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泰夢(たいむ)のお話:80

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泰夢と華恋をつなぐのは一本の木の小枝。でも、それも折れそうで……
それでは、どうぞ!!

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 上と下がひっくり返った世界で、華恋(かれん)が見つめる。
 その先で曲がった小枝から小さな木のはへんがいくつかとんで、にぎっている手にビリッっとしびれるようなしんどうが伝わった。
 強くおなかに食いこんでいるワイヤーロープがいたかったけれど、それよりも、いまにも折れそうになっている木の小枝に、体がギュウッとちぢんで固まって冷たくなっていくような感じがして、こわかった。
(…………)
 ━━ビリッ、ビリッと、手に伝わってくる時間がどんどん短くなる。
 このまま小枝が折れたら、自分が手をはなしてしまったら、泰夢の手がすべったら……華恋の体はつり橋のワイヤーロープをクルリと回り、そのままつり橋の下へと真っ逆さまに落ちてしまうだろう。
 こわくて目をつぶってしまいたい。
 けれども、そうしたら本当に落ちてしまう気がして、できない。
 固くにぎる枝の先に、泰夢(たいむ)が見える。
 反対側のワイヤーロープにうでをのばしてつかまり、華恋を引っ張り上げようと歯を食いしばって、苦しいみたいにして頭をふって、まっかな顔で持っている全部の力をふりしぼっている。
 その顔は本気で、しんけんで、まっすぐだった。
(━━━━)
 目が……合ったような気がした。
 ほんの少しの間だったし、泰夢は全力でがんばっていたし、だから、これは華恋のかんちがいだったかもしれない。
 でも、その目は「だいじょうぶだから、オレが絶対に助けるから」と、そう言ってくれている気がした。
 体が固まって冷たくなるようなさっきまでの感じが少しだけゆるんで、そのかわりに、むねのおくの方がツーンといたく━━けれどもそれはとても心地いい━━なった。
 泰夢がこんなにもがんばってくれていて、そしてそれは自分を助けるためなのに、華恋はただじっとしている以外に何もできなくて……
 だのに、それを『うれしい』と感じている自分がいることに、華恋はひっそりと気付く。
 泰夢が自分のために、こうしてがんばってくれることが━━これはとてもわがままだし、今はそんなじょうきょうじゃない、ということも分かっているのだけれども━━とてもうれしく、たのもしく、ほこらしいと感じている自分が、たしかに心のなかにいる。
 目の周りが熱くなって、見ている逆さまの泰夢のすがたがぼやけていくけれども、それを止めることも、手でふくこともできない。
 泰夢くん……泰夢くん……と、心の中で何回も名前をよびながら、にぎった小枝に自分の想いをのせて力をこめる。
 ━━バキンッ、というひときわ大きな音がして、華恋の手に強いしんどうが伝わった。
 泰夢と華恋、二人をつないでいた小枝が真っ二つに折れた。
「━━━━っ!」
 声にならない声が出た。
 フワっと体が軽くなり、そのまま前へ華恋の体が回る。
 つり橋の中から外へ、そして、上から下へ、ゆっくりと落ちていく。
(泰夢くん……ありがとう)
 熱くなった目を華恋がそっととじる。
 たまっていたたくさんのなみだがあふれて、散っていく。
 父が華恋のために選んでくれた大切な麦わらぼうしを、ギュッと強く、強くつかんで、そして━━
「━━華恋ちゃんっ!」
 泰夢の声が聞こえた。
 それと同時に、強い力で体が止まった。
 小枝を持っていた手のひらに、泰夢の温かくてしっかりとした手のひらが重なり、グンと強く引き上げる。
 目を開けると、おこったような泰夢の顔がすぐそばだった。

 木の小枝を持っていた手が急に軽くなり、それを必死に引っ張っていた泰夢の体が、大きく後ろにのけぞりそうになる。
 つり橋から前のめりになって華恋が落ちていくのが見えた。
(━━ダメだっ!)
 華恋をつかまえなくちゃ━━と考えるよりも早く、ワイヤーロープをつかんでいた手をはなし、足の下のわたり板をグッっと力いっぱいにふんで、華恋の手を強くにぎる。
 手のひらと手のひらを重ねて、こっちにもどってこいと、ありったけの力で後ろに引っ張る。
(絶対に……助けるっ!)
 もし落ちていく華恋を支えきれなかったら、自分もいっしょに引きこまれてしまったら……という考えは、泰夢の中にはなかった。
 華恋を助ける、ただそれだけだった。
 体は華恋よりも泰夢の方がすこし小さかったけれども、それでも絶対に助けられると、泰夢はそう信じていた。
 橋の真ん中でこしを落としてふんばっている泰夢と、ワイヤーロープから前のめりに回って落ちようとしている華恋の体とがつりあって、二人の動きがピタリと止まった。
「……泰夢くん」
 手を強くにぎり返す華恋に、泰夢の手を強くにぎって返す。
「華恋ちゃん……」
 おたがいの名前を小さくよび、目をあわせて強くうなずく。
(━━いくよ)
(うん━━)
 にぎっている華恋の手に、泰夢がもう一方の手も重ねる。
 そうしてそのまま、両手でしっかりと華恋の手をつかむと━━うおおぉ!っと力をこめて思いっきり後ろに引っ張った。
 合わせるように、華恋も自由になる足を上下にふって、つりあって動かなくなったバランスをなんとか橋の内側へもどそうとする。
「いっせーのっ……
 ━━よいしょーっ!」
 二人の力がこもった声が重なって、華恋の体がゆっくりと、でも確実につり橋の内側へとかたむいていく。
 そして━━
 泰夢の一番大きな気合いのかけ声といっしょに華恋の体が後ろにクルリと回り、ワイヤーロープからわたり板へと落ちた。
 つり橋がグワンと一度大きく下にたわんで、そうしてそれもだんだんとおさまっていく。
 川の流れとふきぬける風の音が、あたりにもどってくる。
「…………」
 わたり板にドッシリとしりもちをついた泰夢の、そのうでの中で華恋がそっと顔を上げる。
 よかった……と、泰夢がおだやかに笑う。
 それはとてもあたたかくて、どこかなつかしくて━━そうして華恋は前に見たことがある笑顔といっしょだ、と思った。
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華恋も泰夢もなんとか無事! くれぐれもつり橋は正しく渡りましょうね!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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