泰夢(たいむ)のお話:106
華恋に鋭くにらまれて、すっかりタジタジの泰夢ですが……
それでは、どうぞ!!
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何も言わずにジッとこっちを見てくる華恋(かれん)に、どうしていいのかわからず、泰夢(たいむ)が両手でかみの毛をガシガシとかき回す。
その様子を見た華恋が、目玉をクルリと回してさらに合図を送る。
(……えっ、なに?
これってさ、一体どういうこと?)
華恋の目が上に行ったり下に行ったりするのを見て、泰夢も目だけでそれを追いかける。
目が上に行った時のその先には、したうちが止まらないアロハシャツの顔が見えて、そして下に行った時には、華恋がかたにかけているトートバッグに行き当たる。
(……え、何かの合図?
アロハシャツとトートバッグ?
よくわかんないけどさ、もしかして……ワザとまちがえたのか?)
そう思った泰夢の頭の中に、ビカッと電気が走ったようになった。
(あーっ、わかったぞ!
たぶんだけど、華恋ちゃんってさ、
オレたちがどこに行くのか、アロハシャツに知られたくないんだな!)
さっき華恋がおくの部屋に入っていく時に、図書館に行く準備をしてくると言っていたから、いまトートバッグの中には、そのためのいろいろな物が入っているはずだ。
そして、華恋が後ろをふり向かないで、目だけでアロハシャツを見たのは、この場でそれを知らないのはアロハシャツだけだ、と言いたいのだと泰夢は思った。
なんでその事を知られたらダメなのかはわからない。
けれど、きっと何か事情があるのだろう。
わすれものぐらいなら泰夢もよくやるので、最初にアロハシャツがそう言って家に入ろうとした時、華恋がきっぱりとそれを断ったのを見て、華恋ちゃんってちょっとだけケチなところもあるんだなと思った。
でも、いまだったらそれも分かる。
きっと華恋ちゃんには、このアロハシャツを家の中に入れたくない理由があるんだろう。
知り合いだけれども、ちょっとでも家に入れないのは、きっとアロハシャツが華恋ちゃんにとってきらいな人間で、泰夢で言えば頭の中にあるたくさんの箱の中でも定番で、学習スクールのカズくんもしっかりと入っている『苦手の箱』や、泰夢でもあまり使ってない━━ここに入るのは結構なん易度が高く、ふつうにワガママだったりうるさかったり、暴力をふるってくるような人間でも入ることはできない。ここに入るのは、どうやってもこっちが反げきできないような、それでいて向こうの方からこっちへ寄ってくるような本当にあつかいにこまってしまう人間が入る箱であり、今のところは例の泰夢のおじさんただ一人しか入っていない━━『見たらとにかくにげる箱』にデーンとでっかく堂々と入っているような部類のヤツなんだろう。
だからさっき、アロハシャツにかたをつかまれた時も、それがもう本当にいやでいやでたまらなくって、両方の手にギューッと力が入っていたんだと泰夢は思った。
(なるほどな……でもってさ、それをかくしながら、
とっさにオレに伝えるなんてさ、ホントに頭いいよなぁ!
だったらさ、オレが行き先を言っちゃあさ、やっぱダメじゃん!)
ようやく華恋がギロリとこっちをにらんできた意味がわかった泰夢は、アロハシャツから見えないようにちょっとだけ頭を下げると、今度は自分がクルクルと何度も目の玉を回して、わかったよ、と華恋に向けて合図を送る。
(よかった……
泰夢くん、わかってくれたみたい)
それを見た華恋は、安心してホッとため息をついた。が、後ろにアロハシャツがいることを思い出して、あわててそれをゴクンと飲みこむ。
これで、キヨシことアロハシャツが後で自分たちを追いかけてきたとしても、図書館までは来ることはない。
(それに、わすれ物をしたって言ってたけど、それだってあやしいよ。
ここには、わたしと泰夢くんしかいないんだし、
絶対に家の中に入れちゃダメだよね……)
こんな時は、この場に母親がいてくれたらと思う。
何度かアロハシャツと二人だけでいる所をこっそりと見た事があった。
その時の母親は、いつもとは様子が全然ちがっていて、アロハシャツの言う事の一つ一つに笑ったり、喜んだりしていた。
それ自体は、自分が友だちと話しているのと同じような事なので良いのだけれども、その言葉のやり取りの中に時々、アロハシャツに『あまえている』ような感じが見て取れて、華恋はそれを見ておどろいた。
学校の友だちの中にも、ふだんみんなとしゃべっている時と好きな人が近くにいる時とでは全く態度がちがう子がいて、それを少しいやだなと思う気持ちがあったのだけれども、自分の母親もそういう子たちと同じだったと知って、なんとも残念な気持ちになったのだ。
もちろん、今ではもうだいぶ慣れたけれども、やっぱり目の前でそんな母親を見るのはいやだ。
だから母親が、アロハシャツと三人でいっしょにどこかに行こうと言ってもなんだかんだ理由をつけて断っていたし、アロハシャツの話はしない約束だったし、あまり無いことだけれども、家にアロハシャツがいる時は、華恋は泰夢の祖母の家に遊びに行ったり、となりの部屋でイヤホンで音楽を聞いたりして、なんとかやり過ごしているのだ。
もしこの先、自分にも好きな人ができたとしたら、母親と同じようになってしまうのだろうか……
それを考えると、どうにもむねの辺りがザワザワソワソワとして、落ち着かない気持ちになってしまう。
(この人のどこがいいんだろう……)
チッ、チッと、せなかから聞こえるアロハシャツのしたうちの音が、華恋にはうるさかった。
とにかく、なんとかしてアロハシャツを追いはらって、図書館に行くためのバスに乗らなくてはいけない。
どうしたものかと考える華恋の目の前で、頭を下げたままの泰夢がニカっと笑ってみせる。
(えっ、泰夢くん……
いったい、なにをするつもりなの……)
鼻のあなをふくらませ、キラキラとした目で華恋を見つめている。
それはいつもの━━泰夢が『何か』を思いついた時の顔だった。
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さてはて、泰夢はいったい何を思いついたのでしょうか?
では、次回もお楽しみに!
小林るい
