泰夢(たいむ)のお話:71
階段ではなく崖を直行するルートを選んだ泰夢……どうなるのでしょう?
それでは、どうぞ!!
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ガケのしゃ面に生いしげった雑草や落ちている小枝をバキバキとふみながら、泰夢(たいむ)がガケをおりていく。
「━━なんだよ、けっこーラクチンじゃん!」
足のかかとの方に体重をすこしかたむけて、すこし後ろにそるみたいなかんじになりながら、両手でそのへんにある小さな木やせの高い草なんかをつかんで、一歩ずつ足をふみ出していく。
初めての場所だったし、ラクチンだとは言ってもガケを下りていくので、さすがの泰夢もやっぱりそこはしんちょうだった。
しっかりと足元を見て、ヘンな形の大きな石がジャマしていないか、じゃりや小石ですべりやすくなっていないかなどを確にんしつつ右、左と足を出してゆっくり進む。
もちろん、手元にもぬかりなく目を配る。
木を選ぶ時も、つかんで体重をかけたらすぐに折れてしまいそうな細い枝や、かれていそうに見えるヤツはさけていく。
つかむ草だって、もし足がすべったら、根元からスポンとぬけてしまいそうなたよりない草じゃなく、ガッシリと地面から生えているいかにも強そうな感じで生えている雑草を選んで、しかも葉っぱではなくてクキの部分をまとめてワシャっと手でにぎっていく。
「……泰夢くん、何やってんだろう?」
つづら折りになった階だんのおどり場にいる華恋(かれん)は、おっかなびっくりしながらソロリソロリと急なガケを下ってくる泰夢の様子をみて、あきれたようにため息をつく。
「もう、階だんを使った方が早いのに、
なんであんなにめんどうくさいことするのかな……」
華恋としてはなるべく早く自分の家にもどりたかった。
次のバスが来る前に、バッグの中身を学習スクールの支度から自由研究のための用意に入れかえてしまいたかったし、そしてこれはタイミングが合えばの話だけれども、もし母がまだ家にいたら、仕事に行くついでに車に乗せてもらって直接図書館まで送ってもらう事もできるのだ。
(それは、まぁ……
泰夢くんと二人の方が面白そうだから、
べつにいいんだけど━━)
階だん入口のところからまだ一メートルも進んでいない辺りでワタワタやっているすがたを見て、しかたないなぁとつぶやきながら、泰夢が下ってくるだろう場所まで階だんをゆっくりとおりていく。
「━━やっぱ、こんなガケなんてへっちゃらだな。
こうやって真っ直ぐに下りてけば全然よゆーだしさ、
階だんなんかいらないじゃんか!」
最初のうちはそれこそ一歩、一歩ゆっくりとガケの坂を下りていた泰夢だったが、それにもだんだんと慣れてきて次第にスピードがあがる。
クルリと油断なく目を走らせて周りを見て、それに合わせて足をのばして手をのばす。
坂の角度も少しずつ急になるにつれて、一つ一つの動きにリズムがでて全体のテンポも上がる。
「…………」
一足ごとの歩はばも大きくなっていく。
坂をふみしめて下りるというよりは、ポーンと体を投げ出すようにして足からドンと着地。
そして、またポーンと次へとはずんでいく。
次の足の場所、次の手の場所……
いつの間にか泰夢の顔から笑顔が消え、しんけんな顔になる。
手元と足元に目線をいそがしく走らせる。
(あ……
ちょっとヤバいかも……)
少しずつ、手と足と体に感じるスピードが、泰夢の思っている感じとズレていくのがわかった。
周りの様子に目が追いつかず、足は当てずっぽうで放り出し、手はつかめるものをとにかくつかむ。
坂の角度は、もうほとんど立っていられないぐらいになっていた。
その間にもどんどんと速度があがる。
足と手が大きく動くけれども、それはもう泰夢が自分で動かしているのではなくて、体が落ちて行くのにつきあわされて動いているだけだった。
一歩足が出てしまうたびに、ドーンという強いしん動がかかとから頭の天辺までぬけていく。
つかんだ手の中で、枝か草が千切れていくのが分かる。
体中に木や葉っぱが音を立てて当たって、ビシン、パシンという音といっしょに後ろに飛んでいく。
もう、自分ではどうしようもなかった。
何かひとつ、足が出なかったり手をつかみそこねたりでもしたら……
そんな事を考える時間もなかったけれども、強いきょうふ心だけは頭の中にハッキリとうかぶ。
「━━━━!」
その時、左足がスカッと空中にういた感じになった。
泰夢からは見えなかったが、本当ならななめに続いているはずのガケが雨か何かの仕業だろうか内側にえぐれていた。
運の悪いことに、泰夢はそこに足を出してしまったのだった。
声を上げる間もなく、そのまま体が落ちていく。
スッと冷たい感じが全身に走って、ギュッとつよく目をつぶる。
ザザザーっという音がして体がすべる。
むがむちゅうで両手をのばし━━うでとかたにガクンというしょうげきと強いいたみが走ってようやく体が止まった。
(…………)
つぶっていた目をそっと開けると雑草のかたまりが見えた。
そのまま目だけを上にすると、自分の両うでとその先にちょっと太い木の枝があって、それをぎゅっとつかんでいる両手が見えた。
どうやらなんとか、ガケから落ちるのはまぬがれたようだった。
(━━た、たすかった。
でも、ここからどうしたらいいんだよ……)
両手はしっかりと木の枝をつかんでいるのだけれども、両足はまだ空中にういている。
ためしに足を前後にふって動かしてみるけれども、どこにも引っかかるような場所はなさそうだった。
(オレってもしかして……
いま、ガケの真ん中でちゅうぶらりんってこと?)
そういうのはマンガやアニメでよく見るけれども、まさか自分がそうなるとは考えてもみなかった。
どうしよう……と考えているヒマもなく、木の枝をつかんでいる手がしびれるようにいたくなってくる。
マンガやアニメだと、けっこう長い時間ぶら下がっていられるけれども、どうやらそれはウソのようだった。
あっという間に限界がきた泰夢の手から、にぎっていた木の枝がすべってぬけそうになる。
(ヤバい……!
この下ってさ、きっとまだずーっとガケじゃん!
そこから落ちたら━━)
周りには何もない切り立った岩のカベに一人でへばりつき、下はかすんでしまって何も見えない……そんなイメージが頭にうかび、パニックになった泰夢が足をバタバタとはげしく動かす。
「……泰夢くん。
それ、いつまでやってるつもり?」
「え……?」
すぐ耳元で声がした。
がんばって首を横に動かしてみると、そこに華恋の顔があった。
え、なんで?と目をパチクリさせる泰夢。
「さっきからバタバタしてるけど、
その足ね、たぶん横に出せばいいと思うよ?」
華恋に言われたとおりに足を横に広げてさぐると、そこに固くてしっかりした感触があった━━それは、あのボロボロのしょぼい階だんだった。
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必死に頑張ったのに報われない……そういうコトってありますよね。
では、次回もお楽しみに!
小林るい
