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泰夢(たいむ)のお話:74

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足場の悪い階段を猛ダッシュでおりていく泰夢……大丈夫でしょうか?
それでは、どうぞ!!

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 バスの路線になっている広い道をこえて、その道にそって流れる川をわたるためにつづら折りの階だんをおりてきた泰夢(たいむ)と華恋(かれん)は、ようやくその一番下にたどり着いた。
(……よっし、華恋ちゃんよりもちょっと早かった!
 これなら絶対に文句言われないしさ、
 いままでのだってさ、きっと取りもどせてるハズじゃん!)
 自分がよけいなことをしたせいでバスの時間に間に合わなかった……なんてまた華恋につめ寄られたらたまらないと、少しでも早くやっているところを見せておこう━━日ごろからなにかと母親に小言をいわれている泰夢はこうした事にするどくて、『これからおこられるかもしれないこと』にはなかなか気がつかないけれども、『一度おこられたこと』はこうしてやり過ごすことが多いのだ━━と考えて、またちょっとおこられるかもしれないと思いつつ華恋を追いぬいて階だんをダッシュでおりてきたのだ。
 例のしょぼしょぼの石の階だんには最後の最後まで苦労した。
 とちゅうで何回かふんだとたんにグラッとなる石や、もうツルツルに丸くなってしまっている石なんかに足を取られてヒヤっとしたことはあったけれども、そのたびにうでをブンブンとふったり大きくジャンプをしたりして、うまくバランスを取りながら、結局泰夢は走り出してから最後まで、一度もスピードを落とさずに走っておりた。
 それを後ろで見ていた華恋も、
(……泰夢くんってば、
 どうして、なんべんも同じようなあぶないことをするんだろう)
 と半分あきれながら、きっとまた転んだり足をくじいたりするにちがいないと、イライラとヒヤヒヤがまぜこぜになった気持ちで、ゆっくりとその後についていった。
 しかし、泰夢は一向にそんな様子は見せず━━何度かあぶなそうなところはあったけれども、それもいつものヘンな動きでなんとか乗りこえて━━階だんをかけおりていく。
(…………)
 こうなると、自分の方が断然に使い慣れている階だんなのに、初めておりる泰夢の方がポンポンと調子よく走って行くのがなんだかちょっと気に食わなくなってくるから不思議だ。
(……勝ち負けじゃないから。
 泰夢くんが転んだりしたらあぶないから、
 わたしが追いかけなくっちゃダメなんだから!)
 絶対に負けたくない、という自分の中でメラメラとする気持ちにそうやって言いわけをしながら、華恋もかけあしで階だんをおりていく。
 とつぜんに始まったこの階だん競争大会は、最後は素晴らしい速さで華恋が泰夢に追いつき二人はほとんど同時に━━もちろんこれは華恋の意見で、泰夢はあくまでも自分の方が早かったと言い張り、それでまたひとモメしたのだけれども、本当のことを言えばほとんど差がなかったのでここでは置いておく━━階だんの下にある広場に着いたのだった。

 おたがいに顔を見合わせながら体を前にたおして、ハアハアとあらくなった息をゆっくり整える。
 それほどつかれた感じはしなかったけれども、急角度で不安定な階だんを一気に走っておりてきたからだろうか、両方のひざがカクカクして力が入らなくて、そのなんとも言えないヘンな感じに二人でクスクスと笑って、そうしてようやく体を起こす。
 階だんの一番下のところはそれまでとはちがってかなり広かった。
 地面は土や石ではなく、古くなってところどころヒビわれていて、そこからチョボチョボと雑草なんかが生えているけれども、しっかりとしてりっぱなコンクリートでできていた。
 そのコンクリート広場の、ガケ側の方のところから二本、太いワイヤーロープがななめ上にのび、その先は川側にある太くてガッシリとした鉄こつの柱の上に回って、そこから人道用のつり橋が続いていた。
「……おお……うおおおおっ!
 なんだよこれ、なんだよこれ、なんだよこれ!! スッゲェーっ!
 これってさ、マジでさ、本物のつり橋じゃんか!」
 両方でにぎりこぶしを作り泰夢が大声をあげる。
 緑の木々から川をグーンとわたり、空中を通ってトーンと太く、鉄線をよじって作ったワイヤーロープがまるでコンパスをくるっと回して引いた曲線のように、きれいなカーブをえがいて向こう岸へとのびている。
 ワイヤーロープは全部で六本見えるので、たぶん泰夢からは見えないところにも同じ様なコンクリートの土台があと四つあり、それらはその土台からのびているのだろう。
 上に二本、下に二本で四角の形になっていて、その下の二本のところの真ん中に木の板がずっと向こう岸までならべられており、どうやらそこが、人が通ってわたる部分のようだった。
 残りの二本はそのわたり板がある四角形の底辺の二本よりももっと下の、はなれたところに右と左でそれぞれに張ってあった。
 そのはなれたところのワイヤーロープと底辺の部分は上下に細いワイヤーロープでつながっていてそれが同じはばに何本もならんでいるから、これはきっと人がわたったり風でふかれたりしても、つり橋が大きくゆれないように下から引っ張って安定させるためのものだろう。
 そうしたたくさんのワイヤーロープが、それぞれの曲線や直線を作って、空中にドーンとうかんでいるのだ。
(マジで、スゲェ……)
 それは自然が作る不規則ででこぼこな線とはちがって、そこには明らかに人が作った真っ直ぐな線━━もちろんつり橋を支えているワイヤーロープはその真ん中からグーンとのびる曲線になっていたけれども、泰夢がこの田舎にきてからこっち、祖母の家の窓から見たどの自然の線よりもハッキリとクッキリとうかび上がるように、しっかりした『線』だった━━であり、それはたぶん自然がつくった物と人間がつくった人工の建造物なので、いわば正反対のようなものなのだろうけれども、泰夢にはその二つが不思議といっしょに寄りそっていて、まるで一体化しているように見えたのだ。
(オレ…
 いまから、これをわたるんだよな……)
 本物のつり橋を目の前にして、泰夢の体がブルっとふるえる。
 泰夢にとってはこれが生まれて初めて━━本当のことを言えば、泰夢がまだ小学校に上る前、父と母といっしょに祖母の家に遊びに来た時にこのつり橋をわたったことがあるのだけれども、もちろん泰夢はそのことは覚えてはいないし、その時は父のせなかにおんぶをされていたので、こうしてしっかりと見ることもなかった━━の『つり橋』だった。
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大自然の中に突然の人工建造物……大きな橋やダムって圧巻ですよね!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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