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泰夢(たいむ)のお話 その二:28

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ミハシロさんからの質問に、泰夢はどう答えるのでしょうか……
それでは、どうぞ!!

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 図書館の貸し出しカウンターの前で、両うでを組んで泰夢(たいむ)がウンウンとうなる。
 なぜ、自分はミハシロさんの前で、華恋(かれん)ちゃんのことを「寺田さん」とよばなくなったんだろう……そのことが頭の中にバーっと広がって、一度にたくさんの考えがうかんでしまい、いったい全体どれから手を付けていいのかわからなかった。
(水を飲みに行った時、ミハシロさんから、
 華恋ちゃんは『さみしい』って思ってるかもって、
 言われたような気もするけど……)
 たぶんそれがあったから、いまミハシロさんは改めてそんなふうに自分に聞いてきたのかもしれない。
 頭をグルグルと回しながらそーっとうす目をあけると、カウンターの向こうがわにいるミハシロさんと、となりにいる華恋が自分の方を見ているのがわかった。
 ミハシロさんは、丸いメガネのはしっこをいつもみたいにクイクイっと指で上げながら、華恋ちゃんはなんだか赤い顔をしながらチラリチラリとこちらを見ているようだった。
 いろんなことが一度に頭の中にあふれでて、もうそれだけでめんどうくさくなってしまった泰夢は、うまいことその場をごまかして答えずにいようと思ったのだけれども、前と横からこうも見られている、待たれていると、どうやらそれもできそうになかった。
 とくに、華恋の方はチラチラと見てくるだけなのに、ものすごくこっちのことを気にしている様子が伝わってきて、いつものようにヘンな言いわけしたり、ギャグでごまかしたりはできないような……もっと言えば、そういう事をしてはいけないような、そんな感じがしたのだ。
(……えぇーっ、どうしよう!
 これってさ、ゼッタイにオレがなにか言わなくちゃダメのヤツじゃん!
 ちぇ……だれか、急に本を借りたい人とか来ないかな……?)
 そう思ってあたりを見回すけれども、こういう時にかぎってカウンターのまわりには泰夢たち以外のだれもいなかった。
 泰夢はもう一度うでを組むと、目をつぶって頭をグッとさげる。
 がんばって考えようとするけれども、華恋とミハシロさんがジーッとこっちを見ている感じがして、どうにもあせってしまう。
 どうして、こんな風に気持ちがどんどんと追いつめられていって、むねのあたりがセホセホして、せきが出る時みたいな苦しい感じにならなくちゃいけないんだろう。
 ちょっと泣きたい気分になって、大声を出したい気分になって、でもそれをがんばって出さないようにして、一生けん命に考える。
 ミハシロさんは、どんな時でもいつもやさしくしてくれる。
 自由研究のことだって、きちんと真面目に話を聞いてアドバイスをだしてくれるし、必要な本のことだっていろいろ教えてくれる。
 そんなミハシロさんに、てきとうにごまかしたりするのはやってはいけない事なのだと思う。
 華恋ちゃんには、さみしい思いをさせてしまったかもしれなかった。
 でもそれは、決して華恋ちゃんを仲間外れにするつもりで言ったのではなくて、ミハシロさんやオバジイの前ではきちんと「寺田さん」とよんだ方がいいのだと、泰夢は思ったのだ。
 だから、泰夢はなんとかしてこの事を、二人に説明したかったのだ。
「……だってさ、オレが華恋ちゃんのことをさ、
 大人の前で、寺田さんってよんだらさ、
 華恋ちゃんは、さみしくなっちゃうかもしれないんだよね?」
 まだ頭の中の考えはクチャクチャだったけれど、泰夢がそうやって少しずつ話しはじめる。
「華恋ちゃんがさみしくなるのは……オレ、イヤだし。
 ━━ホントは大人の前ではさ、
 『寺田さん』って、きちんと言ったほうがいいんだって……」
「二人でいる時は、もちろんいつもみたいに華恋ちゃんってよんで、
 だって、華恋ちゃんはオレのチョウ大事な友だちだし、
 いっしょだと楽しいし、スッゲー大切だから━━でもさ……」
「……さっきのタブレットん時にオバジイの前で、
 まちがえて華恋ちゃんってよんじゃって、マジかーってなって、
 けど、オバジイが『そうよんだらいい』って、言ってたんだよね!」
 頭の中にうかんでいたことを、泰夢が一つひとつひっぱりだして言葉にしていく。
「でもってさ、オレはさ、
 もしそうだったら、その方がいいじゃんって思ってさ、
 だって、華恋ちゃんといつもみたいに面白く話したいからね!」
「……それに『面白い』ってのにはさ、
 あまいおかしと同じようにいろんなのがあるし、
 ほかにも『親しき中にも礼儀(れいぎ)あり』っていうから……」
「……だから、オレはさ、
 ミハシロさんにも、華恋ちゃんにもさ、
 こうして自分の思ったことを、きちんと伝えたかったんだ!」
 そこまで言って、ようやく泰夢は言葉を切った。
 ちゃんとうまく言えたかどうかは自分ではわからなかったけれども、頭の中でゴチャゴチャになっていたことは、だいたい言えたと思った。
「う、うん……
 なるほど、そういう事だったんだ。
 たくさんお話してくれてありがとうね、泰夢くん!」
 はじめは泰夢の話がどこに行くのか分からずに、メガネのおくの目をクルクルさせていたミハシロさんだったが、泰夢の話をどうにかこうにか飲みこんだようだった。
(あまいおかし……って、いったい何のことなのかしら?
 ものすごく聞いてみたいけど、
 いまは、このままでもいいかな━━)
 と、ミハシロさんの丸いメガネが華恋をうつす。
 メガネの中の華恋は、口元にそっと手を当てて、うれしそうにクスクスとわらっていた。
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ねばり強く自分の頭の中を言葉にした泰夢、がんばりましたね!!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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