【著者インタビュー】「傾聴」ってなんですか?社会人のための「聴く力を育てる」ヒント
はじめまして、今年度からnoteの運用に加わることになったナナ子です。
新年度が始まって約1か月。4月から、新しい環境で働くことになった方も多いのではないでしょうか。中には、チームのマネジメントを任されたという方もいらっしゃるかもしれません。
そこで注目したいのが、相手との対話の基本となる「傾聴」です。
今回は、1万件の相談を受けたカウンセラー・中越 裕史先生の新刊『傾聴の極意』から、社会人が知っておきたいコミュニケ―ションの真髄を教えていただきました!
「どんなことに気を付けたらいい?」「話をしたくない人とでも傾聴は成り立つのか?」などなど、大ボリュームでお届けします。
(取材・文/ナナ子)
◆傾聴=オウム返しという誤解
――傾聴というと、「相手の言うことを繰り返す」といった、いわゆるテクニック面が重視されているように感じていましたが、本書では、そういったことにほとんど触れられていないことに驚きました。ご著書の中でも、傾聴をメインテーマにした本は無かったかと思うのですが、本書の執筆のきっかけがあれば教えてください。
特にビジネス書では、傾聴テクニックを紹介する本はたしかに多いです。ただ、その中でよく書かれている「相手の言ったことをそのまま伝え返す」というのは、むしろマイナスになるというくらい、専門家の間ではやってはダメだということが周知されています。
5分10分、相手の話を聞くような短期的な関係の場合はそれでもいいのかもしれませんが、長期的な関係になると、それって絶対バレるんですよ。なんかうまく丸めこまれたなって気持ちになって、むしろ関係を悪化させることになっちゃう。
――なぜ、オウム返しが推奨されるようになったのでしょうか?
「カウンセリングの神様」の異名を持つカール・ロジャーズさんは、それまでのカウンセリングで精神分析家や行動療法の専門家が「こうしなさい」と命令していた指示的療法をやめて、本人に考えてもらうことが一番大事だとする、来談者中心療法というものを作りました。
そのカウンセリングの中で、例えば「夫が○○したときに、とても悲しかったんです」と言われたとして、「そんなことをされたら腹が立ちますよね」と言い変えてしまうと、本人の気持ちとだんだんずれていってしまうということが分かりました。
そこで、相手の言葉を繰り返すという方法がとられるようになったのですが、これは、実はオウム返ししているのではありません。「こういうことがあって悲しかったんですかね?」って、相手の気持ちを再確認するためのものなんです。それを、他の心理学者によって、ただオウム返しすればいいんだと広められてしまって、ロジャーズさんはすごく悲しんだんです。
――では、傾聴の本来の意味とは、どのようなものでしょうか。
人間と人間が深く理解し合うために必要な態度、それが傾聴だと僕は思っています。
そもそも、僕たちは何のために傾聴しているのか。相手の気持ちや考えていることを深く理解したい。だから傾聴するんですよね。
例えば職場で、困った行動を取る部下がいたとします。そこでその部下の話を深く傾聴したうえで、「そういう事情があったんだね。上司としてはOKとは言えないけど、気持ちは分かるよ」と伝えたら、きっと部下はその上司のこと嫌いにはならないですよね。でも上司が先に「いや、これ会社のルールだから」って言っちゃうと、もう部下は反発するだけなってしまいます。
一人の人間ともう一人の人間が深く理解し合いたいならば、まずはこっちが相手の気持ちやその背景にあったものを、固定観念とか、会社のルールとか全部抜きにしてちゃんと理解しよう。そういう態度が必要だというのが、傾聴の本来の意味なんです。
――その傾聴の姿勢は、今までカウンセリングを学ばれてきたことや、1万件もの相談を受けてこられた積み重ねで身に付けられたのでしょうか。
そうですね。体験学習はすごく大事です。僕は畠瀬直子先生のもとで17~8年くらい勉強しているのですが、先生は本当にこのような態度で接してくれました。そういった体験学習を本ではどのように伝えようかと考えて、いろんな事例や僕自身の体験をたくさん盛り込んだ本にしました。

◆本音で語るから伝わる「自己一致」
――対話の基本についてお伺いさせていただきましたが、中越先生がカウンセリングをされる際に特に気をつけていらっしゃることがあれば教えてください。
傾聴とかカウンセリングって、ある程度心に余裕がないとできないです。例えば、朝子どもを保育園に連れていかなきゃいけないとか、お弁当の準備をしないといけないってとき、すごく忙しいですよね。そういうときに子どもが何か言ってきたとしても、それをゆっくり聞く余裕はとてもない。それって仕方がないことですよね。
僕たちカウンセラーの場合は、あまり予定を詰め込まないようにしたり、カウンセリングの前に5分とか10分でいいから瞑想をする時間を作ったり、疲れている日はちょっとお昼寝をしたりとか。疲れていない状態にする、つまり自分の人生のメンテナンスをちゃんとするということですね。
今はどこも人手不足で、上司もほとんどプレイングマネージャーとして、自分の仕事をしながら部下の管理や相談事を聞くっていう状況になっているので、余裕をもうちょっと持てるような会社の体制にしていってあげてほしいなあと思いますね。難しいですけどね。
――先ほど、相手と対話する際に、頭ごなしに意見を押し付けても反発が起きるという話をお伺いしました。仕事をする中では、例えば部下に指導をしなければいけない場面も出てくるかと思います。そのようなときに気を付けるポイントがあれば教えてください。
この本の中でも、「自己一致」という言葉について書いていますが、ロジャーズさんはこの自己一致がカウンセリングの中でも一番難しくて、でも圧倒的に一番大事なものだとおっしゃったんです。
僕と2人の編集者さんの3人でこの本を作っていたとき、三者三様の思いがあってなかなかまとまらなかったんです。それぞれの意見を取り入れると無駄に長くなってしまったり、矛盾が起きる文章になったりですごく悩んでいて。
ある時Zoomでお話したときに勇気を出して、「僕としては、コロナ禍でカウンセリングルームが潰れかけたから、もう何としてでも本を出したいと思う気持ちがあって、みんなの意見を取り入れようとしてしまうところがあるんです」って言ったら、みなさんすごく笑ってくれて。
それって、僕が本当の気持ちを言ったから何かが通じたと思うんです。本音で語る、自己一致するって、本当にそういう力があって、会社の上司とか本来そうでなくちゃダメで。
――会社では、勤務態度や主体性について相手に注意をしなければいけないこともありますよね。
僕がサラリーマンだったときに、新しく入ってきた後輩がすごく態度が悪くて、社内でも問題になっていたんですね。普通だったら、「職場でそういう態度とったらあかんよ」とか言うと思うんですけど、それって僕の本当の気持ちじゃない。自己一致じゃなくて、頭で考えた常識的なことです。
あるとき、その子と営業先に動向する機会がありました。20年程前だから、まだみんな煙草を吸っていた時代です。その子は、営業先の近くの駐車場で、吸った煙草の灰をこう、ポンポンと落としたんですね。「取引先の人も多いから」って注意したら「大丈夫です、駐車場ですから」って。
これはちょっと本気出さなあかんなと思って、
「確かにそうや。 別にそれは悪いことじゃないかもしれん。でも、君のその態度とか、僕はめっちゃ嫌な気持ちになるねん。だからやめてほしいねん。このままだと僕は君のこと嫌いになってしまうかもしれへん。だから態度変えてほしいねん」
って言ったら、次の日から別人みたいになったんです。
一人の人間としての気持ちを伝えるってすごく勇気いりますよね。言ったとき、僕もすごく怖かったです。キレて殴ってきたらどうしようとか、やっぱり思います。
でも、自分自身のうそ偽りない気持ちから出た言葉だから、ちゃんと伝わるんですよね。その後で、もちろんフォローして缶コーヒー奢ったりしたんですけど、その子は僕が会社を辞めてカウンセラーになる時に、「 中越さんには本当にいろんなことを教えてもらいました」って言ってくれました。
余談になりますけど、その子が変わったことで、僕は社内で評価がうなぎ上りになりました。ラッキーです(笑)
大人しすぎる子についても多分同じだと思うんです。不安でなかなか自分から動けないことがあるのかなっていうのは、やっぱり聞いてあげないとダメで。
そのうえで、「もし何か思いついたことがあって、自分から提案してくれたら僕としてはすごく嬉しく思う。できる限り君の提案してくれたこと、実現できるように一緒に頑張っていきたいっていうその気持ちは嘘じゃないねん」って、そういうことは伝えた方がいいと思いますね。
――思いを伝えるにしても、常識やルールではなく、自分はこう思っているという「アイ・メッセージ」にすることが、相手に伝わりやすくなるヒントなのかなと感じました。
アイ・メッセージを提唱したのはトーマス・ゴードンという人で、ロジャーズさんの教え子なんです。だから、本当にその通りです。僕はこう感じているんだということを、ちゃんと本音で伝えるっていうのがすごく大事ですね。

◆なんで?という言葉を使わない理由
――本書の中に、カウンセリングの際には「なんで?」という言葉を使いませんと書かれていました。これはどういった理由があるのでしょうか。
なんで?って言われると、ちょっと責められているような気になりますよね。もうひとつの理由としては、何故と問われると、相手が納得せざるを得ないような論理的なことを答えなきゃいけない気がしてしまう。
でも、人間ってそんな論理で動いていないんですよ。なんで本を出したいの?って言われても、本当の傾聴を広めたいからというのも嘘じゃないけど、「出したいから出したい」という以外言いようがなかったりする。働く人に向けたカウンセリングの本はいっぱい書いてきたけど、僕はカウンセラーだから、ずっと学んできたロジャーズさんの本を書きたい。それってなんだか理屈では説明できない。
実は僕、離婚をしたんですね。なんでって言われたらやっぱりすごく困る。いろんな理屈をその場で言うんですが、それってその瞬間に頭を働かせてもっともらしい理由を言っているだけで。
カウンセリングで大事なのは、その気持ちを聞くことなんです。論理で話をすると論破合戦になるけれど、離婚したのはどういう気持ちからだったの?と言われたら、「子どものこととかいろいろ考えたけど、この生活に耐えられへんかった。子どもに両親が争っているところを見せるくらいなら、一緒に住まへんほうが良い父親になれる気がして…」って。
こっちのほうが、カウンセリングが深まっているって、分かりますか?会社でも、何かあったときに「なんで?」って聞くよりも、「どういう気持ちでこれやったの?どういう気持ちがあったんかな?」って聞いてあげると、関係性は自然と深まっていくんですね。
――確かに、「なんで?」って聞かれるとちょっと委縮してしまうというか、相手の求めている答えを返さないといけないと思う感覚は分かります。なぜ?という代わりに、「どういう気持ちで?」という言葉を使うということでしょうか。
僕が畠瀬直子先生にカウンセリングをしてもらっていたときの話です。それなりにキャリアも積んでいたし、おかげさまで本も何冊も出させていただいていたのに、自分に自信が無かったんですよ。だから先生と話しているときに、“僕なんかが”って、よく言ってしまっていたんです。そのとき先生は、「あなたのその“僕なんかが”っていうのって、どこから来ているのかしら?」とおっしゃったんです。
確かに、どこからだろうと考えると、いろんなコンプレックスと同時に、ここまで頑張って来たという思いや、天狗にならないように自分を戒めていた気持ちにも気が付きました。
「あなたのその気持ちって、どこから来ているのかしら」って聞かれたら、人間って内省する。論理ではなく、内省して、ちょっと静かに自分自身を振り返る時間を持てるようになるという違いだと思います。すごく良い言葉を教えてもらったなと思って、真似しています。

◆話したくないときは、無理に話さなくてもいい
――傾聴についての心構えをお伺いしてきましたが、傾聴がうまくいかないなと思ったとき、例えば相手が「話したくない」と感じているときはどうしたらよいのでしょうか。
それはすごく大事なポイントで、それをそのまま尊重してあげるんです。来談者中心療法というんですが、話したくなければ話さなくてもいい。そこすら相手のペースでやっていくんです。話したくないと思うのって本当に当たり前のことで、いつか話せたら、ちゃんと自分の話を聞いてくれるかもしれないっていう関係性が切れないようにしておくことが大事なんですよ。
スクールカウンセラーなんかは分かりやすい例です。いじめを受けてスクールカウンセラーのところへ行けと言われても、子ども自身もすごくプライドが傷ついているからなかなか話し出さない。
「話したくなかったらそれでもいいよ。昼寝しててもいいし、話したくなったら話してくれてもいいし。教室に行きたくなかったらここにいてくれてもいい。遠慮なく声かけてね」って言われたら安心する居場所ができるでしょ。
それが大事なんです。会話はなくても居場所がある。それって最初に話した深い関係性ができているということです。本当に無理に聞かなくてもいいです。
――相手のことを考えて耳を傾けるということは、すごくエネルギーがいることだと改めて感じます。傾聴疲れを避けるために、心掛けていらっしゃることがあれば教えてください。
絶対に疲れるんですよ。めちゃくちゃ疲れる。だから、本を執筆している期間は新規の予約を入れないようにしたり、余裕があるときでも1日の上限を3件までにしたりとか、本当に詰め込まないようにしています。
正面から向き合って聴くって、本当に疲れるんですね。たくさん動いたりすると体は分かりやすく疲れるんですが、精神的な疲れはなかなか自覚できない。僕が一番できていないことですが、自分の疲れにきちんと敏感になることです。
みなさん疲れることを前提にやってもらった方がいいと思います。だから真剣に部下の話聞いた後は、上司もちょっと喫茶店に行ってケーキ食べるぐらいの一人になる時間を作らないと、その後すぐに仕事戻っちゃうと本当に疲弊しちゃうと思うし。
部下と面談するにしても、連続でいっぱい予定詰め込んじゃうと本当にしんどいと思うんで、なるべく精神的な余裕が持てるように時間を空けてやってほしいですね。詰め込みすぎるともう疲れちゃって、多分3人目ぐらいからはやっぱり雑な対応にならざるを得ない。
テクニックじゃない、本当の傾聴をやろうと思うと、それぐらい必要なんだっていうことは理解してほしいし、それで疲れたからって自分のこと責めないでほしいんです。一生懸命、相手のことを思いやったら人間って疲れるんですよ。

◆傾聴とは愛。そして「人としての在り方」である
人間って基本的に自分が一番大事な生き物なのににもかかわらず、自分の気持ちを差し置いて、まずは相手の話を相手の気持ちをしっかり受け止めようとする。その上で、自分の情けない部分もさらけ出して本当に正直な気持ちを伝える。これって愛なんです。
しんどいけれど、そうしてくれた上司のこと、部下は一生忘れないと思うんです。
目先の成績を考えると不都合なることはあるかもしれないけれども、会社を辞めても一生忘れないような、そういう上司部下の関係を 築けるというのは多分、ロジャーズさんや畠瀬先生が教えてくれた、僕がやっている傾聴だと思います。
そういった関係を築いていってほしいという思いでロジャーズさんは産業の場に傾聴を持ち込んだので、その気持ちがちょっとでも伝わったら嬉しいなと思います。
――ありがとうございます。最後に、これから傾聴を学びたい方に向けてアドバイスをお願いします。
大人になってから勉強するって本当にすごく尊い、大事なことです。この時間、別にテレビ観ててもゲームしてても、YouTube観ててもいいのに、勉強するというのはすごいこと。
ましてや傾聴や心理学という、 自分の人生に大きく影響を与えるようなことを学ぶことは、絶対に意味があることだと思います。応援していますので、これからもずっと楽しく学び続けていってくれたら本当に嬉しいです。一緒に傾聴を学んでいきましょう。

【お話を聞いた方】
中越 裕史(なかごし ひろし)
公認心理師、中越カウンセリング講座代表。大学卒業後、会社勤めを経て猛勉強のすえカウンセラーになる。2005年より「天職探し心理学ハッピーキャリア」を運営。社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。約20年間の活動で、1万件以上の相談を受ける。現在は後進を育てるべく、中越カウンセリング講座を開催。著書に『「天職」がわかる心理学』『日本一やさしい天職の見つけ方』(共にPHP研究所)など多数。
かつて傾聴研修でぎこちないオウム返しを繰り返したことのある私。傾聴=オウム返しのイメージが覆る、目からウロコのインタビューでした!聞けば聞くほど深い「傾聴」の世界…。
中越先生の優しい語り口と、とにかく話しやすい雰囲気で、素敵なお話を伺うことができました。中越先生、ありがとうございました!
『傾聴の極意』刊行を記念して、「はじめに」から第一章の一部を公開しています。ぜひチェックしてみてくださいね。
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