「毎回ロケットランチャーを調達する必要なんてない」
※以前書いた銀行強盗団の続編です。哲学者の名前を通り名として使っている連中で、前回は名前を出さなかった「私」の通り名はソクラテスです。覚えておく必要はありません。
またプラトンがロケットランチャーを用意した。またゴルギアスが砲弾を抜いて売り払った。その金でまたソロキャンプに行ったゴルギアスは同じくソロキャンプに来ていたハンニバルという女子と意気投合してバンドを組むことにしたという。
「浮気じゃないの!」とプラトンは砲弾の装填されていないロケランを構えてゴルギアスを脅している。
「恋愛関係とかそういうのじゃないから。ただ俺は純粋にバンドを組んで武道館ライブを目指したくなったんだ」
「あなた楽器何も弾けないじゃないの」
「歌がある。歌は人類を楽器にした」
「ぼそぼそ喋る奴が人類を語るな」
「次の銀行強盗の計画を練るはずだったんだが」と私は口を挟んだ。
「ちょっと黙って」
「大体歌ならこいつより私の方が上手い」
「二度と喋らないで」
「ジャンジャーンジャジャジャジャジャ」
「何かの曲のイントロを歌わないで」
ゴルギアスまでロケランを構え始めた。
「ソクラテス、あんた俺のハンニバルを狙ってるのか?」話をややこしくするな。
「俺のって何よあんた、やっぱりデキてんの?」
「落ち着け、『デキてる』という表現は古い」私は今この場に必要な指摘を的確に判断して口に出した。発射されないロケランの引き金をゴルギアスは何度も引いている。
「一旦落ち着こう。みんなロケランを床に置いて」銀行強盗計画を練るたびに、武器調達係のゴルギアスが新しくロケットランチャーを用意するものだから、私たちの隠れ家である郊外の廃屋はロケラン置き場みたいになってしまっていた。
「整理しよう。
1.銀行強盗にロケランは必要ない
2.プラトンはハンニバルとバンドを組んで武道館ライブをしたい
3.ゴルギアスはプラトンを許せない
4.私の歌はプラトンより上手い
ここまでに依存はないな?」
「5.ゴルギアスはソクラテスを撃ち殺したい」も加えて。とプラトンが言う。
「6.早く帰ってハンニバルとカラオケ行きたい」とゴルギアスがかき回す。
「7.銀行強盗の話に戻りたい」私は初心に戻りたかった。
そこに廃墟の壊れたドアを蹴破って巨漢の女性が入ってきた。私たちは一斉に床に置いていたロケランを拾おうとするが、ガチャガチャとぶつかりあってうまくいかない。
「ゴルギアスいる?」
「ハンニバル! どうしてここに」
「友だち紹介してくれるって言ったじゃない。バンドのメンバーになるかもしれないって。この間ロケラン見せてくれた所に集合してるって」
「お前、そんなこと言ったのか。隠れ家をばらして武器を見せてたのか」私はゴルギアスに問い質した。
「8.そういえばそんなことを言った気がするがあんまり覚えていない」冷静なゴルギアスの脛をプラトンが蹴る。
「ごめんだけど、うち友だちのバンドに入れてもらうことになったから、あんたとの話はなしね。何も楽器を弾けない人と組む意味もないし。キャンプは楽しかったよ。あ、彼女さんですか。お話は伺っています。ずっとのろけてましたよこの人。大丈夫、私とは何もないです。熊を撃退してたんで」
ハンニバルの去った後に残された私たちは、あらためて銀行強盗の計画を練ろうとしたが、誰もがやる気を失ってしまっているのは明らかだった。
「私、ドラム叩こうか」プラトンはゴルギアスの背中をぽんぽんとリズムよく叩き始めた。
「いいよ、俺音楽辞めるよ」そもそも音楽を始めてたのかは疑問だ。
「ジャンジャーンジャジャジャジャジャ」私の歌うイントロに合わせて、ゴルギアスの背中と尻が叩かれる。プラトンの指は次第にゴルギアスのお腹やおでこやらを叩いていく。いつまでもゴルギアスが歌い出さないために、私の歌うイントロは長く長く続いてしまっている。ようやく動いたゴルギアスの唇は、プラトンの唇と重なった。ビートが途切れる。私一人だけがジャカジャカ言いながら、次に襲う予定の銀行の見取り図を広げた。
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