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泰夢(たいむ)のお話:75

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つり橋に感動して叫ぶ泰夢を、後ろからそっと見つめる華恋です。
それでは、どうぞ!!

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 かた手に木の小枝を持った泰夢(たいむ)がつり橋の方を向いて立っているのを、華恋(かれん)がじっと見つめている。
 たぶんだけども、華恋もふくめてこの辺りに住んでいてこのつり橋を日常的に使っている人たちは、あまり気にしたことはないだろう。
(━━泰夢くん、すっかりだまっちゃった。
 このつり橋って、そんなにめずらしいのかな……)
 こんな小さなつり橋でも、時々は写真をとりに来る人や、自転車やオートバイでわざわざやってきてわたっていく人たちがいる。
 泰夢もさっき大声でさけんでいたし、それにこうしてしっかり見てみると、たしかにつり橋はスゴいような気がする。
 小学校に上がってすぐに引っこしてきて、それから毎日見ている景色だったからもう完全に慣れてしまってわからなくなっていたけれども、川や周りの木々がある自然の中でもしっかりと堂々とした感じを持ちながら、それでいて風景の中にとけこんで見える。
 もしこれがなくなったら……と、華恋は自分の頭のなかでつり橋を消した景色を想像してみようとしても、それがなかなかできない。
(うーん、考えたこともなかったな……
 でも、つり橋を見ただけであんなに大声でさけぶなんて、
 泰夢くんってやっぱりヘンだよ!)
 華恋の中にある「当たり前のこと」を、「ヘンなこと」ばかりする泰夢が少しずつ変えていく。
 今さっきのガケだって、あんな所を通っていこうと思ったことは一度もなかったし、おばあちゃんの家の前の坂道ですべって転びそうだった時も、自分だったら「気をつけなくちゃ」と思うだけなのに、泰夢は「オレの勝ち!」と言ってこっちに笑ってみせた。
 お弁当やおかしなんかを買うだけの場所だと華恋が思っていたコンビニは、泰夢にとってはゲームのできる格好の遊び場だったし、まちがった文字を消しゴムで消すのだって、華恋が教えたあの日からずっと「下から上、左から右……」と言いながら毎回楽しそうにやっているのだ。
 そんな泰夢を見ていると、華恋の毎日の「当たり前のこと」もだんだんと泰夢の「ヘンなこと」に引っ張られるみたいになって、ちょっとずつ楽しくなってくるから不思議だ。
 それはもしかしたら、華恋の身近に同じぐらいの年令の友だちがいないということもあるのかもしれなかった。
 小学校や学習スクールには、もちろん友だちやクラスメイトもいるけれども、華恋は家からはなれたところにある小学校にバスで通っているので、通学でいっしょになる友だちや、学校が終わったあとにいっしょになって近所で遊ぶような友だちはいない。
 これは単に家から学校までのきょりがはなれているから、近くに住んでいる同じぐらいの子どもがいないだけの話であって、べつに華恋がおこりっぽかったり、意地悪な性格だったりするわけではないし、学校の友だちからもいっしょに遊ぼうとさそわれる。
 そんな時は、学校の帰りのまま遊んでからそのあとバスに乗って家に帰ることになるので、どうしても周りの友だちよりも遊んでいられる時間が短かったし、学校の決まり事では「一度家に帰ってから、遊びに行こう」となっていて、それを守っていないことがどうにも心苦しいのもあって、やはり思いっきりということはなかなかできない。
 だから、大体は友だちからのさそいを断って一人でバスにのる。
 そうしてそのまま泰夢の祖母の家に寄り、母親がむかえに来るまで勉強をしたり、おばあちゃんのお手伝いをしたりするのが日常だった。
 友だちみんなと遊べなくてつまらないとかさみしいとか、そんな気持ちもあるにはあって、それが華恋の「当たり前のこと」だった。
「━━今度の夏休み、孫が一人でとまりに来るんだよ。
 このあたりのことはわからないだろうから、
 華恋ちゃん、いっしょに仲良くしてやってねぇ……」
 一学期の終わりごろ、夏休みのちょっと前にいつもお世話になっているおばあちゃんにそう言われた時は、本当におどろいた。
 おばあちゃんの孫が来て、しかもそれが同じ学年の男子だと聞いて、一体どうやっていっしょに過ごせばいいのかずっとなやんでいた。
 いま考えれば、そんなの心配しすぎでしょ?と、泰夢と会う前の自分をおかしく思うけれども、その時は本当にどうしようかと思ったのだ。
 そうして泰夢と出会い、それからはいっしょに学習スクールに通って、おばあちゃんの家に帰ってご飯を食べて勉強をするようになり、今ではそれがもう華恋の「当たり前のこと」になってきている。
(……そっか、
 泰夢くん、夏休みが終わったら帰っちゃうんだよね)
 そんな考えがふとうかび、むねのおくの方にツンと引っ張られるような小さないたみが走る。
 泰夢と出会ってからまだそんなに経っていない。けど、もうずっと前からいっしょにいるような、そんな感じが華恋の中にある。
 もっと言えば、学校のクラスメイトや学習スクールの友だちよりも近くにいるような気がする。
 ちょっとおかしな話かもだけど、泰夢と出会う前にどうやって毎日の時間を過ごしていたのか、思いうかばないぐらいだった。
 泰夢が自分の家に帰ってしまって、ここからいなくなってしまったそのあとは、どんな風になっていくんだろうとチラリと考えてみるけれども、どうにもうまくイメージができないような気がする。
 本当はきっとたぶん、泰夢がいなくなって、そしてこの夏休みが終わってしまえば、いつもの通りに何事もなくもとの毎日にもどっていき、そうして華恋もやがて泰夢のことをわすれていくか、たとえわすれなくても、それはもう新しく動き出すことがない「思い出」の一つになっていくのだろうけれども、今が楽しくて、おどろくこともたくさんで、いまはそんなコトが思いもうかばないのが正直なところだ。
(このままずっーと、
 夏休みだったらなぁ……)
 つり橋の前に立っている泰夢のせなかが見える。
 さっきとはちがい、今はせすじをピっとのばしてむねを張り、足は少しだけ前後にずらしてそろえている。
 後ろから見ているのでよくわからないけれども、どうやら口で例の小枝をくわえているようだった。
(あれって……
 もしかしたら━━ニンジャ?)
 両方のうではたぶん前にあり、むねのあたりでマンガかなんかに出てくるニンジャのように指を結んで立てているのだろう。
 泰夢のすることが、なんとなくわかるようになってきた。
(また修行なのかな…
 でも、あれってけっこう大真面目なんだよね。
 ホントに……ヘンな泰夢くん)
 もちろんここからは見えないけれども、きっといつものようにキリリとした勇ましい顔をしているはずだ。これからわたるつり橋を前に気合いを入れているんだろう。
 その格好を想像しただけで、華恋の口に自然と笑いがうかぶ。
 ━━いつも見ている毎日の中に泰夢がいる。ただそれだけなのに、その毎日が特別に感じる。
 そしてそれはこの夏の間だけの事なのだとまた頭にうかび、むねのおくの方がツンとつままれたようにいたくなる━━ので、声を出す。
「よーし!
 泰夢くん、行こうか!」
「━━フガ?」
 後ろからの元気な声におどろいた泰夢がふりかえると、そこには華恋の笑顔があった。
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……泰夢はいつでもどこでも、本当に大真面目なのです。
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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