【第十一章】まもるとこわす 家づくり|大手家づくり企業と戦う300日の記録|価値の証明
あっという間に2月も最終週。寒い冬を越え、少しずつ春の兆しが感じられるようになりました。私はこの家に住み始めてから「庭いじり」が趣味の一つになりました。これまでプランターという小さな世界だけで楽しんでいた植物の世話も、根を大きく広げられる庭になったことで、雑草むしりも大変にはなりましたが、季節の移り変わりを身近に感じられるようになり、さらに植物の儚さや逞しさに気づく機会となりました。

昨年2月、物置が倒れ地盤が沈下して以来、土に触る心の余裕も薄れ、庭先や玄関を見るたびに、これまで育ててきた植物への心配りが欠けていたことを猛反省し、久々に庭いじりを。やはり人は、空とか海、土や水など、自然を感じることで、生きる喜びや癒しを得るのだなと実感しました。
この連載では、隣の建て替え工事に伴うトラブルに巻き込まれている夫と私が、編集やデザインの視点に加え、生成AIを「分析ツール」として駆使し、問題に立ち向かうプロセスを公開します。
相手は大手ハウスメーカー。立場は弱い「隣人」。それでも理不尽な力から愛する家族を「まもる」ために、具体的に何をしたのか?
まだ解決していないからこそ書ける、綺麗事ではない思考と行動のプロセスをすべて公開します。
住宅トラブルに悩む方、これから家を建てる方へ。泣き寝入りせず家を守るための「実践的なノウハウ」になれば幸いです。
これまでに私たち家族に起きたトラブルを発端からお読みになりたい方は下記の『序章』からぜひ。
裁判という舞台のルール
私たちの問題を解決するヒントを得るため、先日「欠陥住宅関東ネット」という相談会に参加しました。
ここは、欠陥住宅被害の救済と予防を目的として結成された、弁護士・建築士・研究者・市民による幅広いネットワークとして、12の地域で活動されています。
この相談会の特徴は、弁護士と建築士に加え、必要とされる専門家が同席し、トラブルの解決方法を相談できるというもの。私たちの場合、弁護士や建築士に加え、地盤品質判定士にも同席いただき、問題の経緯や現状をお伝えし、知見を得る機会としました。驚いたのはその相談料の良心的な価格設定。そして、相談者の多いこと。こんなにも建築トラブルに悩まされている方がいるのかと、心底悲しい気持ちになりました。

私たちは2度ほど相談会を活用しましたが、そこで感じたのはやはり「建築裁判」の因果関係の立証や損害賠償請求の難しさ。
2度目の相談時には、なぜ物置が倒れ、隣地も含め地盤が沈下したのかという理由は概ね解明できていました。それでも、「地盤の空洞化リスク」という一番の懸念点について「裁判」という手法で解決することはなかなか難しいことが分かりました。
その理由は「現時点で母屋に不同沈下が起きていないなら、地盤に残された空洞化による将来のリスクは損害賠償請求できない」という弁護士の一言にありました。
地盤品質判定士による報告書には、
下部地盤に空洞部分が残っている可能性はぬぐい切れない。今後その空洞部に崩れこみ地表面に陥没等の事象が再度発生する可能性がある。隣接工事の掘削範囲、掘削深度が不明確なため、建物への影響範囲内に空洞部分が残存している可能性がないと判断できない。この空洞部の影響により、今後建物周辺の地盤変位が発生し、建物に影響を及ぼす可能性は現時点では払拭できない。
とあるのにも関わらずです。
これは、将来地盤が沈下して、ゆるゆると建物が傾いていることが、品確法(住宅品質確保促進法)に基づく値以上にならなければ、損害賠償請求もできない……ということになります。
安心を奪われた土地の、本当の値段
でも、よく考えてみれば、「もしかしたら、庭先の地盤がいつか沈下するかもしれないけれど」という土地を買いたいなんていう人はいるでしょうか?
私なら絶対にそんな土地は買いません。「隣との境界近辺に沈下があったとしても、母屋は大丈夫ですよ」と言われたとしても。

このように見た目ではわからない心の購買不安を「心理的瑕疵(スティグマ)」と呼びます。
不動産鑑定士によれば、土地を完璧に直したとしても、「過去に事件(事故)があった土地」という心理的な嫌悪感が残り、心理的な減価が認められた場合、一般的に5%〜10%程度、不動産価値が下がる可能性があるとのこと。

また、土地の評価額を算定する際の「最有効使用(最も合理的な土地の活用方法)」について、建物を解体して更地にし、隣地と同じように60センチ地盤を下げて地盤改良をすることで原因を取り除き、古い擁壁を全面的に新しく作り直すことが「最有効使用」となる可能性が高く、正常な土地の価格から「建物の解体費用」や「擁壁の再構築費用」「地盤改良費用」などを差し引いた金額が、現在の評価額になるとも教えてくださいました。
つまり、現時点で母屋が傾いていなくとも、隣地の不適切な工事と放置によって、私たちの家の不動産価値はすでに「数千万円規模のマイナス(実害)」を背負わされている状態にあると理解できます。
そしてこのマイナスの実害は、地盤が沈下した隣地も同じこと。
空洞というどこにあるかわからない時限爆弾のようなものを抱えた土地は、問題そのものが解決しなければ、売ることも、建てることも難しくなってしまうのではないでしょうか。
不動産の世界では土地の境界線という、人間の都合で決めたルールで管理されていますが、雨水や土の動きなどの自然は、人間が決めた境界ルールなんてお構いなしなのですから。
過ちの果てに学ぶこと
人間は、だれしも間違いや失敗をするもの。そしてそこから学び、成長することもできます。
私は編集者でありデザイナーでもあるため、ご依頼いただいた制作物の「誤植(文字や写真の間違い)」に気づいた時は、それはもう青ざめるわけです。

ミスが発覚した場合は、これまでの修正履歴を全て見直し、どの段階でミスが起きたか、本来はどうするべきだったのか、同じようなミスが起きないためにどのような工夫ができるのかと、向き合うことはもちろん、印刷物の刷り直し手配を含め、どのように謝罪し、代案を提案できるかを検討します。
完璧でない人間だから失敗はしますが、失敗の先に続く対応次第で、信頼を繋ぐことができると信じているから。
私が今回の一連のトラブルに対して実感したのは「人の本質は問題が起きた時の対応で見える」ということ。それは企業であっても同じはず。
物置が倒れ、地盤が沈下した時点で被害者に立証責任を押し付けるのではなく、本当に自分たちの工事になんの原因もないのか、現状をきちんと調査し、把握すること。その上でどのような対応ができるのか、またその問題の本質はどこにあるのか? に向き合うことこそに「企業としての価値」があるように思えるのです。
note、10,000PV達成しました
『まもるとこわす 家づくり』の連載を始めてから、約2ヶ月半が経ちました。誰かの家のトラブルなんて、読みたいと思うかしら…と思いつつも、私はいつも文章を書くことで心の整理をしていたため「記録」という形を取りつつ、同じように泣き寝入りをする方にとって、少しでもヒントになるようなことが書ければ…とも考えていました。
threadsでnoteの告知を少しずつ始めてから気づいたことが一つ。私たちが抱えているトラブル以外にも、もっと複雑で、もっと深刻な状況に直面している方の多いこと。
夢のマイホームだと思っていた「家づくり」だったのに、家が建つ前から不安しかないと嘆く施主の方や、引き渡しを受けたあとに気づいた不備や瑕疵を訴えてもなかなか直してもらえないという方、施主にとっての重要事項が十分に伝えられておらず、ハウスメーカーに対する不信感を抱いている方など、本当にさまざまな投稿を目にしました。
そのどれにも共通していたのが「誠意」という物差し。その物差しは人によっても違うため、価値観や感覚のずれで悩み、建築裁判というとてつもない壁を目前に泣き寝入りする。
もちろん、言いがかりやクレーム的な発言を擁護するつもりはありませんが、その全ての発端は「意識やことばのすれ違い」にあるような気もしています。
そうした方々とのコメントのやり取りやDMのやり取りが少しずつ増え、顔も名前も知らない誰かが、そっと励ましてくれたり、知識を与えてくれたり、私とは違った見方を教えてくれる。そして「失礼かもしれないけれど、面白い」と言ってくれる。
10,000人が見てくれた…とまでは思っていませんが、そうした声や反応を少しずつ感じられるようになってきたことで、記録を続けることの意味を感じるようになりました。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
【本記事の事実確認について】 本連載に記載されている内容は、すべて筆者が独自に入手した公的文書(建築計画概要書、登記簿等)、関係者との通話録音記録、メール履歴、および現地調査データに基づき構成しています。 記事内で言及している行政手続きや法的解釈については、関係法令(建築基準法、宅地造成等規制法、民法等)に基づき記述しております。
これまで私は、事態が誠実に解決に向かうことを願い、企業名を伏せて記録を綴ってきました。しかし、企業の不誠実な対応と、社会的な安全を軽視する隠蔽体質を前に、これ以上の沈黙は『次の被害者』を生むだけだと感じています。そのため、プライバシー保護の観点から一部の個人名は伏せておりますが、企業名および公的機関名、事実経過については、記録に基づき正確に記述しています。
