【第八章】まもるとこわす 家づくり|大手家づくり企業と戦う300日の記録|点と線をつなぎ面にする。
「因果関係の壁」を突き破る思考法
ついこの前、新年を祝ったと思っていたのに、あっという間に2月を迎えてしまいました。 さて、隣地の新築工事に伴うトラブルですが、9月末に造成業者の計らいで施主ご夫婦にお会いしてから、早くも4ヶ月の時が過ぎました。
この4ヶ月は、私の人生の中でも一番自分の職能をフル活用した時期だったと言っても過言ではありません(笑)。 感情に流されそうになる自分を必死に抑え、法律や事実をAIを活用しながら読み解き、専門家の言葉に耳を傾け、理論を編み上げる日々でした。
私たちの「物置が倒れ、地盤が沈下した原因」に関して立ちはだかっていた「因果関係の立証」という高く分厚い壁。ひとまずは、この壁をなんとか乗り越えたことを、ここにお知らせいたします!!
というわけで、第八章からは『まもるとこわす家づくり』の第二編として、「解明編」をスタートします。ことの発端からお読みになりたい方は下記の『序章』からぜひ。
この連載では、隣の建て替え工事に伴うトラブルに巻き込まれている夫と私が、編集やデザインの視点に加え、生成AIを「分析ツール」として駆使し、問題に立ち向かうプロセスを公開します。
相手は大手ハウスメーカー。立場は弱い「隣人」。それでも理不尽な力から愛する家族を「まもる」ために、具体的に何をしたのか?
まだ解決していないからこそ書ける、綺麗事ではない思考と行動のプロセスをすべて公開します。
住宅トラブルに悩む方、これから家を建てる方へ。泣き寝入りせず家を守るための「実践的なノウハウ」として役立てていただければ幸いです。
感情を排し、事実を5つの問いで整理する
私たちは、この問題を解決するにあたり、弁護士事務所や相談窓口などに幾度となく足を運びましたが、そこで気づいたことは一つ。
物事を感情で語るだけでは、相手には届かないということ。
「新築から年数が経っていないのに壁紙が剥がれ出した」
「扉や階段に歪みを感じる」などといった状況証拠(点)だけを伝えても、意味がないのです。そして相手が巨大企業であったとしても、誠意をもって相手にしてもらえるとは限らない。
だからこそ私たちは、デザインや編集の仕事で使う手法を取り入れ、以下のフォーマットで事実を再構築することにしました。

過去に起きた一つ一つの不可解な点は、写真データ、音声記録、SMSのやりとりなど、個別の出来事として記録されています。
なぜ、物置は風速8mの日に倒れたのか?(点A)
なぜ、地盤沈下が発生したのか(点B)
なぜ、基礎にヒビがはいったのか(点C)
さらにこれらを時系列という「線」でつなぎ合わせ、専門家の見解、法律という定規、登場人物の相関関係などを照らし合わせていくと、そこには「偶然では済まされない、組織的な構造(面)」が浮かび上がってきたのです。
私たちがこの数ヶ月で行ったのは、まさにこの作業でした。そして、その事実から「家をつくること」に求められる本質にまで目を向けることができました。
点をつなぎ線にする立証
①なぜ、物置は風速8mの日に倒れたのか?
物置の転倒を発見した2025年2月8日。気象庁のデータによると前日の夜からの風速は最大9.3mで、その翌日は最大8.6mの風速です。この物置は、2019年の台風19号襲来時、最大瞬間風速 43.8 m/s の暴風に耐えた実績があります。だからこそ風で倒れたという説は考えにくい。
原因が風ではないとすれば土はどうなのか?
第五章でもお伝えしたとおり、私たちの家は、多摩丘陵の比較的安定した強度の地盤を保有する地域にあります。そんな中、道路から2.6メートルの高台に並ぶ隣家が、建て替え工事に伴い60センチの地表を削りました。

削られた土は重力に従って斜めに落ちていきます。そして土が安定に保とうとするには「安息角」と呼ばれる30〜45度の角度が必要とされています。つまり、それ以上の急な角度(垂直など)で掘れば、土は崩れるのが自然の摂理です。だからこそ、土を掘削する造成時には土が流れ落ちないようにするための「土留め」という施工が必要でした。これは本を支えるブックエンドをイメージするとわかりやすいかもしれません。
造成業者(株式会社K-STYLE)は、私との電話で「土留めが影響があると判断したときは止めを入れているけれど、物置に影響があるとは思わなかった」と話していましたので、地盤の専門家が報告書に記載した「転倒した物置が置かれていた場所は、この掘削範囲の影響内であったため、表土が崩れたことによる転倒した」という一行で、物置の転倒原因が簡単に立証されました。
②なぜ地盤は沈下したのか
さて、物置転倒の立証ができたところで、次は「地盤沈下」の謎解きに進んでいきます。

時計の針を少し戻します。
2024年9月ごろから解体工事が始まり、遅くても12月には更地になり、造成工事へバトンタッチされる時期でした。 この時、解体業者によって私の敷地との境界線に開けられた「穴」。その断面は、上部だけでなく地中深くまでギザギザに切り取られ、すでに空洞の兆候が見えていました。そして、この小さな隙間がいくつも空いたスリットのような亀裂は、地盤沈下が発生するまでの約半年の間、適切な処置もされないまま放置されていました。
③地下でつながる二つの家
ここで重要なのが境界線に新設された「コンクリートブロックの基礎の深さ」です。 それは、通常地下30センチ程度の深さまでしか埋まっていません。ですから、地中ではふたつの土地は仕切られているのではなく繋がっているとイメージできます。

乾燥した冬の季節が過ぎると、春の長雨が訪れます。気象庁のデータによると3月3日には、まとまった雨(最大24時間降水量26.5mm)が観測されています 。 さらに3月中旬、下旬、4月下旬と、数日降り続く雨が断続的に私の敷地に染み込んでいったと考えられます。
こうして少しずつ、乾燥と降雨を繰り返す中で、水を含んで重くなった土は、抵抗の少ない穴や、高低差の低い隣地の方へと動き出します。
それはまるで、砂時計の砂が小さな穴に向かってサラサラと吸い落ちていくように、時を重ねながら静かに進行していったのでしょう。
そしてゴールデンウィークの2025年5月2日。この日、横浜市は夕方から雷を伴う激しい雨に見舞われました。17時30分には最大1時間降水量27.5mmという猛烈な雨を記録。同日の24時間雨量は62.0mmに達しました 。この大量の雨水が境界線や穴近隣の土をさらに押し流したと考えられます。
そしてその2日後の、2025年5月4日。激しい雨も上がり、晴れ間が広がった2日に、新設された境界線沿いの奥行き11メートル、幅25センチにわたる土は軽く踏んだだけで沈んでしまったのです。

さらに、穴に近い隣家の敷地でも、同様に直径1メートル程の沈下が起きていました。 これは、「隣の工事のせいで私の土が流れた」という被害者意識の話ではなく「二つの敷地の土は地下でつながっていて同じ穴に向かって流出した」という証明になります。
さて、これは何を意味するのでしょうか?
造成業者(株式会社K-STYLE)は穴が空いたままになっていたことを知りながら、「こんなに土が流れるとは思っていなかった」そして「水の道は地中でどうなっているかわからない」と話していました。
さらに、地盤調査士による報告書には「目視で確認された空洞が下部地盤に残っている可能性はぬぐい切れない」とも記されています。また肝心の空洞部は境界線CBや穴を塞いだリブがあるため、物理的に調査が難しく、空洞がどこにあるかもわからない状態のまま。
単なる転圧のみの埋め戻しや、リブの設置という措置に加え、SWS試験という一点の地盤の硬さを測定する地盤調査では、どこにあるかわからない地盤の空洞を見つけるのはとても難しいもの。それは目隠しをしながら宝を探すようなものです。
さて、はたしてこの現状の地盤は安定している、安全であると言えるでしょうか?
次回は、『この土地は安全である』という大前提の裏に隠された、『国の許可証』の意外な真実を紐解いていきたいと思います。
こうしてデータの矛盾と戦っていると、企業の倫理観に心が荒んでしまいそうになります。そんな時、私に人としての在り方を気付かせてくれるのは、家族との静かな時間です。
感謝するということ
施設に入っている95歳の夫の母。私たちは二週に一度、母の元を訪れています。だいぶ痴呆が進んだ母ですが、息子の顔を見ると涙して来訪を喜びます。一方で私はいつも「はじめまして」からのご挨拶。一度は一緒にお義父さんのお墓参りも行ったのになぁと、ちょっぴり寂しい気持ちもありますが、それでも毎回新たな気持ちで、何度も繰り返す同じ話を楽しんでいます。

戦後のもののない時代を生き抜いた義母から学ぶことは「なんでも感謝していただく」という教え。ものがあることへの感謝、食べられることへの感謝、親に育ててもらっていることへの感謝。「人は一人で大きくなったわけではない」と、戦中に亡くなった実母を思い、涙する。そして「感謝をしないものは天狗になる」とも。
そんな母の話を聞いていると、ものに溢れ、何不自由なく過ごし、刺激に満ち溢れている今、本当に足りないのは「感謝の心」なのではないかと思うのです。
【本記事の事実確認について】 本連載に記載されている内容は、すべて筆者が独自に入手した公的文書(建築計画概要書、登記簿等)、関係者との通話録音記録、メール履歴、および現地調査データに基づき構成しています。 記事内で言及している行政手続きや法的解釈については、関係法令(建築基準法、宅地造成等規制法、民法等)に基づき記述しております。なお、プライバシー保護の観点から一部の個人名は伏せておりますが、今後の状況に応じて、企業名および公的機関名、事実経過については、記録に基づき正確に記述していきます。
【修正記録】
2026年2月17日|関係各社の名前を表記いたしました。
