「働くことは健康に悪い」──産業保健にデータ分析で立ち向かう、iCARE開発部の挑戦【社員インタビュー】
「働くことは、正直、健康に悪いと思っています(笑)。しかし、その『健康に悪い』という大前提に立ち向かい、いかに健康的かつ楽しく働き続けられるかを、技術で実現したい」
今回お話を伺ったのは、「Carely健康管理クラウド」の開発部を率いる福傳(ふくでん)部長です。人の健康を守るという極めて重要かつ難易度の高いドメインにおいて、エンジニアが果たすべき役割とは何なのか。そして、その技術は働く人々の未来をどのように変えていくのでしょうか。
本インタビューでは、福傳さんが抱く産業保健に対する熱い想い、iCARE開発現場が直面する具体的な課題、そして未来を切り拓くための挑戦とビジョンについて、率直に語っていただきました。

【プロフィール】
大学卒業後、物流系ベンチャー企業にてエンジニアとして勤務。要件定義から開発・保守運用まで一貫して担当。2020年、株式会社iCAREにバックエンドエンジニアとして入社。その後、プロジェクトマネージャー、テックリードを経て、2023年8月よりプロダクトマネージャー(PdM)としてプロダクト開発を牽引。2025年2月より、Development部 部長 兼 VPoE(Vice President of Engineering)に就任。
産業保健の現場で、技術が人の健康を守る瞬間
── まずは、iCAREの開発部が担っている役割について詳しくお聞かせください。組織の規模感、開発対象、そして何よりもその開発が持つ社会的な意義について、ご自身の言葉で教えていただけますでしょうか。
福傳(ふくでん) 私達がメインで開発しているのは、「Carely健康管理クラウド」というSaaSシステムです。このシステムは、企業が従業員の健康を管理し、生産性を高めるための産業保健領域に特化したソリューションです。
一般的に「産業保健」と聞くと、その内容を具体的にイメージしにくいかもしれません。簡単に説明しますと、従業員が受ける健康診断やストレスチェックの結果を集約・分析し、そのデータに基づいて「このままの生活や働き方を続ければ、健康を損なうリスクが高い」「例えば、血圧が非常に高すぎる」といったリスクを抱える従業員を速やかに特定・フィルタリングします。そして、特定された従業員に対して、企業としてどういった適切な対応や産業医面談、改善施策を提供していくかを管理する、企業の健康経営を支えるシステムです。
現在、Development部全体では約30名規模の体制で動いています。内訳としては、核となるアプリケーションエンジニアが半数以上占めており、その他にPdM(プロダクトマネージャー)、デザイナー、QAE(品質保証エンジニア)、SRE(サイト信頼性エンジニア)が在籍しています。
さらに、特徴的なのがR&D(リサーチ&デベロップメント)機能を強化している点です。ここでは、お客様の同意・契約のもとで提供される統計的・匿名化データを分析し、「どうすれば働く人の健康をより良くできるか」という未来の機能やサービスの種を探求するアナリストやエンジニアが活躍しています。
── iCAREの事業成長に伴い、顧客の規模も大きく変わってきているとお伺いしました。この変化は、開発チームにどのような影響を与えていますか?
福傳(ふくでん) 会社全体として、この3~4年、毎年20〜30%の非常に高い成長率を維持しています。これは非常に喜ばしいことなのですが、同時に、開発チームに課せられる責任も増大しています。
最も大きな変化は、顧客の規模が劇的に拡大している点です。以前、私達が対応していたのは、最大でも5,000人規模の企業様が中心でした。しかし今では、3万人、4万人といった大規模な従業員を抱える企業様が続々とCarely健康管理クラウドを導入してくださっています。
顧客規模が大きくなるということは、単にユーザー数が増えるという話に留まりません。大規模企業では、その企業特有の細かく厳格に決まった運用ルールが存在します。SaaSとして、個別の要求に対応しつつも、どう汎用性を保つか。これが、プロダクトの根幹に関わる大きな挑戦です。
そして、大規模なデータとユーザーを扱う上での技術的な難易度も跳ね上がります。システムパフォーマンスをいかに維持・改善していくか。これは、単なる機能追加以上に重要な課題となっています。
── なるほど。産業保健の領域では、技術的な判断ひとつが、人の健康に直結するような難しさがあるわけですね。
福傳(ふくでん) まさにその通りです。産業保健という領域は、私達が提供する技術やシステムが、究極的には働く人の生命、生と死に直結する可能性を秘めています。例えば、システムが正確なリスクアラートを出せなかったことで、従業員が重篤な健康被害を負うといった事態は絶対に避けなければなりません。
そのため、私達エンジニアには、単に仕様書通りにコードを書くという姿勢を超え、「この機能は何のために存在するのか」「このデータが示す裏側のビジネスドメインの深い背景」まで、深く理解する高い倫理観と技術者の覚悟が求められます。この理解なくして、働く人の健康を守るシステムは提供できません。

RTAという開発哲学──レガシー改善も新規開発も同じ熱量で
── そのような環境の中で、iCAREの開発部が大切にしているバリューは何でしょうか。
福傳(ふくでん) 私達が大切にしているバリューは「RTA」です。これは「Respect(リスペクト)」「Toughness(タフさ)」「Active(アクティブ)」を意味します。
まず「Respect」は、お互いを尊敬し合う心理的安全性の土壌をつくることに加え、これまで現システムを築き上げてきた先輩エンジニアや過去の取り組みに対しても敬意を払う姿勢を指します。
次に「Toughness」は、お客様の変化や技術的な難局に対してタフに立ち向かう精神力を意味します。
そして「Active」は、その行動を能動的に実行し続ける姿勢を重視することです。
── このタフさを発揮するために、組織体制の面でも工夫されていることはありますか?
福傳(ふくでん) はい。以前は開発部門内だけで完結していた機能開発のプロセスを、今ではCS(カスタマーサクセス)やES(従業員サクセス)といった他部署のプロフェッショナルメンバーにもPdM(プロダクトマネージャー)として参画してもらっています。これにより、開発部門だけで閉じず、お客様の運用実態や現場の課題を深く理解するメンバーと共に、プロダクトの価値を高めることができるようになりました。
特に重要なのは、私達が目指す健康改善のPDCAサイクルです。SaaSを導入しただけで健康になれるわけではありません。例えば、オムロンさんとの協業で構築しているデータ分析基盤では、オムロンさんが収集したリアルな健康データを私達が分析します。そして、「健康を創るための施策をどう企画・実行すべきか」というプロフェッショナルサービス側の視点と、技術側の視点を融合させます。
この施策の結果を翌年のデータで再び検証し、改善する。このデータと施策、そしてシステムが一体となったPDCAサイクルを企業として回し続けるための仕組みを、私達が技術で実現しているのです。これは、単なる機能実装で終わる仕事とは一線を画す、非常に深いエンジニアリング・マネジメントが求められます。
── そのサイクルの中で、現場のエンジニアが日々立ち向かっている「課題」はなんですか?
福傳(ふくでん) 現場のエンジニアが直面するのは、「既存機能の改善」と「新規機能の開発」という、二つの使命です。
新規開発の代表的な例が、AI-OCRの取り組みです。
健康診断結果は医療機関ごとにフォーマットが異なり、人事や産業保健スタッフがそれを手作業でデータ化するには膨大な時間と労力がかかります。結果として、入力ミスやデータの抜け漏れといったリスクも発生していました。
私たちは、この課題を解消するためにAI-OCRを利用して医療機関から企業へ提出される健診結果票を、安全な環境でデータ化する仕組みで、データ化の前にある“紙の壁”を技術の力で取り除こうとしています。
一方で、既存機能の改善も同じくらい重要です。
過去に作られたものの、現在はほとんど使われていない「ゾンビ機能」や、「To Do」コメントが残されたままのレガシーコードは、システム全体のパフォーマンスを低下させ、将来的な技術的負債につながりかねません。
── そういった技術的負債への対処は、新機能開発に比べて目立ちにくい仕事だと思いますが、それを重要視していると。
福傳(ふくでん) はい。レガシーコード内の「To Do」コメントを全てリスト化し、地道に潰し続けるといった、職人芸的なタフさを持つメンバーが実際に活躍しています。これは新機能開発という「花形」の仕事ではないかもしれません。しかし、誰も気づかないであろう小さな違和感や不備を真摯に潰し、システムの健全性を守ることは、お客様の信頼を維持し、開発スピードを落とさないための、極めて重要なエンジニアリングです。私達は、これらのレガシー改善を、新機能開発と等しく、あるいはそれ以上に重要な使命として捉えています。
小さな「違和感」を力に変える、熱量の高いエンジニアと共に、健康な未来を創る
── 福傳さんが考える、iCAREの開発組織で共に働く仲間に求める資質は何でしょうか。
福傳(ふくでん) 共に働きたいのは、「違和感に気づける人」です。
日々、開発組織で業務をしていると、機能やプロセス、あるいはチームの動きに対して、ちょっとした違和感を覚える瞬間があるはずです。その小さなサインを見逃さず、放置せずに、改善のために自ら動ける人と働きたいと思っています。
正直、その違和感の出発点が「不満」や「愚痴」でも構いません。むしろ、「あれ?」とか「なんかモヤっとするな」という感覚を曖昧なままにせず、「どうすればより良くできるか」を考え、行動に移せる人こそ、iCAREで最も力を発揮できるタイプだと感じています。実際に私達は日々Slackで違和感を共有し合い、議論がすぐIssue化される。そんな「動く組織」です。
── キャリア志向については、専門性を深めるべきか、それとも「越境」すべきか、どのようなバランスを期待しますか?
福傳(ふくでん) どちらか一方に偏る必要は全くありません。私達は、あえて運用全体に越境し、プロダクトマネージャーやプロジェクトリーダー的な領域で強みを発揮したいというメンバーの志向を最大限に尊重します。実際に、元エンジニアが運用マネジメントやPdM領域で活躍し、開発とビジネスの橋渡し役として不可欠な存在になっています。
一方で、「私はこの分野の技術を極めたい」と、セキュリティやパフォーマンスといった特定の専門領域に特化し、職人として最高の品質を追求するエンジニアも、同等に重要です。私の役割は、個々のメンバーの強みとキャリア志向を深く理解し、その才能が全体として最も大きな価値を発揮できるバランスをデザインすることだと考えています。
── 最後に、これからiCAREの開発組織への参画を考えるエンジニアに向けて、メッセージをお願いします。
福傳(ふくでん) 最後に、私自身が抱く根本的な問いを改めてお伝えしたいと思います。仕事は、時には体力やメンタルを削り、私生活とのバランスを崩しかねない側面があります。そういう「働くことは健康に悪い」という大前提に、私達は立っています。
iCAREが目指すのは、この「健康に悪い」という大前提に、技術とデータを持って立ち向かい、働く人が健康的かつ充実感を持って働き続けられる未来です。
それは、新しい機能を生み出す華やかな創造の仕事も、レガシーを丁寧に改善し、未来の負債を潰す地道な仕事も、全てが等しく重要であることを意味します。あなたの持つ「意思」と「違和感」は、iCAREにおいて最も強力な原動力となります。この挑戦的な問いと、人の健康という社会的な意義に共感し、共に未来を切り拓いていける仲間を心から待っています。
「話を聞いてみたい」──そんな軽い気持ちでも構いません。
ぜひカジュアルに、私たちの挑戦についてお話ししましょう。
【記事・カメラ:アオキタカユキ】
