傾聴するこころを育てる『傾聴の極意』発売記念連載①「はじめに」全文公開!
1万件の相談を聴いてきた公認心理師、中越裕史さん初の傾聴本『傾聴の極意』が2025年3月発売になりました。

「カウンセリングの神様」と呼ばれるカール・ロジャーズの基本的な考え方に始まり、その系譜を継ぐカウンセラーたちの名カウンセリング集、そして中越さん自身がたどり着いた〈これからの聴き方〉まで、傾聴の極意を余すところなくお伝えしています。
読めば「傾聴するこころ」が育つ、新感覚の傾聴バイブルとなっています。
この刊行を記念して、全3回の連載を行います。
第1回目は、「はじめに」を全文公開です。毎週金曜日、公開予定です。
お楽しみに!
はじめに
~カウンセリングの神様と、その弟子の弟子が照らす希望~
本書は、あなたの「傾聴するこころ」を育て、人生を豊かにする本です。
ごめんなさい。すぐ使える「傾聴のテク」は紹介していません。
傾聴は「人としての在り方」だと、僕は考えているからです。
「オウム返しで相槌を打つといいと聞いたのに、どうもうまくいかない」
「講座や本で学んだことを実践してみたら、不自然な会話になった」
「部下の本音を知りたいけど、建前で話されている気がする」
「質問せずに聴くだけと意識しすぎて、変な沈黙ばかりになる」
そんな方には、ぜひ、本書をご一読いただきたいと思います。
はじめまして。公認心理師の中越裕史です。
僕は日本ではじめての「やりたいこと探し専門の心理カウンセラー」という、ちょっと不思議な看板で活動してきたカウンセラーです。これまでの約20年間で、1万件を超える相談を受けてきました。
本来は「やりたいこと」がわからない人向けのカウンセリングを行っていたのですが、なかには、「カウンセラーになるにはどうしたらいいですか」という相談に来る方もいらっしゃいました。そういう方のため、今は中越カウンセリング講座を運営し、カウンセリングを教えています。
「カウンセラーになりたい」という方々に、僕はまず、神様の話をします。
突然ですが、みなさんは、神様っていると思いますか?
無宗教の人が多い日本でこんな質問をしたら、ぎょっとされるかもしれません。
でも、もし僕たち心理カウンセラーに、「カウンセリングの神様を知ってる?」と質問したなら、ほぼ100%の確率で「そりゃ、知ってるよ。カール・ロジャーズでしょ」と返ってくるでしょう。むしろ、カウンセリング業界にいる人で、カウンセリングの神様と呼ばれるロジャーズを知らない人を探すほうが、難しいはずです。
なぜならロジャーズは、今や社会で多くの人が身につけたいと考えている「傾聴」を、世界ではじめてカウンセリングの場で実践した人だからです。
みなさんの「傾聴するこころ」を育てるための第一歩として、まずはカウンセリングの神様、カール・ロジャーズ(1902-1987)のお話をしたいと思います。
もしカウンセリングの歴史をふたつに分けるなら、ロジャーズ以前とロジャーズ以降になるはずです。それくらい心理学の歴史で、ロジャーズの影響力は大きいといえます。
ロジャーズ以前の時代は、心のケアを行えるのは専門職の人だけでした。心理療法・サイコセラピーと呼ばれ、医師か心理学者にしかできないと考えられていたのです。心のケアは閉ざされたもので、権威や資格を持つ人だけに許された行為でした。客観的、分析的で、患者にとって冷たい印象を与えるものだったのです。
そんな心のケアを一般の人にも広め、「カウンセリング」という名を最初に使って定着させたのがロジャーズです。
だからこそロジャーズは、「カウンセリングの神様」と呼ばれています。
カウンセリングの基本が、「傾聴」です。本書を読むみなさんなら、「傾聴」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。相手の話を深く丁寧に聴いていくことによって、よりよい人間関係を作り、話し相手が自然と問題解決に導かれていく。ロジャーズが傾聴の考え方を広めたことで、「心のケアはやさしく温かいもの」というイメージを世界中の人々が持つようになりました。
ロジャーズが作り上げた傾聴は、カウンセリングの場を飛び出して、今や医療、福祉、教育、企業、家庭、社会問題と、僕たちの社会の隅々まで広がっています。
最近では「パワハラ」「モラハラ」は許されない問題だと一般に認識されるようになりましたが、それもロジャーズの思想の影響が背景にあります。ロジャーズは、医者と患者、上司と部下、先生と生徒、夫と妻、親と子どもも、みな対等で、安心・安全な人間関係があるほうがうまくいくことを心理学的に研究し、世界に広めたのです。
またロジャーズは世界ではじめて自分のカウンセリングを録音し、公表した人でもあります。それまでの心のケアは閉ざされた世界で行われ、ほかの人がどのように相談者と話をしているのか、知ることができなかったのです。ロジャーズが録音を公開したことで、生のカウンセリングのデータが蓄積され、カウンセリングは一気に心理学として深みを増していきました。
今の僕たちにとって当たり前になっているさまざまな考え方を作り上げ、さらにそれを力強い行動力で広めていった人物、それがロジャーズです。
悩んでいる人の心に寄り添い、その人の話に静かに耳を傾ける。そうして深い関係性を築いていくことで、人の心は癒やされ、成長して問題を乗り越えていく。
そんな世界一温かくやさしいカウンセリングを作り上げたロジャーズは「静かなる革命家」とも呼ばれています。
しかしなぜか日本では、フロイトやユング、『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)で有名になったアドラーに比べて、カウンセリングの神様と呼ばれるロジャーズのことは、一般の人に知られていません。これはとても不思議なことです。
ロジャーズの考え方や傾聴がこれだけ日本でも一般の人に広まったのに、ロジャーズのことをまだまだ知らない人が多いことに、僕は歯がゆく、悔しい気持ちを覚えていました。
それに加えて最近、傾聴が単なるコミュニケーションのテクニックのように扱われていることもあり、「ロジャーズの傾聴はそういうことじゃない」といいたくなることが、よくあります。
僕の恩師である心理学者の畠瀬直子先生は、若いころにロジャーズのもとに留学し、直接ロジャーズ流のカウンセリングを学んでこられました。つまり僕はロジャーズの「弟子の弟子」、孫弟子になるわけです。
傾聴は、決して会話をうまく進めるための単なる心理テクニックではありません。
傾聴は、「人間と人間が、どうすればより深く、温かい関係を築けるか」という、人の関係性の在り方そのものをよくする営みなのです。
僕が本書を書くことにしたのは、傾聴をこの世界に生み出したロジャーズの生き方や考え方を伝えていくことは、傾聴について知りたい人、心のケアに携わりたいと思う人はもちろんのこと、人生の悩みを抱えている多くの人にとって力になるはずだからです。
第1章では、カウンセリングの神様、カール・ロジャーズの伝説のはじまりとなるエピソードから、ロジャーズの基本的な考え方をお伝えします。第2章では、傾聴を体感していただくため、先輩カウンセラーたちの素晴らしいカウンセリングの事例をご紹介します。第3章では、僕自身がたどり着いた、生きる希望を照らすこれからの傾聴、「ホープセラピー」についてお話しします。第4章は、僕たち生命体すべてが持っている「よりよく生きたい」と望む力について深く掘り下げます。第5章では、僕の恩師・畠瀬直子先生の「傾聴」という生き様を見ていただこうと思います。第6章では、僕が心がけている傾聴の姿勢や、カウンセリング実例を解説つきでご紹介します。
すべてを読み終わるころには、あなたの中に話を聴くうえで大切な「傾聴するこころ」が育っていることでしょう。
あなたの中に育った「傾聴するこころ」は、あなたの人間関係をより豊かなものにし、人生にも大きな革命を起こすはずです。
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