【序章】 まもるとこわす家づくり|大手家づくり企業と戦う300日の記録
大手家づくり企業と戦う300日の記録
私は現在、横浜を拠点に「コミュニケーションデザイナー」として活動しています。耳慣れない肩書きかもしれませんが、その本質はとてもシンプルです。企業や自治体が抱える複雑な想いや課題を「聞き出し」、バラバラに散らばった情報を「整え」、もっとも伝わる形に「翻訳」すること。それが私の仕事です。デザインや編集という仕事は、「見た目を整えること」に終始することではありません。
24歳で沖縄へ移住し、独学でデザインの世界に飛び込んでから25年余。1000人以上の方への取材を通じて培ったのは、相手の心の奥底にある思いを聞く「傾聴力」と、物事の本質を見抜く視点でした。「人はみんなすごい。生かせるかは自覚と戦略次第」。これは私が仕事をする上で大切にしている信条です。
こうして多くのクライアントの課題解決に伴走してきた私が、そのスキルを自分自身の生活を守るための闘いで総動員することになるとは、想像もしていませんでした。
長く愛されるものづくり
私の仕事のもう一つの軸に、「ロングライフデザイン(長く続く愛されるもの)」をテーマとする活動との関わりがあります。
「ロングライフデザイン」とは、身のまわりに溢れた日用品から、住環境にまつわる「もの」の本質的なデザインだけでなく、家族の単位から隣人を超え地域社会へのあり方を示しています。それは、さまざまな土地らしい個性や、時間をかけて育まれた味わいこそを慈しむ、という価値観です。
全てのものづくりの企業が、利益や効率優先主義ではなく、使い手のことを考え、地球のことを考えた視点を持つことで、より良い社会が広がっていくということ。スクラップ&ビルドで新しい箱を作ればいいという効率優先の考え方ではなく、そこにある歴史に敬意を払い、さらに長く愛されるものへと編集し直す。この視点は、仕事に限らず、私自身の「暮らし」の根幹となりました。
私たちが慈しんできた「経年変化」のある暮らし

5年前に、沖縄から故郷である神奈川へ戻り、昨年から夫が両親から受け継いだこの家に住み始めました。築年数を重ねた家ですが、私たちはこれを単なる「古い物件」とは捉えませんでした。夫の幼少期の落書き、義母が大切に使っていた台所道具、庭の植栽……。そこには、家族の歴史というかけがえのない時間が積層していたからです。
私たちは、この家の「記憶」を残しながら、自分たちの手で新たな命を吹き込むリノベーションを行いました。
DIYリフォーム日記

友人の大工さんの力を借り、夫、私、そして子どもたちも手伝いながら、古い砂壁には呼吸する珪藻土を塗り、床には足触りの良い無垢材を一枚一枚を張り直しました。埃まみれになりながら汗を流したDIYの日々。不揃いな節や、生活の中で増えていく傷さえも、愛おしい「経年変化」として楽しむ。
そうやって、私たちの家族が時間をかけて「本当の家族」になり、この家もまた、私たちだけの「心地よい響き」を奏でる場所に育っていったのです。
突然の不協和音。対話なき工事との戦い
しかし、そんな私たちの「丁寧に積み重ねた暮らし」は、隣地で始まった大手ハウスメーカー(タマホーム株式会社)の紹介による解体・造成工事によって新たな局面を迎えることになりました。
重機による激しい振動。目と鼻の先で、携帯電話で通話をしながら重機を動かす姿を見て、安全管理の基本が守られていない現場に、私は強い不安を覚えました。

ある朝、目が覚めると義母が大切にしていた庭道具を納めた物置が転倒していました。これまで幾度となく台風の風にも耐えてきた大型物置の転倒は、本当に驚きの光景でした。さらに驚いたのは、隣家の擁壁を再設置するために、我が家の擁壁の一部を壊した際、業者が誤って開けてしまった穴が、約5ヶ月にわたり放置されていた事実が判明しました。
施主にことの状況を説明するために、損害の事実だけを写真と日付を添えた資料を用意し、何度も対応をお願いすることから始めました。
新しい家を建てるという隣家の夢を邪魔しようという気は全くありません。
ただ、私たちもその価値観を大切にするので、私たちが手をかけ愛している家への思いも理解して欲しいことを丁寧にお願いしました。
そして、現状で何が起きているのか、どうすれば安全が確保されるのかといった対話から始めることにしました。ところが、対話の先に返ってきたのは、物置の転倒原因は風や経年劣化やアンカーの未設置のせいにされ、修理や交換を訴えるには、工事が原因であるという「因果関係の立証」が必要という、難しい用語で突き放すような返答。

さらに、幾度にわたる交渉の最中に、5ヶ月も放置された擁壁の穴から、庭の土が流れ、5月連休中の大雨の朝、隣地との境界線沿い、奥行き11メートル、幅25センチの足元の地盤が沈下しました。
頭をよぎったのは、境界線からわずか80センチにある母屋への影響。物置が倒れ、地盤が沈下。この次には家が傾くのではないかという不安ばかり。
幾度となく施主や業者との対話を試みましたが、私が仕事で大切にしてきた「対話」や「想像力」とは真逆の現実でした。連携の取れていない施工体制、責任を押し付け合う業者たち、安全管理の予測すべき不備に対する真摯な対応もなく、「新しい擁壁になったのだからいいだろう」という、一方的な切り捨て。そこには近隣住民の「暮らし」への敬意も、家づくりのプロとしての「誇り」も感じられませんでした。私はまず、被害の状況を写真と日付を添えた説明を、A4サイズ2枚程度にまとめ、諦めずに対話による解決を試みましたが、最終的には「5万円の謝礼金で地盤も含めたすべてのリスクを放棄するように」という合意書が手渡されました。なぜ賠償(責任を認めること)ではなく、謝礼(感謝)なのか。そこにも疑問を抱かざるをえませんでした。
感情だけで戦っても、問題は解決しない。このまま理不尽を飲み込むことは、自分の「仕事」と「生き方」を否定することになる。そう気づいた時から、私は仕事で培った「編集力」を使い、事実を記録し、複雑な問題を構造化し始めました。
このnoteは、単なる近隣トラブルの告発ではありません。
「暮らし」を愛し、「コミュニケーションの力」を信じる一人の生活者が、その信念を守るために何を選択し、どう動いたか。見えない問題を可視化し、解決へ導くプロセスの実践録です。
一気に解明編に進みたい方は第八章へお進みください。そのまま読み進める方は第一章へどうぞ。
【本記事の事実確認について】
本連載に記載されている内容は、すべて筆者が独自に入手した公的文書(建築計画概要書、登記簿等)、関係者との通話録音記録、メール履歴、および現地調査データに基づき構成しています。 記事内で言及している行政手続きや法的解釈については、関係法令(建築基準法、宅地造成等規制法、民法等)に基づき記述しております。なお、プライバシー保護の観点から一部の個人名は伏せておりますが、今後の状況に応じて、企業名および公的機関名、事実経過については、記録に基づき正確に記述していきます。
【メディア関係者の方へ】
本件に関する証拠資料(音声データ、写真、公的文書、上申書の写し等)は全て整理済みです。取材依頼や詳細情報の提供については、SNSのDMにてご連絡ください。
【PROFILE】
松崎 紀子(まつざき のりこ)
合同会社デザインクリップス 代表 / コミュニケーションデザイナー
1974年生まれ。24歳で沖縄へ移住し、独学でデザインの世界へ。求人誌編集や観光サイト運営を経て、2005年に独立しました。沖縄と横浜という異なる土地で、人や地域と向き合いながら、数多くのプロジェクトに携わってきました。
1,000人を超える取材経験の中で培ってきたのは、「聞く力」と「整える力」です。複雑に絡み合った感情や状況を俯瞰し、本質を見失わないまま、伝わる言葉や構造へ編集していくことを大切にしています。現在は、横浜企業経営支援財団(IDEC)のデザイン相談員として中小企業の経営に伴走。行政や企業のブランディングから、チームビルディング、撮影、デザインまでを一貫して手がけています。
信条は「暮らすこと=生きること」。大切にしているのは「ロングライフデザイン」。流行を追うのではなく、その土地や人に長く続く価値を見出し、美しく翻訳することが私の基軸です。
2021年に故郷・横浜へ戻り、受け継いだ家を家族とリノベーションしながら住み継いでいます。休日は海へ出て釣りを楽しみ、庭の土に触れる。自然の時の流れに身を置く時間が、私の思考を常にニュートラルに整えてくれます。現在は、隣地工事をきっかけに起きた住宅トラブルと向き合いながら、「家を守るとは何か」「安心して暮らすとはどういうことか」を、このnoteで記録しています。
