「旦那が浮気してるんです!」(ユウコの場合)|深夜0時の鑑定室⑪|電話鑑定士・深鈴
【相談内容】
深夜の待機は、少しだけ空気が違う。
依頼がまばらだったので、本を読みながら待機をしていると、鑑定依頼のコールが鳴った。
新規の依頼者だった。
「こんばんは、深鈴です。今日はどうなさいましたか?」
電話の向こうの彼女は、ひどく興奮していた。
息が荒く、言葉が前のめりに飛んでくる。
「旦那が浮気してるんです!」
私は短く相づちを打ちながら、話を聞いた。
すると彼女は、疑わしいと思っている旦那の行動を、矢継ぎ早に並べ始めた。
「テレビ見ながら、スマホ見てニヤニヤしてるんです」
「一緒にいても、なんか気がそぞろで」
「最近、明らかに様子がおかしいんです」
「こういうのって、やっぱり女がいるってことですよね?」
私はひとつずつ聞き、
それが本当に浮気の兆候として強いのか、
ただの不安が膨らんでいるのかを鑑定しながら整理していった。
しばらくやり取りが続いたあと、
彼女は少し落ち着いた声で言った。
「わかりました。私も疑いすぎたかもしれません。」
少し安心したようで、声にも明るさが戻っていた。
私はそこで、通話が着地したのだと思った。
でも、その直後だった。
彼女は、「ふぅ…」と一息つくと、
「そういえば言い忘れてたんですけど」
くらいの軽さで言った。
「ま、私も上司と浮気してるんですけどね」
私はつい聞き返してしまった。
「え?」
そのまま、電話は切れた。
残されたのは、ついさっきまで“旦那に裏切られているかもしれない妻”として話していた人が、最後の最後で、自分も同じことをしていると置いていった、その事実だった。
私は茫然としたまま、動けなかった。

📞1|被害者の物語に入る
このケースでまず見えるのは、視点の偏りです。
彼女の中では、相談の最初から最後まで、
自分は「裏切られるかもしれない側」でした。
だから旦那の行動は怪しい。
だから不安になる。
だから、その気持ちを整理したい。
ここまでは、よくある相談に見えます。
でも最後の一言で分かるのは、
彼女自身も同じ構造の中にいるということです。
それでも人は、自分の物語の中では被害者の位置に立ちやすいです。
自分の行動には事情があり、相手の行動には裏切りがある。
そうやって、心が壊れない説明を先に作ります。
このケースで起きているのは、事実の欠落ではありません。
自分が立つ物語の位置を、無意識に選んでいることです。
📞2|正しさは崩れても、怒りは残る
ここで気になるのは、彼女が自分も浮気しているからといって、
旦那への疑いや怒りが消えるわけではないことです。
むしろ、こういうケースでは感情はそのまま残ります。
なぜなら人は、「自分がしていること」と「相手にされること」を
同じ重さで感じないからです。
自分の浮気には事情がある。
寂しさがあった。
流れがあった。
理解されなかった。
でも相手の浮気は、ただの裏切りに見える。
ここにはかなり強い自己正当化があります。
けれど、それは珍しいことではありません。
人は苦しいとき、正しさより先に、自分が壊れない説明を探します。
このケースの怖さは、矛盾そのものより、
その矛盾が本人の中でほとんど問題になっていないことでした。
📞3|主語を戻す
このケースで鑑定士がやってはいけないのは、
正義の側に立って裁くことです。
「あなたも同じでしょう」と言いたくなる気持ちはあります。
でも、それでは相手は閉じます。
逆に、旦那の疑惑だけを一緒に追い続けるのも違います。
それでは依頼者の物語の中に巻き込まれてしまいます。
必要なのは、善悪の判定ではなく、
主語を戻すことです。
あなたは、何にそんなに反応していますか。
旦那の浮気そのものですか。
それとも、自分だけが裏切られる側に置かれたことですか。
そして、あなた自身の関係は、どう扱うつもりですか。
相手の行動だけを見ている限り、人はずっと被害者でいられます。
でも、自分の行動も同じ景色の中に置いた瞬間、物語は崩れます。
このケースでは、その崩れた時点からしか解決に向かいません。
▼鑑定士メモ(現場用)|旦那が浮気してるんです!(ユウコの場合)
見立て(構造):
依頼者は、相手の裏切りを疑う“被害者の物語”で相談を始めています。
しかし実際には、自分も同じ構造の中にいることを最後まで伏せていました。
そのため、このケースは「どう対応するか」より、最後に情報が出たことで全体像が反転するケースとして見る必要があります。
危険サイン:
相手の行動だけを強く問題化し、自分の立場に一切触れない
不安の整理というより、「自分が被害者であること」の確認に寄っている
疑いが晴れると急に落ち着く
最後に重要情報をさらっと後出しする
鑑定士がやりがちなNG:
相手だけを悪者として整理してしまう
依頼者の不安を整えることだけで完了したと判断する
後出し情報が出たときに、驚きや呆れをそのまま返す
この回から学べること:
このケースでは、最後に構図が反転しているため、その場で整理できることには限界があります。
そのため重要なのは、次に似たケースが来た時に、もっと早く違和感を見ることです。
たとえば、次のような点です。
相手だけを一方的に責めていないか
自分の立場や後ろめたさが完全に抜け落ちていないか
不安の整理より、“被害者の位置の確認”になっていないか
また、もしリピートがあった場合は、前回最後に出た情報を含めて、依頼者本人の立場と状況を確認し直す必要があります。
線引きフレーズ(1本):
「相手の行動だけでなく、ご自身の立場も含めて見ないと、この状況は整理しきれません」
着地(鑑定士側の目的):
この回では、その場で完璧に対応することよりも、
**“最後に構図が反転する依頼者がいる”**と知ること自体が学びになります。
次回、似たケースに出会った時に、被害者ポジションの強さと後出し情報の可能性を早めに見ることが目的です。
※本記事は、相談現場でよく起きる構造をもとにした再構成です。特定の人物・出来事とは関係ありません。
※現在は電話鑑定は行っておりません。
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