泰夢(たいむ)のお話:105
どう見てもあやしいアロハシャツの男が、華恋と泰夢に迫ります……
それでは、どうぞ!!
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急に自分の名前をよばれて、泰夢(たいむ)はドキっとした。
全身に力が入って、カチコチに動かなくなったような感じがした。
アロハシャツの男がいきなり泰夢のことを名前でよんだのは、もちろん華恋(かれん)が先に名前を言ったからだけれども、それでも、全く知らない人……しかも、どうもあやしいと思っている大人からとつぜん名前をよばれて、泰夢はすっかりとおじけづいた。
こんなことは泰夢にとって初めてだったし、それに、大人からそう声をかけられれば、やっぱりどうしても逆らうことができない。
よろしくな、というアロハシャツのあいさつの声に、首だけちょこんと前に出してこたえる。
目の前にいる華恋の手が、指が白くなるくらいギュウっと強くにぎりしめられていた。
それは、学習スクールでカズくんとケンカをして、華恋が助けに入ってくれた時に見たのと同じだった。
カズくんたちにお母さんのことをさんざん言われて、でも華恋はそのひどい言葉にじっとがまんをしていたのだ。
(華恋ちゃん、いやがってる……)
うつむいているので、華恋がいまどんな顔しているのかは分からなかったけれども、でも、このままにしちゃダメだ、と心ぞうがキューっとちぢんでしまいそうになるのをがまんして、アロハシャツを見る。
もちろん大人なので泰夢よりはずいぶんと体が大きいが、泰夢の父親と比べるとそれほど大きくはないような気がした。
こっちを見て笑っている顔は、ニコニコというよりもニヤニヤで、どうせ子どもだからな、ぐらいに思っているんだろう。
「なんだよぉ、華恋ちゃんもけっこうやってんじゃねぇかよ。
親の留守に部屋で男子と二人っきり……けど、心配無用だぜ。
マリアさんには、ないしょにしといてやっからよぉ」
アロハシャツのニヤニヤが、ニタニタになった。
うつむいたままの華恋が、なにかを小さく言ったけれども、泰夢には聞こえなかった。
「……はぁ? 友だちだって? まぁ、別にどっちでもいいけど。
それよかさぁ、家ん中に入れてくんねーかな?
オレ、この前わすれもんしちまってよ……」
アロハシャツはそう言いながら華恋のかたをつかむと、土間にいる泰夢をおしのけて中に入ろうとする。
その様子に、このままだと二人におされてひっくり返っちゃうじゃんか、とさっきはいたクツをあわててぬごうとする泰夢だったが、かたをつかまれていた華恋はがんとしてそこを動かなかった。
「……わたし、お母さんから何も聞いてない。
あと、留守の時はだれも家に入れるなって言われてるから」
体を左右にふり、かたをつかんでいたアロハシャツの手からにげる。
「何をわすれたのか知らないけど、
そんな大切なものなら、お母さんからカギを借りて。
きっともう、お店にいると思うから……」
「…………」
まだうつむいていたから表情は分からなかったけれども、ハッキリと強い言葉でそう言った華恋に泰夢はおどろいた。
アロハシャツとは知り合いだから、というのもあるかもしれない。
でも、子どもなのにこんなにしっかりと大人に話をするのは、泰夢には信じられなかった。
自分だったらきっと、しゃべっている間に「えーっと」や「それから」がやたらとたくさん入って、しまいには「……なんだっけ?」と何を話していたのかもよくわからなくなってしまうだろう。
そして同時にヒヤヒヤとした。
子どもからこんな風に言われてしまったら、大人はきっといい気がしないんじゃないかと思う。
案の定、アロハシャツは耳まで真っ赤にしていて、苦いものでも食べたみたいに顔をゆがめていた。
イライラしている様子でチッと、大きなしたうちを鳴らす。
(……したうちって、本当にする人いるんだ。
オレ、はじめて聞いたかも……なんかさ、
スッゲーこわいしさ、こっちもイヤな気持ちになるじゃん……)
アロハシャツがおこっているのがいよいよ明白になり、泰夢の心もますますザワザワとしてくる。
それからそのまま、しばらくだれも何も言わなくなる。
ほんのちょっとの時間だと思うのだけれども、泰夢にはとても長く感じられて、息がつまりそうだった。
でも、だからと言って自分にできるような事はなにもない気がして、モヤモヤとした気持ちのままで、ただここにいるしかできない。
「━━さあ、出ていって」
華恋が言った。
「わたしたち、このあと用事があるの。
もうすぐ来るはずのバスに乗って、
学習スクールに行かなくちゃいけないから」
「えっ……?」
それを聞いた泰夢が、思わず声を上げる。
「華恋ちゃん、それってちがうじゃん?
行くのはたしか━━」
いまから行くのは、学習スクールではなく図書館のはずだ。
(華恋ちゃん、きっとまちがったんだな。
でも、アロハシャツもスッゲーおこってるみたいだしさ、
オレだってさ、きっとこんな時ならまちがうよな……)
そう思い、ちゃんと直してあげた方がいいだろうと、華恋を見る。
(━━━━!)
すると、さっきまでうつむいていた華恋が、今度はものすごい顔でギロリとこっちをにらんでいた。
(……あれ?
コレってさ、もしかしたらオレさ、
また、なんかまちがったコトしちゃったんじゃないの……)
赤い顔でチッ、チッと何度もしたうちをしているアロハシャツと、おでこに深いシワをつくってこっちをにらむ華恋に囲まれて、泰夢は自分の体がますますカチコチになっていくような気がした。
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良かれと思った泰夢ですが、どうやら裏目に出たようです……
では、次回もお楽しみに!
小林るい
