泰夢(たいむ)のお話:101
音を立てて回り出したドアノブに、ますます緊張する泰夢です……
それでは、どうぞ!!
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目の前で右に左に、大きな音をさせながら回るドアノブに泰夢(たいむ)の口から小さな声がもれる。
あやしいヤツがドアの向こうにいるから……と、ちょっとの音でも立てないように全身ピリピリモードで行動していなければ、たぶん悲鳴のひとつでも出てしまったと思う。
ガチャンガチャンという音に混じって、
「やっぱり、カギがかかってんな……。
どっか、そこら辺にカギがかくしてありゃ、話がはえぇんだけど。
……クッソ、カギあなに何かつっこんでみるか?」
と、あやしいヤツがしゃべる声が聞こえた。
家の中に入ろうとしているのはまちがいないようだった。
(……こ、こっからはなれなきゃ!)
そーっと音を立てないように、息をとめて、体の動きもゆっくりにして、泰夢がジリジリとドアからはなれる。
少しでも早く動いたら、このドアの向こうにいるヤツに気付かれてしまうような気がした。
のぞきあなを見ていた格好のまま、つま先からかかと、また反対側の足のつま先からかかとへと力を入れていって、一歩ずつていねいに後ずさりしながら、ドアからはなれる。
小学校の昼休みに、入ってはいけないと決められている理科室で遊んでいた時、急に理科の先生がもどってきて、ほかの友だちはさっさとにげたのに自分だけ一人にげおくれてしまって、長くて大きな実験用つくえのかげにかくれながら先生の目をぬすんで、なんとか理科室の後ろの出入り口からぬけ出した時のことを、泰夢はふと思い出した。
でも、今のきんちょうはそれよりも大きかった。
通い慣れた小学校の、授業で時々使う教室で、学校の先生に見つからないようにするのはまだ安心がある。
もし見つかってしまっても、せいぜいおこられるぐらいで、場合によっては反省文を書いたり、どこかのそうじをさせられたりする事はあるだろうけれども、でも、それぐらいの話だ。
(…………)
しかし今はちがう。
ここは華恋(かれん)の家だし、外にいるのはよく分からない大人の男の人で、そしてたぶんドロボウかなんかで、さらに家の中に入ろうとしてきているのだ。
だから━━
「泰夢くん、なにしてんの?」
と、後ろから声をかけられた時には、本当にそのまま心ぞうがつぶれてしまうのでは無いかと思うぐらいにビックリした。
とっさに両手で口をふさいで、なんとか声は出さなかったけれども、自分でも体がビクンッとはねたのがわかったぐらいだった。
その泰夢の様子を見て、華恋が首をかしげる。
華恋は、泰夢はてっきりまだリビングにいて、お仏壇(ぶつだん)に手を合わせているか、もうそれにはあきてしまって、部屋の中を見て回っているんだろうと思っていた。
ところが実際の泰夢は、げんかんのところにいて、まるで動画配信なんかに出てくるホラーゲームの主人公みたいに、ゆっくりとしたしのび足で後ずさりをしていたのだ。
「……華恋ちゃん!
シーっ! シーだって!」
泰夢はあわてて華恋にふりかえり、なるべく小さな声でいいながら、ひとさし指を口の前に当てる。
「シーっ?
━━シーって、いったいなに?」
かたにかけていたいつものトートバッグを、キッチンのテーブルの上にドサリと置くと、華恋はこしに手を当てて泰夢の方をじっと見る。
こういう変な動きをしている時の泰夢は、何かをやらかしていたり、何かをやろうとたくらんだりしているのがいつもなのだ。
泰夢も最近は少しずつそれがわかってきていて、ちょっとまゆ毛を上げてキリッとした目でこっちを見てくる華恋に「そうじゃないんだよ、これを見てやってくれよ……」と、心の中で言いながら自分の後ろ、げんかんのドアノブを指さす。
「……?
げんかんのドア…が、どうしたの?」
泰夢の気が付かない間に、さっきまでさわがしかったノブのガチャンガチャンはすっかりと止まっていた。
「━━え、あれ?
いやいや、マジでちがうんだってさ!
さっきまでさ、ドアんとこのノブがグルグル回ってて……」
ジーッとこっちを見てくる華恋のけんまくに、思わずドアの方をふり返って目をこらして見てみるけれども、もうノブはうんともすんとも言わず、自分たちが入ってきた時と同じ様に、ただのドアの一部になっていた。
(えぇー、ウソだろ?
だってさ、げんかんの外にはあやしいヤツがいてさ、
でもってさ、ソイツがガチャガチャして入ろうとして来てて……)
すっかりと静かになったげんかんに、泰夢が口をあんぐりとさせていると、そのドアの向こうから、
「ちぇっ、いるのかよ……」
と、はきすてるような声が聞こえ、そして続けてドンドンドンとドアが強くたたかれた。
「━━おーい、いま音がしたぞ!
なぁ、華恋ちゃん……そこにいるんだろ?
ちゃーんとわかってんだからよぉ、ちょこっと開けてくれよ!」
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玄関の外にいる怪しい男は、どうやら華恋を知っているようです……
では、次回もお楽しみに!
小林るい
