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メンヘラ彼女と別れるために、女装した話第1話:北千住マルイのパステルで会った女

※ 実話です。登場人物の一部は脚色しています


三十代半ば、僕は底辺カメラマンだった。

仕事と呼べるかどうかも怪しい撮影を細々とこなしながら、狭いアパートで暮らしていた。そこへ一通の依頼が来た。「私小説を、写真で表現してほしい」。

待ち合わせは北千住マルイの中にあるパステルだった。依頼主は三十代前半の女性。身長は百七十五センチほどで、僕よりも頭一つ分高い。どこか人を食ったような、掴みどころのない顔をしていた。会った瞬間から、普通ではないと感じた。

彼女の私小説には、重い過去が書かれていた。昔の同棲相手との間に子供ができ、腹を殴られて失った。それ以来、子供が作りにくい体になったという。救いようのない話だった。僕はそれを写真にしようとしながら、気づけば彼女と付き合っていた。

関係が始まって間もなく、彼女は僕のアパートに入り浸るようになった。毎朝、バイト先へ「今日も休みます」と連絡を入れる。三十を過ぎた大人が、毎日のように仕事を休む。それが当たり前の日常になっていった。


お台場イルミネーション
お台場イルミネーション


ある夜、お台場のイルミネーションを見に行った。帰り道、彼女が「ふぐが食べたい」と言い出した。新橋まで出れば店はある。ただ僕の財布には、そんな余裕はなかった。「今度にしよう」と諭して、新橋のパスタ屋に入った。

パスタが来たところで、彼女が泣き出した。

「ふぐ食べたかった。貧しいのがつらい。パスタだって、チーズを追加でたくさんかけたかった。でも貧しいから、できない」

泣きながら言う。チーズの追加は百円か二百円の話だ。僕は黙って聞いていた。

その後、彼女はスターバックスでクリームをたっぷり乗せたホットチョコレートを頼んだ。当然のようにおごらされた。チーズを追加する金はなくても、スタバのクリーム増しを頼む金はある。そういう人だった。

決定的な瞬間は、ある休日の午後に来た。

二人で部屋にいると、男友達から電話がかかってきた。「彼女がいるから」と短く告げて切った。すると彼女が、静かな声で言った。

「その友達に、押し入れに籠もって覗いていてほしい。五千円払うから」

真顔だった。あまりにリアルな提案だった。僕はそこで、静かに別れを決意した。

ただ、正面から切り出すのが怖かった。彼女の過去を知っている。感情の振れ幅も知っている。何が起きるかわからなかった。


女性ものの下着

だから僕は、作戦を立てた。

しまむらへ行き、女性ものの下着と衣類をいくつか買った。それをタンスにそっと忍ばせた。そして次に彼女が部屋に来たとき、さりげなく引き出しを開けて見せながら言った。

「実は、女装が好きなんだ。一緒に服、選んでくれない?」

彼女の顔が、見る見る変わった。それきり連絡は来なかった。

作戦は成功した。
ただ後になって、ふと思うことがある。あの瞬間、タンスを開けながら、なぜか少しだけ、清々しかった。それが完全な嘘だったのかどうか、今でもよくわからない。

第2話へ続く


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