
もちろん、この小説には、スピノザ自身は登場しません。
しかし、スピノザの思想が、この小説の根底に流れています。
本文の中から、スピノザについての一文を抜粋いたします。
こんな希望のない宿命論みたいものを提示しながら、スピノザの面白いところは、人間の努力を肯定した点にある。
すべてが決まっているのなら、努力なんて意味がないはずなのに、彼は言うんだ。
”だからこそ”努力が必要だと。
不思議な文章です。
すべてが決まっているなら、努力しても仕方がないのに、スピノザは、「すべてが決まっているからこそ、努力が必要だ。」と訴えます。
希望のない宿命と努力の必要性とは、矛盾する考えのような気がします。
しかし、この短い文章の中にこそ、スピノザ哲学の真髄が秘められているのです。

スピノザとは。
スピノザ、本名・ベネティクトゥス・デ・スピノザは、17世紀のオランダの合理主義のユダヤ人哲学者です。
44歳で亡くなるまで、教会から破門され、レンズ磨き職人として生計を立てていたという苦労人です。
著作についても、禁書とされたり、未完に終わったり、代表作の『エチカ』でさえも死後に刊行されています。
彼の思想や著作物が見直されて改めて研究されることになるのは、彼の死後100年以上が経ってからでした。
つまり、今では哲学者として認知されていますが、スピノザ本人が生前中は、ただのレンズ磨き職人だったのです。
多くの非難や迫害を受けながら、高度な技術と集中力を要してレンズを磨きながら、自分の考えを曲げることなく、ただひたすら自分の考えをクリアにしていったのです。
スピノザに関する逸話として、興味深いものがあります。
『真珠の首飾りの少女』で有名なフェルメールの作品に、『天文学者』という絵画があります。
一般的に科学者アントニ・ファン・レーウエンフックを描いたとされるこの絵画のモデルは、実はスピノザだったという説があるのです。

スピノザは、哲学者とされていますが、実際は、科学者とか数学者として認識した方がわかりやすいように思います。
現に、虹、光学についての論文『虹の代数学的計算』があります。
レンズを磨くことにより、虹や光についても、様々な思考を繰り返したのでしょう。
『エチカ』という倫理。
彼の代表作『エチカ』は、数学的な要素に溢れかえっています。
ちなみに『エチカ』とは、倫理学という意味を持っています。
数学の本のように、定義が示され、公理・定理・証明が延々と続くのです。難しい言葉でいえば、幾何学的秩序に従って論証されているということになります。
数学を苦手とする私にとって、まったく相容れないものでした。
しかし、國分功一郎先生の『はじめてのスピノザ』に出逢い、ようやくスピノザの主張が理解できるようになりました。
なぜ、スピノザは、幾何学的秩序に従って論証するという手法で、『エチカ』を書き上げたのでしょうか。
スピノザの時代、神は絶対的な存在であり、教会勢力は、とても強力でした。
彼が教会から破門されたのは、彼の主張が、教会の主張と相反するものだったからです。
そのような環境では、おそらく、毎日のように、さまざまな非難やいろいろな質問を受け続けたことでしょう。
そのため、スピノザは、幾何学的な手法を採用することにより、さまざまな問題提起に対して屈することなく、自己の感情に左右されることなく、理路整然と、根拠と証明を進めていったのでしょう。
『エチカ』には、彼の並々ならぬ信念と努力が感じられます。
さわやかな風。
しかし、私がスピノザに心惹かれるのは、その信念と努力が重たく感じられない点です。
彼の言葉の数々には、現代を生きる私たちにも相通ずるモノが感じられます。
完璧な合理的な主張を繰り広げているはずなのに、不思議な温かみが伝わってくるから不思議です。
私は、スピノザの存在自体が、何か、さわやかな風のような爽快さを感じるのです。
彼は、レンズと自分の哲学を磨くことに、喜びを得た毎日を送っていたのではないだろうか。
さまざまな逆境の中でも、真実を追い求める努力を続け、その努力の大切さを認識していたのではないだろうか。
変えることができない宿命の中で努力することが、人間にとっての、本当の意味での幸福であるという境地にたどりついたのではないだろうか。
スピノザが追い求めた真理を、私なりに解釈して、これから、みなさんにお伝えしていこうと思います。
スピノザの主張が、さわやかな風が流れているように感じていただけたら、幸いです。
それでは、また、お付き合いください。
このたびの画像につきましては、【みんなのフォトギャラリー】から、マイ ∴ マイタカのマイさんの作品を使わせていただきました。感謝申し上げます。ありがとうございました。
https://note.com/imakioa/n/ne8b0097034cb
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