泰夢(たいむ)のお話:72
なんとか崖のルートから戻った泰夢。そこに華恋が待ち受けます。
それでは、どうぞ!!
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いつもはもちろん考えたこともなかったけれども、足の下に地面があることがこんなにも安心するものなんだなぁと、泰夢(たいむ)が石で作った階だんの上でタンタンと何度も足ぶみする。
木の枝にぶら下がっていたのは、たぶんほんの短い時間だったと思うのだけれども、泰夢にはとても長く感じた。
へんな話だけれども、実を言うと泰夢は手でぶら下がるのにちょっとだけ自信があった。
泰夢の小学校の校庭には「うんてい」という運動遊具がある。
うんていは、短い休み時間でも学校の生徒がたくさん集まってくる人気の遊び場で、泰夢もよくぶらさがって大きくうでをのばしては「二本ぬかし」の大技を決めて遊んでいる。
そればかりではなくて、以前に泰夢は放課後のだれもいない校庭で「三本ぬかし」の超大技にちょうせんしたことがあった。
三本ぬかしを成功させるためにはスタートの所から、さらに四本も先にある遠くにうんていのぼうをつかまなくてはダメで、そのために思いっきり大きくうでをのばすことが必要だ。
友だちの中ではもちろん、クラスでもだれもやった生徒はいない。
実は校庭にあるいろいろな運動遊具の中でもうんていが一番のお気に入りで得意とする泰夢は、これをマスターしてやろうとねらっていた。
これまでも、うんていのぼうの上に乗って立ちそこを高速で歩く「ニンジャマスター」や、その上に立った状態からおしりを外側につきだすようにしゃがんで、横ぼうをつかんだまま体そう競技の大技のようにブーンと体をふって飛びおりる「むささび大ジャンプ」などのいろんな「技」を開発している泰夢は、この三本ぬかしもひそかに自分の技に加えて、友だちやクラスメイトにじまんしてやろうと思っていたのだ。
うんていのスタート位置についてから、グーンと四本先のぼうをめざしてうでをのばし、のばした手がうまいことぼうをつかんだまでは良かったのだけれども、そこで両うでがピーンとのび切ってしまい、手をはなそうにもはなれなくなってしまった。
体の後ろにある手をパッっとはなせば、自然と前の方に体がグーンとゆれていって、次のぼうに手がとどく━━はずだった。
けれども、のび切った前の方の手がちゃんとぼうをつかめていなくて、このまま後ろの手をはなしたら体が前に行くどころか、後ろ向きになってせなかから下に落ちてしまいそうだった。
かといって前の手をはなせば今度は体が後ろに行ってしまい、そうなればたぶん顔から落ちて地面に鼻をしたたかに打ち付けることになる。
にっちもさっちもいかなくなってしまって、助けをよぼうにも、ないしょの新技開発なので友だちはまわりにいないし、そればかりか校庭にはだれもいなかった。
なんとかしようとがんばって体をゆさぶったり足をジタバタさせたりしてみたが、もちろんそれでどうにかなるようなものではなかった。
結局、最後はうんていのぼうをつかんでいた手がすべってしまい、泰夢は見事に地面にしりもちをつくことになり、おしりに大きな青いアザをつくるはめになったのだ。
それからというもの、泰夢は二度と三本ぬかしにちょうせんしなくなったが、いつもの二本ぬかしをやりながら心の中で「オレには禁断のかくし技がある……」と一人で格好をつけているのだ。
つまりそのぐらい、泰夢には自信があったのだけれども、それはぶら下がっているすぐ下に地面があるのがわかっているからで、本当にその足の下になにもないと、とてもじゃないけれどもこわくてたえられない。
それは例えば、体育館に引かれている白い線の上だったらクラスの全員がふつうに歩けるけれども、これが同じぐらいのはばの平均台になると、とたんに歩けなくなったり落っこちたりしてしまう生徒が増えるのと同じようなことなのかもしれない。
(…………)
現にいまも、足ぶみをしてよゆうを見せているけれども、泰夢の手は細かくふるえていたのだった。
「……泰夢くんさ、
どうしてガケを下りようと思ったの?
階だんの方が早いし、あぶなくないんだよ?」
そんな泰夢の様子を知ってか知らずか、うで組をした華恋(かれん)がジッとにらみつける。
「いまのは平気だったけど、
もしかしたら、大ケガしたかもしれないんだよ?
泰夢くんだっていたいのイヤでしょ?」
きびしくつめよる華恋に、泰夢がうへぇと横を向く。
「そりゃ、イヤだけどさ……
上からのぞいて見たらさ、下まですぐだったしさ、
そっちが早くて楽チンかなぁって……」
「全然早くないし、楽じゃないとおもう。
わたし、泰夢くんがガケを下り始めてから歩いてきたけど、
ここに着くの、泰夢くんより早かったんだよ?」
「……え、マジで?
ちぇーっ、なんだよ! だったら階だんの方がよかったんじゃん!
オレ、もうガケ下りんのやーめた!!」
「もうやめた━━って、泰夢くんってば、まだガケを行く気だったの?
ホントに、あきれてもモノも言えない!
でも、今回はわかったみたいだから、このぐらいにしてあげる……」
泰夢の言葉に目をクルリとまわして、華恋がため息をつく。
「……大変なコトにならなくてよかった。
ここは階だんを歩いてても、すべって大ケガをした人もいるし、
わたしだって、転んだことあるんだよ」
「へー、なーんだ!
それじゃ、華恋ちゃんだってオレといっしょじゃん!」
「いっしょにしないで!
泰夢くんはバカなことして、落っこちたんでしょ?
ホント……すりキズぐらいですんで、運が良かったんだからね!」
華恋に言われてうでをひねって見てみると、木の枝に引っかかったのか、じゃりかなにかでこすれたのか、たてに長いキズができていた。
「こんなの、別にキズじゃないし。
ツバでもつけとけば、すぐに治っちゃうじゃん?」
そう言ってカッカッカと笑う泰夢に、華恋が目を三角にする。
「ダメ、ちゃんと消毒しなくちゃ。
━━ほら、急いでわたしの家に行こうよ。
家に行けば、消毒液もバンソウコウもあるんだから」
「……え?
これから華恋ちゃんちに行くの?
バス停じゃなくって?」
華恋の家に行く━━
急にふってきたその言葉に、今度は泰夢が目をパチクリさせる番だった。
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自分だけの密かな楽しみ……小さな事でも毎日が幸せになりそうです!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
