「スタジアムは最高、交通だけ惜しい」②—サッカー観戦の「次の一手」を行動経済学で考える
はじめに
砂森和也(すなもり かずや)です。昨年、AC長野パルセイロで現役を引退した元サッカー選手です。今はクラブの外側から、クラブの成長に貢献できることを探しながら活動しています。
その活動のひとつが、ホームゲームでお願いしているサポーターアンケートです。これまで4試合、合計1,005件の声をいただきました。
その声を整理した記事を、先日noteで公開しました。テーマは長野Uスタジアムの交通アクセス問題。駐車場不足、シャトルバスの行列、長時間の帰り待ち ― サポーターの多くが抱えている切実な困りごとです。
公開後、Xでトレンドニュースとしても取り上げられ、想定を大きく超える反響がありました。

Xでの表示回数:69万
リポスト:983件
コメント(リプライ・引用):190件以上
前回の記事を読んでいない方も多いと思うので、最初に簡単に内容を紹介します。そのあとで、これだけの反響が僕に見せてくれたものと、その先で僕らが何を考えるべきかについて書いていきます。
前回の記事では交通経済学の力を借りました。今回は、もうひとつの学問 ― 行動経済学、そして経済学の基本概念である機会費用、経営学の新潮流であるCSV(共有価値の創造)の視点も織り交ぜながら、「なぜバスも駐車場も簡単には増やせないのか」「それでも何ができるのか」を書いていきます。
長野だけの話ではありません。地方にあるプロサッカークラブ、そしてプロスポーツクラブ全般に関係する話です。
前回の記事はこういう話でした
前回の記事では、4試合1,005件のアンケートに毎回必ず届いていた声 ― 交通アクセスの問題を取り上げました。
代表的な声を少し紹介します。
「駐車場が心配だから、次は行かない」
「試合後のシャトルバスが全然シャトルじゃなくて、いつ来るのかわからず1時間は待った」
「子連れには地獄でした」
「駐車場が無いのは死活問題、また次観にいこうと思っても駐車場無いだけで、考えてしまいます」

声を整理すると、サポーターが求めていることは大きく4つでした。
シャトルバスの増便がほしい(特に帰り)
長野駅からの直行バスがほしい
駐車場を増やしてほしい
有料でもいいから、確実に乗れる交通手段がほしい
どれも「そりゃそうだ」と感じる内容です。
ただ、「バスを増やせば解決するのか?」と立ち止まって考えると、そう簡単な話ではない、前回の記事ではそこまでを書きました。交通経済学という学問の考え方を借りて、「お金だけでなく、時間や不確実性のストレスも移動のコストである」という見方を紹介し、「『わからない』を減らすこと」が解決の第一歩になるはずだ、という整理までをしました。
前回、記事の中で書いた一文があります。
みんな帰れてはいます。ただし、快適ではない。
これが今、長野Uスタジアムで起きていることです。具体的に書くと、こういう話です。

🚗 自家用車で来るサポーター
スタジアム近くに着いても駐車場が埋まっているかもしれない。30分早く出ても、1時間早く出ても、確証はない。「行っても停められなかったら」というリスクを考えると、次の試合に行く気になれない。🚌 バスで来るサポーター
帰りのシャトルに何分並ぶかわからない。30分のこともあれば、1時間のこともある。新幹線や電車の時間が迫ると焦る。「帰り」の体験が読めない。🚶 徒歩で来るサポーター
そもそも徒歩ルートが30分であることを知らない。道中に休憩できる場所があるのかもわからない。選択肢として最初から消えてしまう。
「問題が何なのか」を、アンケートを通じてしっかり確認できたこと。それが前回の記事の価値だったと思っています。
詳しくは前回記事を読んでいただけるとうれしいですが、この記事だけでも話は通じるように書いています。
190件の声、20を超えるクラブからの共感
記事を公開した後、多くの方からコメントをいただきました。
パルセイロサポーターだけではありません。松本山雅、藤枝MYFC、ロアッソ熊本、アビスパ福岡、大分トリニータ、ヴァンフォーレ甲府、サガン鳥栖、カターレ富山、奈良クラブ、徳島ヴォルティス、ジュビロ磐田、ザスパ群馬、FC町田ゼルビア、アルビレックス新潟、アスルクラロ沼津 ― 数えると20を超える他クラブのサポーターから「うちも同じです」という声が寄せられました。
象徴的なコメントを、お名前と一緒に紹介します(内容は一部省略している部分があります)
「これは、群馬、敷島公園、正田スタも一緒」
「鳥栖は違うけど、鳥取遠征の時に40分徒歩の方を10人見かけた」
「愛鷹(沼津)は恵まれている方だと思った」
「甲府も他人事ではない問題」
「熊本でスタジアム問題を語る方にも読んでほしい」
交通アクセスの問題は、長野Uスタジアム特有のものではない。この反響で改めて確認できました。郊外にあるスタジアム、駅から遠い競技場、駐車場が足りない施設 ― 同じ構造を抱えるクラブが全国にあります。
そして、もうひとつ見えたことがあります。
「バスを増やしてほしい」という声の裏には、そもそもバスを増やすこと自体が難しいという認識を持っている人も多い、ということです。
運転手不足、運行認可の壁、クラブ財務の制約。これらを理解した上で、それでも何かできることはないかを探している人が、こんなにもいる。
今回の記事は、その問いに対する僕なりの続きです。
「わからない」が一番つらい
190件のコメントを読み返して、改めて見えたのは、「わからない」が一番のストレスだということです。
駐車場が空いているか、わからない
バスが今どこを走っているか、わからない
臨時駐車場がいつ開くのか、わからない
徒歩ルートがどれくらいかかるのか、わからない
帰りの混雑がどのくらいか、わからない
具体的にコメントを紹介します。
「篠ノ井駅まで徒歩30分、なんですね。知りませんでした。悪天候でなければ、不確実でストレスフルなバス待ちよりも徒歩を選んでしまいます」
「事前情報もあると助かりますが、当日の駐車場状況をSNSなどで伝えてくれると助かります」
読んでいて思ったのは、この「わからない」の多くは、お金をかけなくても解消できる可能性があるということです。
情報を整理して発信する。既にある選択肢を見える化する。当日の状況を共有する。これだけで、「わからない」は確実に減っていきます。
でも、「わからない」を減らす話に入る前に、もうひとつ共有したい現実があります。
なぜ、バスを増やすことも、駐車場を増やすことも、そんなに簡単ではないのか。
ここを一度、丁寧に書き出しておきたいと思います。
なぜ「バスを増やせない」のか
シャトルバスを増やせない理由は、大きく4つあります。これはパルセイロだけの話ではなく、地方のプロスポーツクラブに共通する構造です。

1. 🚍 バス運転手が圧倒的に足りない
2024年問題を発端として、日本のバス運転手不足は深刻化しています。京都サンガのサポーター(@kmatuna0907 さん)からこんな声が届きました。
「バスを出して欲しいと言うのもわかりますが、運転手の人数もあって、確保も厳しいと思います」
アスルクラロ沼津のサポーター(@JNR_EC201 さん)からも、
「JFL降格だと、バスの増車は利用が読めず、厳しいと聞きました」
という指摘がありました。
ここで押さえておきたいのは、これはお金で解決する問題ではないということです。「お金を積めばバスを用意できる」という話なら、まだやりようがあります。でも、そもそも運転できる人がいない。日本全体で、バス運転手の数が足りていない。需要がどれだけあっても、供給が物理的に追いつかない状態になっています。
全国のスタジアムに共通する構造問題であり、しかも、これから数年で改善する見通しは立っていません。
2. 📋 有料化には国土交通省の認可が必要
「それなら有料シャトルにすれば?」という声もいただきました。なるほど、と思いつつ、ここにも壁があります。
コメントをくださった方(@beny20121 さん)の整理を借りると、顧客限定の無料送迎バスは認可不要だけれど、経費を取った時点で「無料」ではなくなり、国交省の認可が必要になります。さらに有料化すれば利用者は減り、1人あたりのコストが上がり、さらに利用者が離れる、という悪循環が待っています。
3. 💰 運行コストは、想像より大きい
具体的に計算してみます。
観光バスの1日チャーター料金は、大型バスで12〜13万円、土日祝は20〜30%割増が相場です(貸切バス予約.com より)。試合日は土日が中心なので、大型バス1台・1日あたり約15万円と考えるのが現実的です。
この数字で試算してみます。

仮に1試合でシャトルを5台運用した場合
コスト:15万円 × 5台 = 約75万円/試合
利用者を仮に1,000人とすると、1人あたり約750円
仮に10台運用した場合
コスト:15万円 × 10台 = 約150万円/試合
利用者を仮に1,500人とすると、1人あたり約1,000円
年間ホームゲーム約20試合で合計すると、1,500万〜3,000万円規模の運用コストになります。無料運行なので、このすべてがクラブの持ち出しです。
3.1 行動経済学で読み解く ― 「増便の意思決定」が重い本当の理由
バスを増やすかどうかの判断は、こういう構造です。
コストは確実に増える(1台15万円の増額は確定)
でも、それで新規客が増えるかどうかは、確実ではない
確実な損失と不確実な収益を天秤にかける ― これは、行動経済学でいう「損失回避バイアス」(Loss Aversion)そのものです。
例えば、こういう勝負を持ちかけられたら、受けますか?
「コインを投げて、表が出たら1万円もらえる。裏が出たら1万円失う」
数学的な期待値はゼロです。でも、ほとんどの人はこの勝負を断ります。「1万円を失う痛み」が「1万円をもらう喜び」を上回るからです。
実際、多くの研究で損失の痛みは利益の喜びの約2倍強く感じられることが示されています(ダニエル・カーネマンらのプロスペクト理論/『ファスト&スロー』早川書房)。「表が出たら2万円もらえる」くらいの条件でないと、心理的にバランスが取れないのです。

これが、いまクラブの意思決定で起きていることに近い構造です。バスを増やす=確実な数十万円〜百万円の支出が確定する。でも、新規客が増えるかどうかは確実ではない。「確実な損失」と「不確実な利益」を天秤にかける判断は、人間の仕組みとして非常に重い。
クラブが動かないのは、意思決定者が怠惰なのではなく、人間の意思決定の仕組みそのものが、そう作られているという話でもあります。
では、「じゃあ1人1,000円もらえばいい」と思われるかもしれません。でも、ここから先は先ほど書いた悪循環が待っています。
有料にすれば利用者は必ず減る
利用者が減れば固定費のぶん1人あたりコストが上がる
値上げするとさらに利用者が減る
この構造で、「バス有料化」は簡単に成立する施策ではなくなります。
4. 🏦 財務面の制約もある
参考までに、長野パルセイロが2026年3月に公開した第19期(2025年シーズン)の決算概要を見てみます。
売上高:約8.5億円(前期比 約2,400万円減)
経常損失:約5,400万円
社長のメッセージでも「財務制約」「組織運営上の課題」について触れられています
(出典:AC長野パルセイロ 第19期定時株主総会結果および決算概要)
2024年度のJリーグクラブ経営情報開示資料を見ると、J3全体では17クラブで売上高が増加しており、改善傾向にあります(Jリーグ 2024年度 クラブ経営情報開示資料)。パルセイロが特別に悪いというより、J3全体として多くのクラブが厳しい経営環境にあり、その中で改善を図っているという構造です。
言い方を変えれば、「シャトルバスを増やす」ためには、その費用を別のどこから削るか、どこから持ってくるかをセットで考える必要があるということです。クラブ側の視点で見ると、「バスを増やす」という一言の裏に、これだけの条件が積み重なっています。
なぜ「駐車場も増やせない」のか
シャトルバスと同じく、駐車場も簡単には増やせません。
🌾 物理的な制約
長野Uスタジアムの周辺は、田畑と住宅地です。空撮で見るとよくわかります。

駐車場用地を新規に確保しようとしても、土地そのものが簡単に出てこない。出てきても、田畑の用途変更や交通動線の再設計が必要になります。
📅 経済学で読み解く ― 「稼働率6%」と機会費用
これは見落とされがちな論点ですが、プロスポーツの試合は年間の試合日数が極めて少ない。
J3リーグのホームゲーム:年間19試合
カップ戦等を含めても、年間20〜25日程度
365日で見れば稼働率は約6%
ここで、経済学の基本概念である「機会費用」(Opportunity Cost)という考え方が効いてきます。
機会費用とは、ある資源を何かに使うとき、他の用途に使った場合に得られたであろう最大の価値のことです。
駐車場として確保する土地は、年間20日程度しか本来の用途で稼働しません。残り345日(95%の日数)の機会費用 ― つまりその土地を他の用途に使えば得られていたであろう収益 ― を考えると、民間企業が純粋な駐車場ビジネスとして投資するのは成立しづらい構造です。(参考:グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学 ミクロ編』第1章「経済学の十大原理」)
「スタジアム用の駐車場に投資してほしい」という声の裏では、土地を持つ側にとっての機会費用の大きさが立ちはだかっている。ここを押さえておくと、なぜ駐車場が簡単に増えないのかが見えてきます。
⏳ 臨時駐車場は、恒常的に使える保証がない
現在、試合日は常設駐車場だけでなく、学校給食センター、消防学校、近隣事業者の土地などを臨時駐車場として活用しています。
ただ、これらは公共施設や周辺事業者の協力ベースで成り立っている部分が大きい。学校のスケジュール、施設の改修、運営者の交代など、事情は様々に変わります。今年使えた場所が来年も使える保証は、どこにもない。
臨時駐車場に依存した運営には、こうした構造的な不安定さがつきまといます。中長期で見たとき、「今あるキャパシティが続く」という前提で設計するのは現実的ではありません。
🏞️ 公園内の都市計画制約
スタジアム自体は南長野運動公園という公共の公園の中にあります。公園内で駐車場を増やそうとすると、他のスポーツ施設(長野オリンピックスタジアム、テニスコート等)の利用者やイベント運営との兼ね合いが出てきます。
✨ 明るいニュース
令和9年度(2027年度)には、長野Uスタジアム隣接地に新しいフットボール場が整備され、400台規模の駐車場が新設される予定です(長野市公式サイト)。
これは朗報です。ただし、「来年以降に一気に400台」の話で、目の前の試合には間に合いません。
じゃあ、諦めるしかないのか?
ここまで厳しい話ばかり書いてきました。でも、諦めるのは早い、というのが僕の結論です。
というのも、「お金も人もかからないのに、効果が大きい打ち手」がまだ手をつけられていないからです。
それが、前回の記事で書いた「情報を整理して発信する」という一手です。
ただ、この「情報発信」も、全部をクラブがやる必要はありません。できる主体を切り分けると、動きやすくなります。
発信主体で切り分けると、こう整理できる

① 🏢 クラブ(公式)がやれそうなこと
試合当日の公式駐車場の満空情報
臨時駐車場の開門時刻・場所
帰りのシャトルバス最終便の時刻
試合日程と想定来場者数
→ 正確さと信頼性が必要な情報。クラブの公式アカウントだからこそ意味がある領域。
② 👥 サポーター・ファンコミュニティでもできること
徒歩ルートの紹介(篠ノ井駅〜Uスタ約30分)
道中の休憩スポット・飲食店情報
軒先パーキングやアキッパなど予約駐車場の体験レビュー
レンタル自転車など既存リソースの案内
帰りに立ち寄れる店の情報
→ 体験ベース、リアルタイムの情報。サポーター発信だからこそ信頼される領域です。
③ 🤝 クラブと地域が連携してやれそうなこと
スポンサー関係等でクラブ単体では発信しにくい、地域の民間サービスの情報
商店街や観光協会と組んだおもてなしマップ
→ クラブと地域のパートナーシップが必要な領域。ここは後ほど具体的に書きます。
サポーターからのヒントを少しまとめます
190件のコメントには、そのまま使えるヒントが散らばっていました。
「当日の状況をSNSで教えてほしい」(@hamasuke3776 さん)
「事前情報もあると助かりますが、当日の例えば駐車場状況をSNSなどで伝えてくれると助かります」
「会場周辺の駐車場状況がわかると、臨時やパークアンドライドの方に行った方がいいなと判断できる」
「既にある選択肢を、もっと見える化してほしい」
「アキッパで長野牛乳さんの駐車場を1200円か1500円で借りました。多少高くても駐車場を確保してた方が安心」(栃木SCサポ・@kinako_bass さん)
「軒先パーキング使って行ってみた。徒歩10分で帰りの渋滞もヤマスタに比べたらだいぶマシ」(@dehio_ さん)
「レンタル自転車やってるなら利用のお知らせしてほしい」(@umeneko733278 さん)
「徒歩という選択肢も教えてほしい」(@mizuirocham さん)
「『篠ノ井駅まで徒歩30分』なんですね。知りませんでした」
「別スタで60分を歩いたこともあります。徒歩選択肢も情報提供してくれると助かります」
こうした声が示しているのは、「知らないから使えない」「知らないから不安になる」という構造です。
具体的なテンプレから始められる
クラブ公式が発信するテンプレ例
🟠試合当日 駐車場情報 ○時○分時点
・第一駐車場:満車
・第二駐車場:残りわずか
・第○臨時駐車場:まだ空きあり
公式地図リンク → https://...
#acnp #パルセイロ
サポーターコミュニティで共有できる情報例
徒歩ルートは毎試合変わるものではないので、一度ちゃんと作った画像マップをSNSに固定表示して、試合日に軽く再掲するだけでも効果があります。
マップ画像の例:
篠ノ井駅〜Uスタの所要時間(約30分)と目印
道中のカフェ・ベーカリー・トイレなどのランドマーク
小さな寄り道スポット(神社、眺望ポイント等)
あとは、天気による補足だけ試合日に足せば十分です。
【今日のUスタ徒歩観戦おすすめ度】
☀️ 晴れ:◎ 気持ちいい散歩、ぜひ
☁️ 曇り:◯ 無理なく歩けます
🌧️ 雨 :△ 傘と時間の余裕を多めに
(詳しいルートは固定ツイート/固定投稿のマップをご覧ください)
#Uスタ徒歩観戦
これらに、特別な予算は必要ありません。一度マップを作れば、あとは運用テンプレを決めて担当を1人決めるだけで始められます。
「やれること」と「やれないこと」を切り分ける。やれないこと(バスの増便、駐車場新設)を無理に追いかけるより、やれること(情報発信)を徹底する。これが、地方クラブが今日から始められる一手だと、僕は思います。
他のクラブから学べること ― 「徒歩30分」を「楽しい30分」に変えた例
他のクラブの取り組みから、ヒントになる事例を紹介します。
🗺️ V・ファーレン長崎の「V・ファーレンロードマップ」
これは、前回記事のコメントでセッキーさん(@sekkiitw)から教えてもらった事例です。
郊外スタジアムだと深刻な問題よね…
— セッキー (@sekkiitw) April 17, 2026
篠ノ井駅からUスタまで徒歩30〜40分なら、かつてのVファーレンロードみたいな事が出来たら、歩く人が増えるのでは? https://t.co/LYlDi309Yp pic.twitter.com/tL4rg6MxSW
「篠ノ井駅からUスタまで徒歩30〜40分なら、かつてのVファーレンロードみたいな事が出来たら、歩く人が増えるのでは?」
V・ファーレン長崎が、かつてのホーム ― トランスコスモススタジアムながさき(諫早)の時代に作っていたV・ファーレンロードマップは、今でも参考になる好事例です。
諫早駅からスタジアムまで、徒歩約30分。長野Uスタジアムと篠ノ井駅の距離感と、ほぼ同じです。この30分を、V・ファーレン長崎は「徒歩観戦のコンテンツ」に変えていました。

マップに詰まっている工夫は、たとえば
道中の地元店舗(下浜不動産、吉岡商店、お茶どころ島田など)と連携したおもてなしゾーン
眺めの良い休憩ベンチや神社のおみくじなど寄り道スポット
マスコット「ヴィヴィくん」が道案内役
徒歩30分を「退屈な移動」から「楽しいイベント」に変換しているのが素晴らしい。
この事例は、クラブと地域商店街が手を組めば実現できるものです。金銭コストは最小限、必要なのはクラブ側の一歩と、地域側の協力。そして地域店舗にとっても来店機会になる、三方よしの設計です。
190件のコメントにも、「30分の徒歩も、15分+食事+15分になればイメージが変わる」(@suchi_space さん)という提案がありました。同じ方向の発想です。
⚽ 金沢ゴーゴーカレースタジアムの複合施策
金沢(ツエーゲン)は、単一の解決策ではなく、複数の打ち手を組み合わせるアプローチを取っています。
駐車場を有料化+市内数カ所の無料駐車場から無料シャトル
東金沢駅からの歩道マーキングで徒歩支援
シェアサイクルのステーション設置
一つのクラブで全部できなくても、「選択肢を増やして、来場者が自分に合う方法を選べる状態」をつくる視点は参考になります。
🏟️ 他にも、こんな事例があります
名古屋グランパス:トヨタ本社駐車場を試合日に無料開放
鹿島アントラーズ:周辺地主の空地を試合日の駐車場として活用
町田ゼルビア:帰りのシャトルに予約制・優先販売を導入
すべてを真似する必要はないし、真似できない部分もあります。ただ、「自分のクラブの条件に合うものを、組み合わせる」という発想は、どこでも通用するはずです。
本丸の話 ― 「スポンサーシップ」と「パートナーシップ」、二つの選択肢(CSVの時代)
ここからが、今回の記事でいちばん書きたかったことです。
「広告」に加えて「課題解決」という新しい関わり方 ― CSVという経営潮流

ひとつのスタイルは、「お金を出してもらって、看板を出す」という広告型のスポンサーシップ。長くクラブを支えてきた、確かな関係です。
最近はそれに加えて、もうひとつの形が広がっています。
この変化は、経営学の世界でCSV(Creating Shared Value / 共有価値の創造)と呼ばれる大きな潮流と一致しています。
ハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーターとマーク・クラマーが2011年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』で提唱した概念で、企業の経済的価値と社会的価値を同時に生み出す活動を指します。(参考:Michael E. Porter & Mark R. Kramer "Creating Shared Value", Harvard Business Review, January-February 2011)
これまで企業活動は、こう分けて捉えられてきました。
ビジネス:利益を上げる活動
CSR(Corporate Social Responsibility):社会貢献としての寄付・慈善活動
でもCSVはこの境界線を超えます。社会課題の解決そのものが、企業の競争優位になるという発想です。
Jリーグの公式文書でも、こう打ち出されています。
「スポンサーシップ」から「パートナーシップ」へ ― スポーツ団体と企業のお互いの課題を解決しあう存在、スポーツを通じて社会と連携する関係性へ
「広告型のスポンサーシップ」と、「一緒に地域課題を解決するパートナーシップ」。両方が共存する時代になりつつあります。スポーツ興行が、CSVの実践の場としても捉え直されつつあります。
加えて、クラブとサポーターの間に生まれているコミュニティやメディアは、試合に来られない人にも届きます。前回の駐車場記事は、Xで表示回数69万を記録しました。これは、看板広告とはまた違う性質の露出。両者は補完しあう関係で、新しい関わり方が広がる余地があります。
例えば、こんなパートナーシップの形があり得る
ここから先は、僕の具体的な提案です。

① 🚌 シャトルバスパートナー
クラブとバス会社、そして協賛企業の三者で連携する。バス会社は運行、協賛企業は運行費の一部を支援、クラブは試合日のSNS告知と車内モニター広告で協賛企業を紹介する。
② 🅿️ 駐車場情報パートナー
試合当日の駐車場状況をリアルタイムで発信するアカウントに、発信下部に協賛企業名を載せる。広告というよりサービス提供に協賛する関係です。
③ 🗺️ アクセス情報パートナー
徒歩マップや道中案内を、地域商店街・観光協会・交通事業者と共同で整備する。マップ上に協賛店舗を掲載し、試合日限定のクーポンを配布する。V・ファーレンロード型の展開です。
④ 📊 データ・体験パートナー
サポーター向けの継続的なアンケート運営や、観戦体験を支える物品提供(雨の日の傘、子連れ向け備品など)を企業がサポートする。協賛企業は地域の声に一番近いポジションを得られます。
関わり方の幅が広がる
広告としての「露出」に加えて、課題解決を通じた関わりという形があり得ます。
クラブの公式メディアや関連コミュニティを通じた、試合に来ない人にも届く露出
サポーターと直接つながる場
地域課題解決の当事者としての社会的評価
継続的なデータと顧客インサイトへのアクセス
これらは、看板広告と並んで持てる、もうひとつの選択肢です。CSVの考え方がスポーツ興行の現場に降りてきた姿ともいえます。
そして、このモデルは金額の大小を問わず成立します。月数万円のサイズから、年数百万円のサイズまで。地域の中小企業でも参画できる、裾野の広いモデルになり得る。
僕は契約手続きそのものを動かす立場ではありません。ただ、「こういう関わり方があれば自分たちの会社も考えたい」「このアイデアならうちでもできそう」という思いが生まれたら、ぜひ言葉にしてみてください。そうした声が、クラブと地域の中で具体化していくきっかけになると思っています。
これはサッカーだけの話じゃない
ここまで書いてきた構造は、サッカーだけの話ではありません。Bリーグ、独立リーグ野球、リーグワン、女子サッカー ― 地方の中小プロスポーツクラブは、ほぼ同じ構造の問題を抱えています。
J2・J3だからこそできる挑戦がある
J1のビッグクラブと同じやり方では、勝てません。でも、地方の中小クラブにしかできない挑戦があるはずです。
地域の人に愛される理由を作ること
街全体が『今日は試合だ』に染まる文化を育てること
勝敗だけではない「来る理由」を作ること
地域課題を、スタジアムという場で解決すること
町田ゼルビアは投資と戦略でJ1昇格・ACLEベスト4まで到達。アビスパ福岡はスポンサー企業数を640社まで伸ばしました。形は違えど、共通しているのは「自分たちらしい挑戦」をしていることです。
この記事を読んでくださった方へ
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
長くなったので、伝えたいことを最後にまとめさせてください。
バスも駐車場も、簡単には増やせません。運転手不足、認可、コスト、損失回避バイアス、機会費用 ― さまざまな構造的理由があります
それでも、情報発信で不確実性を減らすことは、今日からできます
スポンサーシップからパートナーシップへ ― CSVの時代に合った、新しい関わり方の余地があります
これはサッカーだけの話ではなく、地方プロスポーツ全体の話です
特に、以下の方にお願いしたいことがあります。
💙 サポーターの皆さんへ
アンケートへの継続的なご協力をお願いします。僕が個人として続けているこの活動は、皆さんの回答がすべてです。
回答の中に、今回の記事に書いたような次の打ち手のヒントが眠っています。「こんなことに困った」「ここが助かった」「こういう工夫で乗り越えた」― 一人ひとりの声が、次の一歩を作ります。
それから、この記事で紹介したような徒歩ルートや軒先パーキング、レンタル自転車などの既存リソース情報は、クラブの公式だけではなく、サポーターコミュニティの発信も大きな力になります。体験ベースの情報はとても貴重。もし気が向いたら、ご自身の工夫をシェアしてもらえたらうれしいです。
他クラブのサポーターの皆さんも、同じです。今回の記事やアンケートの取り組みが、少しでも参考になれば使ってください。一つのクラブの事例を、他のクラブでも使える形にしていけたら、と思っています。
🤝 企業の皆さんへ
もしこの記事を読んで、「こういう関わり方があれば自分たちの会社も考えたい」「このアイデアならうちでもできそう」という思いが生まれたら、ぜひご連絡お待ちしております。クラブや地域の動きの中で、具体化していくきっかけになるはずです。
最後に、自分自身のことを少し
この記事でも、そしてアンケート活動も、僕は個人として、クラブの外側から取り組んでいます。
昨年まで現役のサッカー選手でした。引退後、クラブのコーポレートアドバイザーという立場をいただきつつ、アンケート活動やnote発信は個人の持ち出しで続けています。
なぜ外からやっているかというと、クラブの中にいると発信一つにも調整が必要になり、スピードが落ちてしまうからです。今のような、問題を整理して、スピード感をもって世に出すような動き方は、個人だからこそできる面があります。
ただ、個人でやっている限界もあります。だからこそ、応援してくださる方や、一緒に動けるクラブ・企業の方を募集しています。
ここから先、お願いしたいこと
はっきり書きます。
個人としてこの活動を応援したい方
有料メンバーシップ「ドロスナ戦記」をやっています。
正直に書いておきます。今回のような時間をかけた記事も、基本的には無料で公開しています。それでも、継続して参加してくださっている方々がいます。記事を読んで「応援したい」と思ってくれた方、この活動そのものに意味を感じて、場所を残してくれている方々です。本当に感謝しかありません。
プランは2つです。届く内容はどちらも同じで、金額だけが違います。
月額500円(基本プラン)
月額1,000円(応援プラン)
「読み応えの対価」ではなく、「活動を続けるためのサポート」として受け取っていただけるとうれしいです。これから入ってくださる方にも、同じくらいの感謝を持っています。
何かご相談がある方は
▶ お問い合わせフォームからどうぞ。
おわりに
スタジアムの交通問題は、簡単には解決しません。
運転手不足、認可、損失回避バイアス、機会費用 ― 構造的な壁はたくさんあります。でも、今日から始められる一歩があります。情報を整理する。既にある選択肢を見える化する。CSV の時代に合わせて、パートナーシップの形を変えてみる。
一つひとつは小さな一歩かもしれません。でも、その一歩を積み重ねられるクラブが、10年後、20年後に残っていくと、僕は信じています。
長野だけの話ではなく、地方プロスポーツ全体の話として、受け取ってもらえればうれしいです。
泥臭く、一歩ずつ。
前回の記事はこちら。
参考資料・引用文献
公表データ・公式資料
学術的な参考文献
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房(プロスペクト理論、損失回避バイアス)
N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学 ミクロ編』東洋経済新報社(機会費用)
Michael E. Porter & Mark R. Kramer "Creating Shared Value", Harvard Business Review, January-February 2011(CSV 共有価値の創造)
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