第26回毎月短歌【テーマ詠み:かなしみ】ケムニマキコ選
ごきげんよう皆さん。生活にお変わりはありませんか、休めるときに休みつつ今月もやっていきましょうね。レッツ健康。
さて、今回はテーマ詠み「かなしみ」に投稿された231首を選評させていただきます。ひらがなにひらくことで一気に多層性の出る言葉、かなしみ。私は「短歌といえば、かなしみやろ〜」みたいなイメージを持ってますが皆さんはいかがですか。ここで唐突に私の大好きな歌を引用します。
おれの仲良い人みんな仲良い人がおれしかいなかったらな さくら/鳥さんの瞼(出典:月刊短歌『十』)
好き……この短歌を読んで思い出すのはsyrup16gの「さくら」という曲。曲中にこんなフレーズがあります。
「悲しくて悲しくて涙さえも笑う 優しさも愛おしさも笑い転げてしまうのに」
私がかなしみについて思い浮かべるとき、それはピエロの姿をしています。どこか滑稽さのあるかなしみが一番かなしい。ギャグにしなきゃ受け止めきれない、そんなかなしみがあると思うのです。
それでは私が選んだかなしみの短歌たちを今から紹介していきます。今回はなんか語りたくなっちゃった(冒頭からそんな感じがプンプンしておるでしょ……)ので沢山選び、ベストマキコ⭐︎ ナイスマキコ◎ 佳作◯と分類しました。基本的にベスト→ナイス→佳作の順に一首あたりの文章量が減ってゆきますが、ムラもあります。あと目次つけるの大変だったので省略しちゃいました……諸々ご容赦ください。
◉選考基準◉
①マイナス評価として
・「かなしみ」という言葉に囚われて発想が固くなっている、と感じたものは選出しませんでした。短歌は一首の中に複雑な感情を込められている方がいいので、感情をテーマにと言われると身構えてしまうんですよね。とても難しかったのではないでしょうか。
②プラス評価として
・個人的な考え方や体験が具体的に表現されていること。
・口調や文体からキャラクター性が感じられて、そこから感情が滲んでいること。
・もちろん私の直観が、上手いな・好きだなと感じた上での話です。明らかな誤読があればそっと教えてください……。
よーし、ではベストマキコから行きますね。
⭐︎ベストマキコ⭐︎
①
初恋の彼を泣かせた『ロッキー』を仏頂面で見つめる夫
/あだむ https://twitter.com/short_poem0505
思い出しちゃったやつですね、歌意はもはや説明不要かと。初恋相手と夫との対比はあるあるですが、個人的なシチュでありつつ名画を選んだことで共感もしやすく、さらに「ロッキー→仏頂面→夫」とハネのリズムが連続する気持ち良さもあり、お手本的な上手さがあります。残念ながらロッキー観たことないのですが、単純に構造の巧みさに惹かれて選びました。
②
泣き出した母を抱きしめようとして押し返される同極磁石
/小仲翠太 https://twitter.com/OnakaSuiTanka
似たもの同士であることが、時に仇になってしまう。今回、この歌に最も強くかなしみを感じました。どうして親子ってままならないんでしょうね、歳を重ねたって、その関係性の前で私たちは子どもに戻るしかないというか。これは私の推す「ピエロ的かなしみ」があって、作中のふたりが比喩じゃなく本当に磁石人間だと想像してみると、絵面としては滑稽なのに、そこにどうしようもないかなしみが感じられます。
あとこれは真面目に言うんですけど、同極磁石ってオレンジレンジっぽい語感の良さがありますよね。字面は固いんですけど、私は短歌を唄だと思っているので、音読したときの韻律の良さの方を重んじています。
③
ダレノガレ(誰が逃れていく?)明美 月の明かりが美味しいなんて
/松たかコンヌ https://twitter.com/nekoimu
どうですか皆さん、全部嘘で出来てます(失礼)。ダレノガレと明美からそれぞれぽんと連想したような言葉遊びのフレーズが続いていて、これは弄り系のジョーク短歌かしら………? と初読時は身構えました。反面、この韻律に強く惹かれてしまったのも事実です。
で、とりあえずダレノガレ明美さんについて改めて調べてみると、こんなことが分かりました。
「本名は『福住・ダイアナ・明美・ダレノガレ』で、古い語源をさかのぼるとダレノガレは『クルミの木々から』、ダイアナには『月の女神』という意味があるという。ダッレとノガーレは2つの単語から成り立っており、ダッレは英語のfromと同義語。ノガーレは「クルミの木々」の複数形で、これを合わせると「クルミ林からやってきた月の女神 福住明美」という意味になると判明した。」(Wikipediaのリンクにあったニュース記事より)
どうですか皆さん、林から来たのか月から来たのか、結局なにも分かりませんでしたね。
しかしながら、どうやらこの歌で月が選ばれたのはちゃんと必然性があり、クルミから味を連想したとも考えられます。月の明かりが美味しいと思ったことは皆さんもないと思いますが、そこが「逃れていく(わかり合えない)」に繋がっていくのかなと思うと、おお、これは、ちゃんとかなしい。ダレノガレさんのちょっと孤高っぽいイメージにも合う気がします。おかしみの中にあるかなしみ、安心してベストマキコに選出させていただきました。
④
悲しみの仕組みはテトリス お鍋からそのまま食べる卵雑炊
/井山カナ https://twitter.com/_05_maryo
上の句と下の句それぞれは成立してるけど、くっつけると??ってなる飛躍系の短歌ですね。それにしても飛躍してる。一読してそのギャップに思わず笑っちゃった(好意的笑いです)ので残して、じっくり読むことにしました。
おそらくですが、積みあげたテトリス(悲しみ)をあの4つ並んだ縦バーで一気に消すみたいにして悲しみを忘れるの、という上の句に対し、下の句の行為が主体にとっての縦バーに相当するのかなと解釈しました(がんばった)。そう思うとめちゃめちゃ個人的でかわいらしいかなしみを詠んでるなと思って、これはアリだと判断しました。かなしみから自力で立ち直ろうという過程を詠んでいるのも好きでした。卵雑炊って優しいもんね。あ、でも一字空けはしなくていいかもしれないです!
◎ナイスマキコ◎
①
また夏は断りもなく終わろうとして、見て、空に、雲、いわし雲
/真朱 https://twitter.com/l0vemash
これは具体性よりも普遍性が高い作品なんですけど、韻律に挑戦している短歌が大好きなので選びました(私は5・7・5・4・3・2・5と読みました)。それに上の句と下の句との間にリアルタイムでいわし雲に気付いたように景を切り取っていて、かなしみの上の句から一転希望を感じさせる下の句が鮮やか。ぱっと雲の名前が出てこない主体の感じとかすごく上手いですよね。漫画的なキャラクター性が感じられます。ちなみに私は結句5音大好き界隈の人間です。
②
目次にも載れないだろうこの人に湊かなえを何度売っても
/村川愉季 https://twitter.com/sonatine_yuki
主体は書店員(あるいはブックオフの店員。私はブックオフだと思いたい)で、自分を覚えてくれない常連さん?に対して抱いている、親密になることへの諦めの気持ちを詠んでいるのかなと思いました。個人的で比喩も効いてますね。湊かなえはもちろん私も通りましたが、湊かなえばかり読む人はちょっとどうだろう、気をつけた方がいいのかもしれません(勘)。
③
ずれていく100-7の解答にすごいねと言い丸をつけてく
/サ行 https://twitter.com/Ns4HhpKEzA10870
これは解説が必要ですね。HDS-R(長谷川式認知症スケール)は、日本で広く使われている認知機能のスクリーニング検査で、認知症の疑いを判定する際に用いられます(あくまで目安なので、これだけでは判断できません)。その質問項目の一つに、100-7を繰り返していくというものがあります。
老いの切り口として珍しく、知っているとああ~ってなる(なった)絶妙な着眼点。そして下の句の主体の行動と感情の相反が泣き笑いを感じられて、とても良いです。
ただ、「ずれていく」の初句に対して「つけてく」と締めてしまった口調の乱れが惜しかったです。
④
実体を伴うことなき恋なれば ただかなしみに精を放ちて
/よいしょ上手の高木さん https://twitter.com/Precure_Yoisho
えーと、その、2次元でアレしちゃったということですかね。恋=性欲という点については否定も肯定もしません(と言いつつ言及しちゃってるのだから、何かしら思うことがあるのかもしれません)。個人的な話だし、文語っぽい言葉遣いと景のギャップが単純に上手いなと思いました。こちらも一字空けはしなくていいかもしれません。そういえば自慰行為っていつ頃からあるんでしょうね。
⑤
かなしみは濡れたガーゼでトントンと叩いて落とす水性だから
/北狐 https://twitter.com/kitakitsune77
水性だから、のいかにも下の句で上の句を説明している感じはちょっとマイナスポイントなんですけど、トントンという動きと響きが悲しみを慰めるときのそれにぴったり重なって、ちょっと癒されちゃったナ……という感じです。あるべき形をそのまま取りだしたような収まりの良さも素敵ですね。
◯佳作◯
①
たんぽぽが咲いた街にも夜が来てぽんぽこぱんと灯るかなしみ
/沙々キハム https://twitter.com/matsuqing
街灯が灯る感じ? をかなしみが灯ると表現していることと、ぽんぽこぱんが可愛らしい。夜が来ることだけにかなしさを託すのが少し強引というか、選考の場では弱かったかなと思います。
②
想い出の色とりどりをしまい込み喪服の確かなリッチブラック
/はるかぜ https://twitter.com/spring_bird_gr
リッチブラック(K100%に加えて、C・M・Yを混ぜた黒)は色が混ざって深みが出た黒で、かなしみの多層的な部分を表現するのにぴったりのモチーフです。良い着眼点でしたが、結句でハネが二つ続くところの韻律のオフロード感が、上の句の滑らかさと調和しないかもしれません。
③
死ぬほどの傷ではないと言われればゆっくり海を裂きゆく小舟
/Umi. https://twitter.com/Umi1146295
「ゆっくり」は歌人の大好きワードのひとつで取扱注意ですが、この景にはゆっくりが適していると思いました。浮かぶイメージの心細さとじんわり痛みが広がっていく様子、そこに普遍性のある美しさが感じられて良い短歌だなと思います。ただ、普遍性で失われるものも。死ぬほどの傷ではない、と言われるシチュエーションは実際にはかなり多様で、同様に傷つき方も多様なので、共感できるようで、深いところまでは辿り着けないというか。単体でかなしみを感じさせるには少し弱かったような気がします。連作向きの一首かもしれません。
④
広大な海にぽつりと浮かんでる人の中にも広大な海
/ツキミサキ https://twitter.com/umi_tsukitokage
サンドイッチ短歌(初句と結句が同じ)や〜! マトリョーシカみたいな多層構造が面白いですね。ただ、かなしみを表現しきれていない気がしました。私はむしろポジティブな気持ちを感じられたので、感情を想起させるという点では読者に投げてしまってる部分があるかもしれません(このテーマじゃなければ特に問題ないですが)。
⑤
次のひとまでとまらない電車なら一旦降りてしっかり泣きたい
/奥 かすみ https://twitter.com/okukasumi
王道の恋愛短歌と読みました。かわいくないですか? かわいいですよね。「一旦・しっかり」の重ためのハネ方からは、主体の芯の強さも感じられます。そのキャラクター性に惹かれました。
⑥
かなしみに飢えてんのかなヒロインが死ぬ映画とか観ちゃって俺は
/岡田道一 https://twitter.com/OkadaDouitsu
これもかわいいなと思いました。男の人の可愛らしさというか。「てんのかな・観ちゃって」などの口調がポイントですね。
⑦
ねえ悲しい?いま悲しい?って聞いてきてうるせえおまえの葬式なんだぞ
汐留ライス https://twitter.com/RCodome
これも口調というか、ネットミームっぽい言葉遣いを活かした一首ですね。過去のやり取りを思い出してるのか、想像なのか、霊体なのか……おかしみとかなしみが感じられて好きです。一瞬笑っちゃうんですけど、だからと言ってかなしみが軽くなるわけじゃないんですよね。きっと主体はこの後もかなしいままなんだと思います。
⑧
知ってるよガードレールを跨ぐときみたいにあしたに行けばいいだけ
/横井のの https://twitter.com/mi1s4am
怖い、なんか絶対間違ってるのに止められない気がする。だってガードレール跨ぐときって基本的にコースアウトじゃないですか、やばい予感しかしないじゃないですか……せめてガードレールの向こうに誰かが待っていてくれたらいいなと思います。なんとなく主体は10〜20代って感じがするのもあって、現在アラフォーの私はこの歌には全然共感できなかったんですけど、その思い詰めた感じと言い切りの強さに惹かれました。短歌はこれくらい言っちゃった方が良いと思う。
◉総括(おまけ)◉
① 脱!体言止めキャンペーン
突然ですが2025年下半期、私は脱!体言止めキャンペーンを開催します。どうやら私、体言止めが好きなんですよね。今回、結句が体言止めの短歌が231首中だいたい60首くらいあったんですけど、そこから8首も選んでしまいました。そういえば自分で詠むときも体言止めしがちだし……体言止めが好きすぎる!距離取らなきゃ!! と反省しました。脱体言止めしないと連作組む時に困るんですよね。もし同じような方がいらっしゃったら一緒に脱していきましょう……!
②定型自体がもつかなしみについて
短歌の定型って、なんか元々かなしくないですか? 定型に言葉をはめ込むと、どうしても哀愁というか静けさみたいなものを纏ってしまう気がして、そこにかなしみをそのまま乗せると、時として過剰になるのかなと思いました。定型の持つ力のベクトルとの付き合い方を考えるのも短歌の面白さかもしれません。例えば以下の短歌は、定型が内包するかなしみを上手く活かしていてバランスが良い気がします。
わー、みんなすばらしい幽霊となり群舞のなかにさよならなんだ
/山中千瀬(出典:歌集『死なない猫を継ぐ』)
以上です。今月もありがとうございました。
