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Ab-Soulの苦悩

この1週間ほど前、ちょっとだけ話題になった件。Ab-Soulのブッコミの件。

Ab-Soulの苦悩とレーベルの複雑な戦略

先日、TDE(Top Dawg Entertainment)所属のベテランラッパー、Ab-SoulがTwitterで自身の率直な思いを吐露し、ヒップホップファンの間で波紋が広がった。そのツイートは以下の通りだ。

SO, ACCORDING TO THE NUMBERS/ANALYTICS OR WHATEVER THE FUCC, A TOUR FOR ME HAS YET TO BE FINALIZED. “SOUL BURGER” DROPPED LAST NOVEMBER. IM NOT POINTING ANY FINGERS, BUT DAMN. I FEEL LIKE THAT WAS SOME OF MY BEST WORK. SOMETHINGS IN THE WATER FA SHO. THIS FEELS SIMILAR TO THE END OF PHYSICAL DISTRIBUTION, WHICH ULTIMATELY RESULTED IN THE FALL OF MY FAMILY OWNED RECORD STORE “MAGIC DISC MUSIC”. I SUPPOSE I SAY ALL THIS TO APOLOGIZE FOR THE DELAY TO ANYONE WHO ANTICIPATES SEEING IT PERFORMED LIVE. I DO HOPE TO SEE YOU SOON.

(「数字や分析、クソみたいなものによると、俺のツアーはまだ決まってない。“SOUL BURGER”(最新アルバムのこと)は去年の11月にリリースされた。誰かを名指しするわけじゃないけど、ちくしょう。あれは俺の最高の作品の一つだと感じてる。何かがおかしいのは確かだ。まるでフィジカル販売の終焉みたいだ、あれは結局俺の家族経営のレコード店『MAGIC DISC MUSIC』の崩壊を招いた。ライブでのパフォーマンスを待ち望んでいる人たちへの遅れを謝罪するためにこれを言ってるんだと思う。近いうちに会えるのを願ってる。」)

このツイートに対し、ファンからは様々な憶測が飛び交い、「TDEはAb-Soulを冷遇しているのではないか」という批判や、「Ab-Soulから予算を取り上げてDoechiiに使っているのではないか」といった声まで上がった。特に、同じTDE所属の若手アーティストであるDoechiiが積極的なプロモーションを受け、Capitol Recordsとのライセンス契約のもと手厚いサポートを受けているように見える現状と対比され、議論は白熱した。

しかし、Ab-Soulはその後、意図を明確にするための追加ツイートを投稿した。

TO BE CLEAR, THAT WAS NOT A JAB AT MY TEAM IN ANYWAY. EITHER THE GAME IS CHANGING(AS IT DOES AND WILL ALWAYS). OR I JUST DIDN’T CONNECT CREATIVELY. NONETHELESS, I CAN ADAPT. IM STILL WORKIN, STILL BLESSED, STILL MOTIVATED. CHURCH ON THE MOVE. ⛪️

(「はっきりさせておくけど、あれは決して俺のチームへの皮肉なんかじゃない。ゲームが変わっているのか(それは常に変わるものだけど)。それとも俺がクリエイティブに繋がれなかっただけなのか。とにかく、俺は適応できる。まだ活動してるし、恵まれてるし、モチベーションも高い。教会の移動だ。」)

この追加ツイートは、自身の不満が特定の人物やレーベルに向けられたものではないことを強調しつつも、「ゲームの変化」や「クリエイティブな繋がり」といった言葉で、現状への複雑な思いを滲ませている。

ファンからの批判と専門家による釈明:異なる契約構造が招いた誤解

Twitter上でAb-Soulへの同情やTDEへの批判が広がる中で、あるファンは「Ab-Soulのアルバムは8K(8000枚)しか売れていないのに、Doechiiはあなたより3K(3000枚)多く売り上げ、TDEは彼女を大々的に売り出すために多額の資金を投じている。あなたはTwitterで泣き言を言っているだけだ」と手厳しいツイートを投稿した。これは、アルバム販売数を単純比較し、レーベルのリソース配分に対する不満をぶつけた典型的な例と言えるだろう。

しかし、これに対し音楽業界の専門家であるBrian Zisook氏が、TDEのレーベル戦略について詳細を解説したことで、状況の複雑さが明らかになった。彼によると、TDEは全てのアーティストに対して同じ契約形態をとっているわけではない。Ab-Soulの直近のアルバムは、TDEが完全にインディペンデントとしてリリースしており、DistroKidやTuneCoreといったディストリビューションサービスを利用しているという。つまり、メジャーレーベルのパートナーは関与していないのだ。

一方、Doechiiの場合は全く異なる。TDEは彼女のリリースに関して、Capitol Records(Universal Music Group傘下)とライセンス契約を結んでいる。このメジャーレーベルであるCapitolが、Doechiiのプロモーションやインフラ面での予算やサポートを提供しているのだ。

Brian Zisook氏はさらに、TDEがSZAとはRCA、Jay RockとはInterscopeといったように、アーティストごとに異なるメジャーレーベルとパートナーシップを結んでいることを指摘する。この戦略は、アーティストそれぞれの特定のニーズや目標に合わせて調整されており、もし特定のパートナーシップがうまくいかなくても、その影響はその契約を結んだ一人のアーティストに留まり、レーベル全体がリスクに晒されることを防ぐことができる。これは、TDEが柔軟性を保ち、必要に応じて方向転換できるための賢い方法なのだと説明した。

結論として、Doechiiのプロモーション予算はCapitol Recordsから出ているものであり、TDEがAb-Soulから資金を奪ってDoechiiに回したわけではない。両者の契約構造は完全に別個のものであり、単純に比較することはできないのだ。ファンからの批判は、この複雑なレーベル運営の実態を知らないことからくる誤解だったと言える。

Ray VaughnとAb-Soul:TDE文化の中でのそれぞれの現実

Ray Vaughnの最近のインタビューからも、TDEの内部事情やアーティストの状況は一様ではないことがうかがえる。Ray Vaughnは、TDEが作品の完成度を徹底的に追求するため、忍耐が必要なレーベルだと語っていた。同時に、自身のユニークな個性やユーモアを音楽で表現することの重要性を強調し、それが自身の強みであると認識している。また、同じTDE所属のDoechiiの急速な成功からインスピレーションを得ていることも明かしている。

一方、Ab-Soulに関するYouTube動画での議論からは、彼のキャリアが直面している課題が浮き彫りになる。「ラッパーズ・フェイバリット・ラッパー」と称されるほど高い技術を持ちながらも、アルバムのリリース間隔が長く、アルバム以外のプロモーション活動(フィーチャリング、インタビュー、SNS交流など)が不足していることが、彼の名前や音楽への市場の関心を低下させている要因だと指摘されていた。彼の音楽は技術的には高く評価されているが、Lupe Fiascoのように「高い技術を持ちながら広く受け入れられる」バランスをマスターできていないことも課題として挙げられている。

TDEはRay Vaughnのような若手アーティストには、彼の個性や今後の可能性を見込んで投資し、Doechiiのように市場の注目を集めているアーティストには、メジャーレーベルとの連携を通じて大きな予算とサポートを提供している。一方で、Ab-Soulのようなベテランアーティストに対しては、彼のスタイルやこれまでのキャリア、そして市場からのニーズに合わせて、より独立した形でのリリースを選択している。これは、決して彼を軽視しているわけではなく、彼の音楽の特性やファンベースを考慮した上での戦略なのかもしれない。

市場とのミスマッチ?高い技術と商業的な壁

Ab-Soulは、Kendrick Lamar、ScHoolboy Q、Jay Rockと共に、TDE初期の「ビッグ・フォー」としてレーベルの基盤を築いた重要なアーティストだ。高いラップ技術と哲学的なリリックで知られ、「ラッパーズ・フェイバリット・ラッパー」、つまり他のラッパーたちから特にリスペクトされる存在として評価されてきた。前アルバム『Herbert』では、これまでの内省的なスタイルから一歩踏み出し、より多くのリスナーに届くような、アクセスしやすいサウンドを試みた節が見られるとホストは評価する。

しかし、このような挑戦にも関わらず、なぜ彼のツアーは実現しないのだろうか。ホストは、TDEのような大手レーベルに所属していなくても、コアなファンベースを持つ独立アーティストが毎年ツアーを行っている現状を踏まえ、Ab-Soulが小規模なツアーさえできない状況に疑問を呈する。その背景には、彼の音楽がKendrick LamarやSZA、ScHoolboy Q、Sirといった他のTDEアーティストと比較して、一般的に「アクセスしにくい」部分が残っていることがあると分析される。アルバムの冒頭で、映画『8 Mile』のようなラップを聞かせるなど、彼の音楽には依然として熱心なヒップホップヘッズ向けの「Ab-Soulらしい瞬間」が多く存在するのだ。

市場の関心の低さを示す決定的な証拠として、ホストは最新アルバムの販売数の低さを指摘する。これは、アルバムに市場からの関心があまり寄せられなかったことを示している。アルバムリリースの間の長いブランクも、リスナーの関心を維持できなかった一因だろう。さらに、アルバムをリリースするだけでなく、その「周りの活動」、つまりフィーチャリングへの参加、積極的なインタビュー、SNSでの交流といったプロモーションが不足していたことが、彼の名前や音楽が新しいリスナーに届かない、あるいは既存のファンとの繋がりが薄れた要因だと分析される。Ab-SoulはSNS、特にTwitterでの発言が度々炎上したり、過去の発言が彼自身への皮肉として使われたりするリスクも抱えており、彼のTwitter利用を控えるべきだという意見もホストからは出た。高い技術を持ちながらも、商業的な成功や幅広い認知という点では苦戦している現状が浮き彫りになっている。

複雑な現実の中で進むアーティストたち

Ab-Soulがツアーができない現状に苦悩し、Twitterでその思いを吐露したことは、アーティストとしてのリアルな葛藤を示している。長年TDEの核として活躍してきた彼が、現在のレーベル内での立ち位置や、他のアーティストとの状況の違いに複雑な感情を抱くのは自然なことだろう。特に、彼の音楽が多くのリスナーに届きにくいという課題がある中で、プロモーションの戦略や予算が他のアーティストと異なることは、彼にとっては受け入れがたい現実なのかもしれない。

しかし、TDEがアーティストごとに契約形態やプロモーション戦略を変えるのは、変化の激しい音楽業界において、多様なアーティストを抱えるレーベルとしてリスクを分散し、柔軟に対応するための合理的な判断だと言える。全てのアーティストに同じアプローチをとることは、かえって効率が悪く、個々のアーティストの可能性を狭めることにも繋がりかねない。

Ab-Soulの現状は、高い技術を持つアーティストが、市場のトレンドやレーベルの戦略の中で、どのように自身のキャリアを切り開いていくかという課題を象徴している。複雑な現実の中で、それぞれの道を進むTDEのアーティストたちの今後に注目していきたい。

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