浦島、乙姫とコラボする/『書き食う一族』装画制作裏話

浦島が興奮しちゃって超勘違い発言していますが、大目に見てやってくだされば幸いです。
2021年秋から精力的に本を作り即売イベントで販売し続けているつる・るるるさん。その2021年の年明けくらいでしたか、「このエッセイストすごい」とるるるさんの文章に惚れ込み、暑苦しいほどの熱気を地球の反対側から送り続けていた浦島Ru太郎(おっと、noteで暫く分身たちを登場させていないのでなんのこっちゃの方もいらっしゃるかもしれませんが、このKaoRu、数々の分身(多重人格とも言う?)を持ち合わせておりまして、そのうちの一人が浦島Ru太郎なのでございます)。
そんな浦島がこの度、今振り返っても「夢なんじゃねえだか」と思ってしまいそうなのですが、るるるさんに「新刊の表紙を描いてほしい」ともったいないお話をいただきましてっ、
御祖父母様に関するエッセイをまとめた『書き食う一族』の表紙(裏表紙も含む装丁)及び扉絵を手掛け、3月下旬に無事納品、後は刷り上がってくるのを待つだけ、の段階に来ました!
前出のるるるさんの御記事では新刊が完成に至るまでの道のりが語られていますが、本記事では絵の話を重点的に、今回私が手掛けたイラストの制作裏話と称して綴っていこうかと思います。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
浦島にとってのつるる一族
つる・るるるの文章の虜になる。それは彼女の家族の虜になることも意味している、と言っても過言ではないくらい、るるるさんのエッセイにはご家族に関する面白おかしくかつじんわり感動できるエピソードがたくさん登場します。るるるさんの筆が素晴らしいのはもちろんなのですが、何と言うか、ものすごい個性派ぞろいなのも事実なのだと思うのです。
例にもれず既にるるるさんのご家族、そして親戚を含むご一族が大好きになって久しい私がいただいた今回のご依頼。そりゃもう嬉しいのなんのって!と身悶えしたのはもちろんなのですが、しかし単に読者として読んでいるのと文章の中の人物たちを描くのって全然別の話。小躍りした次の瞬間、「私、きちんとるるるさんの御祖父母様を把握しているかしら…?」と一気に自信がなくなり、確認のため、まずは家系図のメモ書きをすることにしました。もうそれはそれは壮大なファミリートゥリーを書くつもりでペンを手に取った浦島。

つるせんお父様に鳥のようなものが侵入していますが、ここはいつもの癖で「つるる」と書き損じたため。
乱筆失礼。
あらら? 想定していたよりかなりシンプル。そう言えば祖父母様を把握するためにはご両親のごきょうだい(伯父様伯母様叔父様叔母様)や従姉さん(彼女もそうとうな個性派!)を書き込む必要はないのでした。
ここから、それぞれを「歌人」「ウニ祖母」「ムツ子」「梅干し」と勝手な通称(敬称略)で呼びながらキャラ作りを始めました。ちなみにるるるさんからは「表紙・扉絵を担当してほしい」とお話をいただいたのであって、具体的に「似顔絵を描いて」と言われたわけではありませんが、御祖父母様たちに関する本の表紙に彼らを描くのは当然のことのように思われたので、参考にできるお写真を送っていただくことにしました。
以下、まずは一人一人どのように人物像を固めていったのか、それから表紙の構図の話を順々にご紹介します。
描きにくい歌人
そもそもるるるさんが今回このようなテーマでご本を作ることになったのはお父様方のお祖父様が歌集を残していた、というところが原点となっています。この方、今まで私の中で一番もやがかかっていた、というか、「そう言えば〝もう一人の〟おじいさんのお話、出てこないよね?」とほんのり思っていた人物。だって他の三人(父方祖母、母方祖父母)はかなりのキャラの強さで今までエッセイに登場しているのに、こちらのお祖父様に関してはなかなか登場してくれない。今回お話をいただいてやっと、るるるさんの生誕前にお亡くなりになっていたからだ、と合点しました。
で、お人柄は著者のるるるさんでさえほとんど把握していないということで、私のほうではいただいたお写真を参考に描いていく、イメージを反映させるのなら「短歌を生涯詠み続けていた」という事実を滲ませる、で進めていくしかないなあと思い、何度もラフスケッチを重ねたのですが、「芸術愛好家の瘦せ型好々爺」のような、ベレー帽をかぶってニコニコしているおじい様しか描けなかった。「何か違う感」を抱えながら、これはるるるさんの歌人に関する書き下ろしエッセイを待つしかない、そこから受けるイメージで描くしかない、と少し寝かせることにしました。
そして仕上がってきた書き下ろしエッセイ。そこで私、猛反省をいたしました。思い描いていた人物像と、全然違う……! 書き下ろしのネタバレになってしまうので詳細は省きますが、彼は「インテリ好々爺」というより「若い時からかなりの苦労人で、それでもめげずに短歌を作り続けた人物」。エッセイを読んだら一瞬にして「酸っぱい顔したおじいちゃん」が浮かびました。
そこでぱぱっと描いてるるるさんにお見せしたラフがこちら。

お見せいただいたお写真も参考にしてはいますが、こちらはるるるさんのエッセイから受けた印象最優先で、るるるさんにも「ぜひこのイメージで」と合格をいただきました。
キラーワードはパリピなウニ祖母
通称ウニ祖母、上記の歌人の奥様であるお祖母様。通称がウニ祖母なのは、noteで公開されその後受賞もされたエッセイ「最後の晩餐は、願わくばウニ丼」がすごく印象深いから。
この方は「施設で転んで起き上がれなくても迷惑をかけたくないばかりに助けを呼ばなかった」というエピソードも印象的で、そこからイメージする人物は「とても控えめな人」。ですからいただいたお写真から髪型や体型は参考にしたものの、最初に描いたのは大人しく優しそうなおばあちゃん。しかしそれをご覧になったるるるさんの反応は「ウニ祖母はもっとパリピな感じ」。
でたっ、ぱ、パリピ……!
いやあ、何をビビっているかと言うとですね、私、「パリピ」という言葉を知らないのです。ワタクシ浦島Ru太郎、チェコに渡り住み着いたのは2002年、その後生み出された日本語の新単語にめっぽう弱いのですが、これが浦島をいかなる状況に陥らせるのかを説明するために、「日本語新単語」を以下の四つに分類してみると分かりやすいかと思います。
① 母語だからして言葉の感じと文脈から意味が分かったし、自分でも使えそう(例:推し、終活、サブスク)
② 母語だからして意味は文脈から推測できるが、恥ずかしくて自分じゃ使えない(例:アラサー(フォー、フィフ含む)、リア充、推し活、イケオジ、(大人の女性の意味での)女子)
③ 言葉を見た時は意味が分からなかった(誤解していた)けれど、意味を知ったら自分でも使うようになった(例:スマホ)
④ 言葉を見ても意味が分からなかったし、当然自分じゃ使えない(例:エモい、ガラケー、ツンデレ、腐女子)
あ、例を見て「おーい、それもう死語やでー」ってものもあるかと思いますが、その辺りはどうしても埋められない時差(空間差)があることをご理解いただければ。インターネットの普及おかげで新鮮な日本語に触れる機会があるだけ恵まれた時代なんだな、とまだ20世紀に国外に移住した人々の母語力劣化のエピソードを読んだりするたびに思います。
おっと、横道にそれましたが、上記の分類で「パリピ」は私にとってどこに入ると思います?
答えは④。「意味が分からんし当然自分じゃ使えん」。
実は私がnoteを始めたおかげで出会えた言葉というのが結構あるのですが(例えば「推し」という言葉も「自分が大好きで熱を入れて応援したい対象」を意味するということをnoteを始めた2020年にやっと知りました)、「パリピ」もその一つ。しかも誰の御記事でこの新単語を意識し始めたのかも覚えています。
それは、数年前のとき子さんの御記事。ご実家のお父様の庭のオブジェの紹介で、ミニチュアか何かのルパン三世の人形(?)があって、そのお写真の下に「パリピ」という言葉が書かれていたのです。意味が分からないのなら調べればいいのですが、お写真の下に書いてあったものですから「パリピって、ルパン三世みたいな人のことを言うんだな…」と思ってそのままにしていたのです。以来「パリピ」という単語に出会うたび私の頭に浮かぶ映像は「踊るルパン三世」。
しかししかし、今度ばかりは真の意味を調べてみないわけにはいきません。だってウニ祖母とルパン三世って、すごくかけ離れているんですもの……!
パリピとは、「パーリーピーポー(party people)」の略で、パーティーやイベントなどを積極的に楽しむ人を指す言葉である。明るく社交的で、場の雰囲気を盛り上げるタイプの人に対して使われることが多い。 SNSやテレビを通じて広まり、現在では若者言葉として一般的に使われるスラングの一つとなっている。
……えっと、やはりこの言葉の意味とウニ祖母を結び付けるのはちょっと無理がある気が。と思いつつ、つまりはるるるさんの言いたいことは「もっと明るく元気な感じ」なのだろうな、とそのイメージをウニ祖母キャラに盛り込むことにしました。
描き直したラフは既に表紙全体のラフに描いたものだったのですが、そちらで「そうそうこんな感じ」と合格をいただきました。

ところで、知らない一単語にそこまで苦しむんだったらるるるさんに直接聞けばよかったんじゃ?と思われるかもしれませんが、ここはカッコつけ浦島、恥ずかしくって聞けなかったんですわ、へへ。
ムツ子はムツ子
通称も何もない、本名でお呼びしているお母様方のお祖母様、ムツ子さん。彼女は「戒名もムツ子で!」と言って譲らなかったエピソードでがっつり私の中に「キャラ立ち」した人物なのですが、今回作画するにあたって、一番写真を参考にせず、かつ、一番そっくりに描けているらしい人。
実はお写真をいただいた時も「あ、ムツ子さんね、存じ上げておりますよ」って感じでサラッと見ただけでスィ~っとラフを描いたんです。それをお見せした時のるるるさんの反応は
「あまりにもムツ子」。
その後自分でも改めて振り返って、「あれ? ムツ子像は私の中で以前から出来上がっていたけれど、もしかしてお写真は今回初めて見せてもらった?」とびっくりしたんです。これも、るるるさんの文章力のなせる技、と思えば不思議ではないのかもしれません。外見描写をみっちりしているわけでもないのにソックリに描かせてしまう、そんな力があるのだと思います。改めて「人の印象って外見より内面で決まるものなのかもなあ」と思わされました。

笑ってシメたい梅干し
キャラ立ちムツ子の配偶者であり今もご健在のお母様方のお祖父様はムツ子さんに旅立たれてから家事全般にすごい力を発揮し梅干しまで漬け始めた、というエピソードから、通称は梅干し。
梅干しさんも文章からだいたいのイメージは出来上がっていて、お写真を拝見しても頭の中のイメージ通りでした。
お写真を拝見する限り、私好みのちょっとニヒリスティックな笑みが似合うイケメン(るるるさんに「はっ?」と言われそうですが、うふふ、私好きなんですよ、こういう感じの表情ができる方)。しかし、あえて絵ではイメージやお写真よりももっと笑ってもらいました。それは、何でしょう、この四人を並べた時のバランスでしょうか。ご本の中でも四人目で登場するこの方には「シメの大笑い」を演出してもらいたい、と思ったのです。
最初ラフスケッチをした時は「もっと違う感じにした方がいいかなあ」という迷いもありましたが、結局この線で行くことにしました。

表紙には絶対、カキ
四人のキャラ作りと並行して表紙の構図も考えていったわけですが、最初に私が出したアイデアは「真ん中に乙姫つるる(私が考案した鶴を被ったるるるさんのキャラ)でそれに集う御祖父母様たち」でした。しかしるるるさんからは「私よりも四人をメインに」とのご希望で、確かに表紙に五人は多すぎるかなあ、とも思い、四人だけを残して練り直したアイデアがこちら。

そうそう、ご本のタイトルから「どうしても柿を入れたい!」というアイデアは最初からあって、こんなふうにゴロゴロさせたら楽しいかも、と思って思いっきり大きくしたら、るるるさんにもご好評でした。
そして、通常は自主制作ではアナログでの作画しかしない、デジタルで仕上げるのは仕事でやむを得ない時のみ、という方針で描いていますが、今回のご本はA6サイズということで、遠目にもぱきっと目立ってもらうにはデジタルで塗られている方がいいよなあ、と思い、デジタル仕上げとなりました。

しかし! 題字の毛筆書きは手放しませんでしたよ!
このポップな雰囲気に私の厳つい毛筆が合うかどうか、というのも少し心配でしたが、可愛く甘いだけの印象にならないためにも、結果良い塩梅に収まったのではないかと思っています。
実はフォント選びが苦手っていうのもあるんですけどね、えへへ。
表紙だけに留まらない
表紙の他、二章に分かれた本編に二点扉絵を、こちらはアナログ(お馴染みのペン画に水彩)で描かせていただいています。ムツ子梅干しご夫婦の扉絵ではるるるさんも「気が付いてなかった!」とおっしゃったご一家共通のアイテムをサラリと強調させていただきました。
それから裏表紙のデザインを見ていただくのも楽しみ。もちろん『書き食う一族』の一番のおすすめはるるるさんの珠玉のエッセイなのですが(書き下ろし、ファン必見でございます!)、私の絵のほうもちょいっと楽しみにしていただけたら、そんな嬉しいことはありません。
そして私事ですが、今回は今までのnote内でのコラボと違って、本名でご紹介いただきました。noteのアカウント名は本名の綴りを変形させたものですが、これはリアルで私を知る人から隠れてnoteを書くための対策でした。現実世界では本名で絵描きとして使ってもらっているので、今回るるるさんにご紹介いただけるのならリアルで私の絵を知る人にも見てもらえる名前にしておきたいな、と思ったのです。
ところがです。本名を日本語でご紹介いただいて、「この漢字三文字、私じゃない感じがする…」と自分で思ってしまうというおかしな現象が。それもそのはず、私が本名で絵を描いている時も、舞台は主にチェコですから、自分の名前は本名でも常にローマ字綴りなんです。私自身が自分の名前から心が離れていってしまっている……。これは問題なのではないかと思い、自身の中の齟齬を修正すべく、今までチェコ語と英語だけで案内を書いていたポートフォリオサイトに日本語を付け加えたり、と策を講じているところです。
初売りは5月の文フリ東京
本記事でご紹介いたしました『書き食う一族』は5月4日に開催される文学フリマ東京で発売されます。つるる書店のブース番号は「な-09」、例の如く浦島もとい工作員ルゥノスケ、語呂合わせを考案いたしました。ぜひ「名はマルク」で覚えてくださいませ。
ネットショップでは既に予約受付が始まっているようです。「GWは東京に行けないよぅ」という方はどうぞお見逃しなく。
以上、乙姫とのコラボが叶って浮足立った浦島Ru太郎の熱烈制作裏話でした!……って、あれれ、久々に6000文字超えてる……!
最後までお読みくださった方がいらっしゃるなら心からの御礼の気持ちを捧げつつ、素晴らしい制作の機会を与えてくださったるるるさんへの感謝を込めて、今日はこの辺で失礼いたします。
