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ピッチで0-6を経験した僕が、観客席で0-5を見た日。

13年間、プロサッカー選手だった。

5つのクラブでプレーし、最後はAC長野パルセイロにて35歳で引退。長野に残り、今はクラブの外側から関わっている。その中で始めたのが、試合を観に来た人への観戦体験アンケートだ。

3月14日。AC長野パルセイロ対松本山雅FCのダービー。スタジアムは約1万人で埋まった。

結果は、0-5。

試合後、アンケートを出した。407人が回答してくれた。自由記述は合計で約8万文字。過去最多だった。

今、その一つ一つを読んでいる。

「もう行かない」という声が、毎日のように届いている。気持ちはわかる。0-5だから。ダービーだから。当然の感情だと思う。

この記事は、誰かを慰めるために書いているわけじゃない。犯人探しをするつもりもない。

自分の気持ちを整理するために書いている。


僕も0-6で負けたことがある

現役時代、0-6で負けた試合がある。

大敗した直後のロッカールームの空気を僕は知っている。何を言っても響かない。言葉が出てこない。でも出さないといけない。明日もあるから。

選手が大敗やミスを受入れ消化できる時間は、2日しかない。

試合翌日がリカバリーやトレーニングマッチ。その次の日のOFFが明けたら、もう次の試合に向けた練習が始まる。2日間で0-6の絶望と悔しさとストレスを消化しないといけない。

上手く整理できてなくても練習は始まる。グラウンドに立つ。走る。ボールを蹴る。2日前に6点取られた体で。

外から見ると、それが「切り替えが早い」とか「反省してないんじゃないか」と見えるかもしれない。でも違う。消化しきれていなくても、次が来るから動くしかない。そうしないと壊れるからだ。

これはサッカー選手だけの話じゃない。

大事なプレゼンで大失敗した翌日にも、別の会議はある。受験に落ちた翌週にも、次の入試はある。チームの売上が目標の半分で終わった翌月にも、新しい期は始まる。

消化しきれていないのに、次が来る。これは人間なら誰でも経験することだ。

監督が試合後に「悪くなかったと思う」と言う。選手が「早く次の試合に出て切り替えたい」と言う。それを見て「わかってないのか」と感じる人がいるのも、わかる。

でも僕は選手だったから、もう一つの可能性も知っている。わかっていても、そう言うしかない時がある。今ここで崩れるわけにはいかないから。

会社で大きなトラブルが起きた翌朝、何事もなかったように出社してくる人がいる。あれは何も感じていないんじゃない。感じた上で、立っているんだ。



初めて、観客席で大敗を見た

今回、僕はピッチの上にいなかった。

選手として0-6を食らったことはある。でも観客席で0-5を見たのは初めてだった。

選手としての大敗の受入れ方、消化の仕方は経験してきた。でも観客席から見る大敗がどういうものなのかは、知らなかった。

アンケートの8万文字を読み始めて、選手の時には見えなかったものが見えた。


407人の中に、407の物語があった

アンケートを読んでいて、一つ気づいたことがある。

観に来ている人は、毎試合シーズンパスで来る人だけじゃない。

16年ぶりにスタジアムに来た人がいた。

娘と一緒に初めて来た人がいた。

「行こうよ」と誘って、友達を連れてきた人がいた。

一人一人に、その日スタジアムに来た理由がある。来るまでの物語がある。

16年ぶりの人にとって、それは「今シーズンのホーム第3節」じゃない。16年分の決心で来た1試合だ。

娘を連れてきた親にとって、それは「ダービーのチケット1枚」じゃない。娘にサッカーを好きになってもらいたかった90分間だ。

「娘と行きましたが、無様な試合を見せられて、二度と行かないと言っていました」

── パルセイロサポーター(5年以上)

この言葉の奥にあるのは、怒りだけじゃない。期待して来たからこそ、こうなったということだ。

「そんなに文句だけ言うなら見に来なきゃいいじゃん」そう思う選手の気持ちもわからなくない。頑張る選手の立場を知っているから。

でも今アンケートを読んでいて思う。

16年ぶりに来た人に、「嫌なら来るな」は通じない。その人は16年来なかったのだから。やっと来たのだから。


負けた日の振る舞い

407件の中に、試合結果とは関係のない声がいくつもあった。

「あんな試合の後でも、ボランティアの方の対応はすごく気持ちが良かった」

0-5。相手のサポーターが喜んでいる。自分たちのチームは何もできなかった。その中で、ボランティアの人たちは最後まで丁寧に対応していた。

それを見ていた人がいた。そして、わざわざアンケートに書いてくれた。

勝った時は誰でもいい顔ができる。楽しかった、最高だった、と言える。

でも、負けた時の振る舞いにこそ、大事にしているものが出る。

これもサッカーだけの話じゃない。

プロジェクトが成功した時に「いいチームだったね」と言うのは簡単だ。でも、プロジェクトが大コケした翌日のミーティングで、誰が最初に口を開くか。誰が次の提案を持ってくるか。そこにその人の本質が出る。

部活の大会で大敗した帰りのバスで、泣いている後輩に最初に声をかける先輩。取引先にクレームを入れられた翌日に、黙って改善案を作ってくる部下。

派手な成功談より、大敗した翌日にその人が何をしたかの方が、その人のことをよく表している。

「大人がグチグチ言っているのを見たあと、目の前の公園で子供がAC長野コールしながらボールで遊んでいるの見ると、大人のファンより子どものファンが大事だなと感じた」

── パルセイロサポーター(1〜4年)

大人は怒っている。子供は遊んでいる。同じ0-5を見た後に。

このアンケートの声を読んだ時、僕はしばらく考え読むのを止めた。


結局、何ができるのか

「何をすればいいですか」と聞かれたら、正直に答える。

勝つしかない。

試合の結果は選手が出す。運営がいくら改善してもアンケートを何百件集めても、試合に勝てなければスコアは変わらない。それは事実だ。

でも、もう一つ思うことがある。

天気に例えるなら、試合結果は天気だ。晴れる日もあれば、大雨の日もある。こっちではどうにもできない。

1年間楽しみにしていた旅行が大雨で台無しになったら、「もう旅行なんか行かない」と思うかもしれない。でも、大雨の日があるから旅行をやめるのは、晴れた日の感動も手放すことになる。

コツコツ準備していたことは、晴れた日にちゃんと報われる。大雨の日に全部投げ出したら、晴れた日の取りこぼしが増えるだけだ。



選手に、一つだけ知っておいてほしいこと

最後に、元選手として一つだけ書く。

現役の時スタンドの一人一人の顔の表情を見ている余裕は勿論ない。ファン、サポーターに勝ちを届けたい、一緒に戦いたい。大きく捉えていた。

でも今、407人のアンケートを読んでいて、はっきりわかった。

一人一人に物語がある。

毎試合来る人だけがサポーターじゃない。16年ぶりに来た人もいる。娘の手を引いて初めて来た人もいる。「行こうよ」と友達を誘った人もいる。

その一人一人の物語を背負って戦っているかどうかは、たま際のプレーに出る。ルーズボールを追って戦っているのか?としても映るんだと思う。

だからファイトして敗戦したならパルセイロのサポーターは拍手でいつも鼓舞してくれているはずだ。それが基準でもある。

これをもっと現役の時に理解を深めていたかったなと。

0-5で「もう行かない」と書いた人の声と、0-5でも「ボランティアの対応が良かった」と書いてくれた人の声。

両方を届けたくて、この記事を書いた。


この記事は、自分の気持ちを整理するために書いた。

何かの答えがあるわけじゃない。解決策があるわけでもない。

ただ、かつてピッチの上で0-6を食らった人間が、今度は観客席で0-5を見て、407人の声を読みながら考えたことを、そのまま書いた。

あなたにとっての「0-5」は、いつでしたか?

これから8万文字、全部読む。

詳しいレポートは後日出す。何を深掘りしてほしいか、教えてください。

3試合で882件。声を届けてくれた全員に、感謝しています。


そして僕は晴れた日の感動を自分のジャッジで取りこぼしたくないからクラブと選手を信じて最大限後押ししたい。


泥臭く、一歩ずつ。

▼ 415件のアンケート結果をまとめたレポートを公開しました。

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