DaBabyが語るプロモーター経済学の闇
ショー1回50万ドルのアーティストを呼ぶために破産するプロモーターたち。DaBabyとWallo267が暴いた、ショービジネスの構造的陥穽とは。
DaBabyの全盛期、ショー1回のギャラは最大50万ドルだった。カレンダーは35万、37万5千、40万ドルの公演で埋まり、30万ドルの依頼すら断らなかった。プライベートジェットで移動し、ステージ衣装を脱ぐ間もなく次の会場へ飛ぶ。「1日100万ドルを稼ごうとしていた」とDaBabyは振り返る。
しかし、その華やかな数字の裏側で、アーティストを呼ぶために身の丈を超えた投資をし、静かに破産していくプロモーターたちがいた。プロモーターが有名アーティストを呼ぶために倒れる構造は、業界を殺したものの一つだと番組内で語られた。DaBaby自身も、全盛期のビジネス構造に問題があったことを認めている。Million Dollaz Worth of GameでDaBaby、Gillie Da King、Wallo267が交わした会話は、ショービジネスの華やかさの下に横たわる経済構造の歪みを浮き彫りにするものだった。
50万ドルの頂点と1350ドルの現実
DaBabyがMillion Dollaz Worth of Gameで明かしたショーギャラの数字は、ヒップホップのライブ経済に存在する凄まじい格差を映し出している。最高額は1回50万ドル。
それは一度きりの特例ではなく、40万ドル、35万ドルのショーが日常的にカレンダーを埋めていた時期の頂点だった。プライベートジェットで会場に乗りつけ、ステージ衣装すら脱がずに次の都市へ飛ぶ。ショーからショーへ駆け抜けるスケジュールの中で、30万ドルのオファーは「安い」部類に入った。だがDaBabyはそれすら断らなかった。
「金をテーブルの上に残すな。家に帰ってテレビでも見ろってのか?」。DaBabyの哲学は明快だった。すべてのショーには来てくれたファンがいて、リスクを取ったプロモーターがいる。その相手に応える姿勢が、プロモーターからの堅い信頼を生んでいた。「プロモーターからはいつもいいことしか聞かない」というWallo267の証言が、DaBabyの現場での評判を物語っている。
この数字の途方もなさは、Gillie Da Kingの体験と並べたときに一層際立つ。Gillie Da Kingがこれまでに受け取った最高のショーギャラは1350ドルだった。New York郊外の小さなカウンティフェアでのパフォーマンスである。そのうち50ドルは交通費と食費。移動手段は17ドルのメガバスだ。当時獄中にいたWallo267は、その金額を聞いて「すげえな。稼いでるじゃねえか」と感心していたという。業界の相場を知らなかったWallo267にとって、1350ドルは立派な収入に見えた。だが出所後に実際の市場を知り、「1350ドルなんて大したことなかった」と気づくことになる。DaBabyの50万ドルと比べれば、Gillie Da Kingの1350ドルは誤差にすら見えない。しかしGillie Da Kingはその1350ドルの経験を経て、今やトップアーティストたちに「ゲーム(知恵)」を授ける番組Million Dollaz Worth of Gameを築き上げた。ショーのギャラだけでは測れない価値が、この業界には存在する。
50万ドルと1350ドル。370倍以上の格差が、同じ「ヒップホップのライブショー」という市場の中に共存している。問題の核心は、この格差の中間に位置するプロモーターたちが、50万ドル側のアーティストを呼ぼうとする力学そのものにある。会場の収容人数、チケット価格、地域の購買力には明確な上限がある。しかし「あのアーティストを自分の街に呼んだ」という事実には、損益計算を超えた魅力が宿る。その魅力こそが、プロモーターを破滅に導く罠なのだ。
「有名人を呼ぶ」快楽がビジネスを壊す
Wallo267はプロモーターが破産する構造を明瞭に解剖した。
"A lot of promoters, they go broke because they be trying to do the famous shit over the business shit."
「プロモーターの多くは、ビジネスとしての判断より、有名な人間を呼ぶことを優先して破産する。」
自分の会場で過去最高の売上が25万ドルだと知っていても、DaBabyやMeek Millが全盛期にいるとき、ギャラとして15万、17万5千、20万ドルを支払おうとする。会場の総売上が25万ドルで、ギャラに20万ドルを払えば、残りはわずか5万ドル。そこから会場費、スタッフの人件費、機材、警備、保険を差し引けば、利益どころか赤字が確定する。しかしプロモーターはその計算を無視して契約書にサインする。
なぜか。Wallo267はその理由を「あの写真を買っている」と表現した。「俺がDaBabyを呼んだ」「俺がMeek Millを連れてきた」。その実績とアーティストとの記念写真が、プロモーターの自尊心を満たす。しかしビジネスは破綻する。Wallo267は「お前は2万ドル、3万ドルのアーティストのプロモーターなんだ。アーティストのせいにするな」と言い切った。身の丈に合ったアーティストをブッキングすれば、プロモーターは利益を出せるし、アーティストも仕事を得る。全員が潤う。しかし「大物を呼ぶ」という虚栄が、その健全な循環を壊してしまう。
5人の仲間から金を掻き集めてでもギャラを捻出し、大物アーティストを呼ぼうとするプロモーターが後を絶たない。その結果、全米各地で地方のプロモーターが次々と破産していった。Wallo267は解決策も示した。身の丈に合ったアーティストをブッキングすれば、プロモーターは利益を確保でき、アーティストも仕事を得る。「そうすれば全員が満足する」。だが「大物」への渇望が、その健全な循環を常に壊してしまう。
この問題がアーティスト側の責任ではない点を、Wallo267は明確にした。アーティストは自分の市場価値に基づいてギャラを設定しているに過ぎない。プロモーターが自分のビジネスの限界を正確に把握し、その範囲内で動けるかどうか。それは経営判断の問題であり、DaBabyのギャラが高いことが悪いのではない。問題は、「有名であること」そのものに、経済的合理性を超えた価値が付与される構造にある。「有名人を呼ぶ」という行為が、ビジネスではなく自己顕示の手段に変わったとき、プロモーターは破滅する。Wallo267の分析はその構造を正確に射抜いていた。
仲介者の壁が奪った信頼
DaBabyはプロモーターとの関係について、自らの痛恨の反省を語った。全盛期、プロモーターからの評判は良好だった。「プロモーターからはいつもいいことしか聞かない」とWallo267は証言している。DaBaby自身も依頼があれば必ず行く、金額の大小で態度を変えないアーティストだった。
しかし、すべてのプロモーターがDaBabyに辿り着けていたわけではなかった。問題は、DaBabyと外部の間に立つ仲介者にあった。全盛期、DaBabyはビジネス面で「ハンズオン(直接関与する形)」ではなかった。「すべての数字を自分に通せ。俺がイエスかノーか決める」という体制が整っていなかったのだ。その結果、プロモーターからのオファーが仲介者の段階で弾かれていた。
DaBabyはこの構造を率直に認めた。かつて連絡をくれたプロモーターの多くは、「DaBabyに断られた」のではなく、「DaBabyに話が届く前に仲介者に追い返されていた」可能性がある。DaBaby本人は6桁(10万ドル以上)のオファーを断ったことは一度もないと断言しているにもかかわらず、15万ドルを持ってきたプロモーターが「ふざけるな」と門前払いにされていたかもしれない。一方で、業界の風向きが変わりギャラが3万ドルまで落ちた後、同じ仲介者たちが「手を揉んで」待ち構えていたとDaBabyは示唆した。かつて高額オファーを一蹴した人間が、今度は3万ドルのオファーを通して仲介料を得る。全盛期には「ふざけるな」と追い返し、下降期には安値で仲介する。プロモーターもアーティスト本人も知らないところで、仲介者だけが常に利益を手にしている構造が浮かび上がる。
現在のDaBabyは、この教訓を血肉化している。すべてのオファーが直接自分に届く体制を構築し、金額の大小を問わず自分の目で判断する。DaBabyの実力を対等な立場で認めたASAP Rockyとの関係が示すように、仲介者を介さない直接の信頼こそが、業界における本当の支えとなる。
プロモーターの破産は、個人の判断ミスだけでは説明できない。「有名であること」に経済的合理性を超えた価値が付与される市場構造と、アーティストとプロモーターの間に入り込む仲介者の不透明さが絡み合い、地方の興行主たちを圧殺している。DaBabyとWallo267が40エーカーの土地で交わした会話は、ショービジネスの華やかさの裏にある、誰も語りたがらない経済の暗部を曝け出すものだった。この構造を知ったとき、あなたが次に見るライブの景色は変わるかもしれない。
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