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泰夢(たいむ)のお話:73

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道中で初めて華恋の家に行くと聞かされ、泰夢はおどろきますが……
それでは、どうぞ!!

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 つり橋へ向かう階だんで、泰夢(たいむ)がまるでハトが豆てっぽうを食ったような顔で、華恋(かれん)をじっと見つめる。
 見つめられている華恋も、キツネにでもつままれたような顔つきで泰夢を見つめ返す。
 ザザァーっと川からの風が流れてきて、ガケのしゃ面に生えた木々や雑草を大きくゆさぶって、ついでに華恋がかぶっている大きな麦わらぼうしのひさしもかまった。
「━━えっ?」
 二人で同時にそう声を上げて、それからおたがいに手を前に出して「先にいいよ」とゆずり合う。
「……これから行くのってさ、バス停じゃないの?」
 先に話をはじめたのは泰夢だった。
「つり橋わたってさ、川の向こうのバス停からバスに乗るんでしょ?
 でもって駅まで行くでしょ?
 ……でもってさ、そこからはさ、電車で図書館に行くんじゃないの?」
 華恋から聞いていたことを一つ一つ指を折って頭の中で思い出しながら確にんをしたので、これでまちがいないはずだ。 
 だけれども華恋は首をたてにはふらずに、代わりにキュイっと少しだけまゆをあげると、
「……それって、
 だいたいあってるけど、ちょっと足りないかな」
 そう言いながら、あごで泰夢を後ろに向かせて服についたドロや木の枝を手ではたいて落とす。
 クルリとその場で華恋にパンパンとされながら「足りないってどういうこと?」と、泰夢が首をひねる。
「わたしね、学習スクールに行こうとして家を出たっきりなの。
 だから、一度家に帰って支度をしなくちゃ。
 このままじゃ、自由研究の宿題できないでしょ?」
 かたにしている大きなトートバッグをポンとたたく華恋。
「それに、図書館で本とか借りるかもしれないから、
 貸し出しカードだってないとこまるもの━━
 って……ゴメンね、わたし、言ってなかったっけ?」
「えぇーっ、マジで? オレ、聞いてたのかな?
 でも、そんなのわすれちゃったし……それに準備だってさ、
 何もわかんなかったからさ、チョーテキトーにしちゃったじゃん!」
 自分の準備の悪さにこまって頭をガシガシとかきむしる泰夢に、華恋がおかしそうに口元をおさえる。
「ふふふ……それ、おばあちゃんちを出る時に言ってたよね。
 でも、だいじょうぶだよ!
 その分も、わたしがちゃーんと持ってくから!」
 華恋のしっかりした言葉とちょっと得意そうにしている笑顔に泰夢はすっかり安心し、やっぱ華恋ちゃんって準備もそうだし、先のこともたくさん考えててマジでスゲー!と思った。
 たぶん本当は、華恋がそのことを前もって泰夢に言っておかなかった事が原因で、華恋もそれは分かっていたけれども、いまここでヘンに謝ったりすると話が余計にややこしくなるだろうと思い、そしてそれよりも何よりも、道草をしすぎるとバスの時間にも間に合わなくなってしまうかもしれないと、華恋は石でできた階だんをおりていく。
 それを見た泰夢も、ちょっとだけ階だんではなくガケの方に目をやって首をフルフルと横にふると、さっきの落下でも無事だったお気に入りの木の小枝をデイパックのかたひものところから格好をつけてササッと引きぬくと、華恋の後を追う。
 大きな石やちょっと小さな石、形がいびつなヤツやグラグラしているのもあり、階だんをおりるのも集中力が必要だった。
 慣れている華恋が軽い足取りでヒョイヒョイとおりていくのを、目のはしっこで見ながらまねをして、泰夢もその後に続く。
(…………)
 しばらくだまったまま、二人で階だんをおりる。
 折り返しのおどり場に着いて華恋がチラリと見ると、フウフウと鼻のあなをひろげた泰夢が、小枝をかたほうの手にもって階だんをジャンプしながらおりてくる。
 その顔はとても真けんで、どうやら『ヘンな無茶』はしなさそうだった。
「━━でもさ、泰夢くん。
 ちっともおかしいと思わなかったの?」
 おどり場から次の階だんへと足を出しながら華恋が言う。
「……え、なにがさ?」
「だって……まっすぐ駅に行くんなら、
 この上のバス停で待ってた方が早いでしょ?
 なのに、わざわざつり橋をわたるって━━ヘンに思わなかった?」
「…………あ」
 言われてみれば確かにそうだった。
 祖母の家と華恋の家を通っているバスは上りと下りの二つの路線、つまりバスの通り道があるタイプではない。
 泰夢が通っている学習スクールのところにある電車の駅を始点にして出発し、たくさんある停留所をぐるりと一回りして、また同じ駅へともどって来る循環(じゅんかん)バスとよばれるタイプのものだった。
 だから華恋の言う通り、階だんの上のいつものバス停で乗っても、つり橋をわたって華恋の家の方にあるバス停で乗っても、結局は同じバスに乗ることになるので━━バスを一本乗り過ごすでもしてしまわない限りは━━どちらにしても同じことなのだ。
「うわー! オレ、めっちゃバカみたいじゃん!
 なんで気づかなかったのかな……
 っていうかさ、考えたこともなかったけど━━でもそうだよなぁ」
 華恋の後に続きながら首をひねりしきりにフンフンとうなずく泰夢。ふと、何かに気がついたように声を上げる。
「━━あ、でもさ、
 だったら急がないとダメじゃん?
 モタモタして乗りおくれたら、次のバスって……」
「いまの時間は、一時間に一本だよ。
 ……だからわたし、ずーっと急ごうって言ってたでしょ?
 なのに泰夢くんってば、なぜかガケの方にいくから」
「ゴメンよ……
 でもさ、だったらさ、
 これからスーパー急げばいいんじゃん!」
 そう言うが早いか、泰夢がせまい階だんのはしっこギリギリで華恋を追いぬき、一気に階だんをかけおりていく。
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よかった! これでやっと泰夢と華恋の行き先が定まりましたね!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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