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泰夢(たいむ)のお話:102

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ドアの向こう側にいる人物は、どうやら華恋の知り合いのようですが……
それでは、どうぞ!!

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 それまで静かだったキッチンに、げんかんのドアを何度も強くたたく音がひびいて広がり、そこに大きな男の声が重なる。
「おい……いるのはわかってんだぜ?
 下んトコに車がねぇってことは、マリアさんいねぇんだしよぉ、
 だったら、ソコにいんのはダレだって話だろ?」
 ふつうの大人よりはちょっと高めの、その男の声に華恋(かれん)の表情がみるみるくもる。
 外にいるハデなアロハシャツを着た男が言っていた『マリア』とは、華恋の母親の名前だった。
 せなかごしにその声を聞いた泰夢(たいむ)も、自分の祖母と華恋の母親が話している時に、祖母が何度かそうよんでいるのを覚えていたので、それが華恋ちゃんのお母さんの名前だということはわかった。
(……ってコトはさ、
 外にいるアロハシャツの人ってさ、
 華恋ちゃんたちの知り合いってことか?)
 だとしたら、どうやらドロボウの類いではなさそうで、その部分では泰夢は少し安心した。
 もし、家の留守をねらった強とう犯だったりしたら、今すぐに一一〇番に通報してけい察のおまわりさんたちに来てもらいたかったし、それにパトカーが来るまでのあいだは、なんとか犯人を中に入れないようにしなくちゃならないと思っていたからだ。
 ひとまずそれがなくなったのでちょっと気持ちが軽くなるけれども、キッチンのところでトートバッグのかたヒモを強くにぎっている華恋の、暗くしずんでいる顔を見ると、そうも言っていられないような気がした。
「……なぁ、華恋ちゃん。
 外にいるのってさ、もしかして知ってる人なの?」
 ドアの向こう側が少し落ち着いたすきに泰夢がそばまで行くと、華恋はホッとしたような顔で泰夢を見る。
「うん……
 お母さんの━━その……、
 知り合いの人で、お店で会ったって言ってて……」
 いつものハキハキとした華恋とはどうも様子がちがっていた。
 顔はうつむきがちでせなかも丸くなっていて、泰夢にはいつもよりも華恋が小さく見えた。
 その原因はやっぱり、あのアロハシャツの男の人なのだろう。
 母親の知り合いだと華恋は言うけれども、それが華恋にとって『良い人』であるとは限らない。
 泰夢も親せきの中で苦手な人がいる。
 それは母親の弟で、泰夢から見たらおじさんにあたる人なのだけれども、この人のことが泰夢はきらいだった。
 父親とは年れいがはなれていて、まだ結こんをしていなくて、電車で一時間ぐらいのところに一人でくらしている。
 会社は泰夢の住んでいるところの近くらしく、仕事がいそがしくて自分の家に帰る電車がなくなったり、父親と会ってお酒をのんだりした時に、よく泰夢の家にとまりに来る。
 そんな時はだいたい、泰夢の部屋のゆかに布団がしかれ、泰夢は両親の部屋に行き、そしておじさんが泰夢の部屋でねるのだ。
 それが、まるで自分のいる場所を取られたみたいでイヤだったし、おじさんがねた部屋はいつまでもツーンとしてムワァっとするようなにおいがしていて、自分の部屋を取りもどしたあとは、いつも部屋のドアと外のまどを全部あけて、そのにおいを追い出すところから始める。
 おこずかいを時々くれるのはうれしいけれども、泰夢が大事にして遊んでいたゲームを勝手に━━実は泰夢にゲームを教えてくれたのはこのおじさんで、あまりゲームをやらない泰夢の父親にかわって小さなころの泰夢にいろんなゲームやこう略法を伝授してくれた。そんな事もあって、もちろん今では泰夢の方がゲームの知識もテクニックも上なのだけれども、おじさんはまだその事に気付いていなくて、「オレが進めといてやるよ」と、いつも無断でゲーム機をさわるのだった━━クリアするし、コントローラーはあせか何かでいつもヌルヌルになっているし、本当に最悪なのだ。
 この前なんかは、泰夢がずっと楽しみにしていて、母親に『特別な日』に取っておいてもらったチョコレートのおかし━━それは、美味しいものをたくさん知っている母親の友だちがときどき持ってきてくれる、一個一個がカラフルな包み紙でクルクルとまかれている外国のおかしで、最高にウマいヤツだった━━いつのまにかリビングのテーブルの上に広げられていた。
 どうやら、何も出すものがなかった母親が、ちょうどいいのがあったとおじさんにふるまったらしい。
 その日、泰夢は学習スクールのテストでめずらしく良い点を取ったので、母親にたのんで『特別の日』のチョコレートを食べながら、ソファでゆっくりとネット対戦でもしようと帰ってきたのだけれども、そのソファにはおじさんがどっかりとすわっていて、手にはゲーム機、テーブルの上にはチョコレートの包み紙が山のようになっていたのだった。
 ふだんは相手がおじさんなので仕方なくだまっているのだけれども、これにはさすがに声をあげて、おじさんと母親にこう議をし、その日はなんとか自分の部屋を守った泰夢だったが、おじさんが来ると大体いつもこんな感じであり、だから泰夢はおじさんがきらいなのだ。
(なんか…わかる。
 お母さんの知り合いなのかもだけど、
 きっとさ、華恋ちゃんもオレと同じなんだろうな……)
 キッチンテーブルをはさんで、真けんな顔をしている泰夢と、すこし落ち着かない様子の華恋と目が合う。
「……だいじょうぶ、華恋ちゃん。
 オレがいっしょにいるから」
「うん……
 ありがとう、泰夢くん」
 何がどうだいじょうぶなのか、言われた華恋はわからなかったし、もちろん言った泰夢にもわからなかった。
 でも、おたがいの目を見て、そうやって言葉をかわして、不思議と二人ともむねの中の不安が小さくなっていく気がした。
 華恋が顔をあげてグッとせすじをのばし、そうして、
「いま開けるから、待ってて━━!」
 と、ドアの向こう側にむかって大きく声をだした。
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身近で普通に接しているのに、心の中で少し苦手な人っていますよね……
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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