「文芸部部長をモデルにしたハンニバルというキャラクターについて」
部長から出されたお題で小説を書き続けているうちに、この設定をまた使いたいな、このキャラの違う話を書きたいな、と思えるようなものが増えてきた。その中の一つに「哲人強盗団はなかなかロケットランチャーを発射できない」というものがある。ソクラテス、プラトン、ゴルギアスを名乗る三人組による強盗団の話で、毎回ロケットランチャーは用意されるが、発射されることはない。強盗もしていない。プラトンは女性で、ゴルギアスと付き合っている。ゴルギアスは場を引っ掻き回す役割で、語り手であるソクラテスは冷静に状況を観察しながら、どうでもいいことを考えている。
そのシリーズの最新作「そもそも毎回ロケットランチャーを用意する必要なんてなかった」の中で、新キャラクターを一人増やしてみた。ゴルギアスと仲良くなる長身の女性で、ハンニバルと名付けた。ソクラテスとプラトンとゴルギアスとハンニバルが同時に話す場面では、案の定自分で名前を書き間違えてしまった。いい加減なゴルギアスにちょっと絡むだけのキャラクターなので、今後も出すつもりはなかった。そのキャラクターを長身にしたのは、部長をモデルにしたからだ。本物の部長のように、身長2メートルで握力100㎏超で、中年男性同士が絡むBL小説を書いている、というところまでは描写しなかった。しかし頭の中で部長をモデルにしたのは確かである。
いつものように書いた小説を部長に提出した後「この子は次の話にも登場するのか」と部長にしては珍しく、小説の中のキャラクターについて言及してきた。
「特に考えてはいません」
「自分の書いたものに登場させた人物については、責任を取らなければいけないと思うのだが」
確かに、チョイ役であれ主役であれ、途中で書くのを止めた話の中で、そのキャラクターは停滞し続ける。誰かが書き継がない限り、そのキャラの人生は止まったままなのだ。気軽に生み出して、気軽に捨ててしまったキャラにだって、人生はあるのだ。
「確かにちょっと無責任に書いてしまった気はします。だからハンニバルはいなかったことにします」そう言って私は原稿を取り戻そうとした。
「そういうことを言ってるんじゃあ、ない」部長は私の原稿を頭上に掲げた。とても届かない。ぴょんぴょんと跳ねてみた。部長もドスンドスンと跳ねた。
「届きません」
「届かなくていい」
「ハンニバルを消す必要はない。今後も出すなら出すで、違う描き方もあるのでは、と思っただけだ」
「というと?」
「ソクラテスと絡めるとか」ソクラテスというのは、私とキャラが被っている語り手のことだ。
「ソクラテスとバンドを始めるとかですか」元々は、ゴルギアスとハンニバルがバンドを始めようとしたことで、ゴルギアスとプラトンが喧嘩を始めて話がややこしくなったのだ。なんだこのあらすじ説明は。
「古本市で再会した二人はやけに気が合って、とかあるだろ。そのまま流れで映画館に行くとか」
「それだと恋愛小説みたいじゃないですか」恋愛小説は苦手だ。
「苦手なジャンルを書いてみるのもいいんじゃないかな」
「分かりました。二人でリバイバル上映中の『フェイス/オフ』を」
「チョイスがおかしい」
「観終わった二人は互いに二挺の拳銃で撃ち合う『フェイス/オフごっこ』を河原で」
「そこは二挺のロケットランチャーにしておきなさい」
「そんなの部長くらいしか出来ませんよ」
ハンニバルのモデルが部長だというのがバレているのかもしれない。と私はこの時初めて気が付いた。
「実はハンニバルのモデルは部長なんですが、ひょっとして勝手にモデルにしたことを怒ってます?」
「怒ってない」そう言いながらなんだかぷんぷんしている気がする。ぷんぷんていつの時代の表現だろう。ぷんぷん式土器とか、ぷんぷん時代とか。
「やっぱり書き直すので原稿を返してください」ぴょんぴょん。ドスンドスン。
というわけで部長から出された新しいお題は「恋愛映画を観る二人」だった。私は二挺のロケットランチャーが、擬人化などされず、ロケットランチャーのまま恋愛している実験映画を観に行く、二挺のロケットランチャーの話を書いた。
「ハンニバルはどこへ行った!」忘れてた。
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