【健診の読み方】健診で貧血なしでも安心しきれない理由|疲れを読み解く3つの血液検査
こんにちは。内科の医師をしています、くまのです。
いつも読んでくださってありがとうございます
普段の診療で、健診結果や生活習慣病を見ながら、いつも思うことがあります。
それは、身体はすべてつながっているということです。
病気という名前がつく前に、自分の身体が出している小さなサインをすくい取ること。
それが、いちばん優しくて、いちばん身近な予防医療だと思っています。
だから、診察室で伝えきれなかったことや、健診結果の裏側にあるストーリーを、ここに少しずつ言葉として残しています。
私がどんな人間なのか、そこでなぜこのnoteを書いているのかは、こちらにまとめました。
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前置きが長くなりましたが、今日は「健診で貧血なしでも安心しきれない理由|疲れを読み解く3つの血液検査」について、健診結果の読み方から一緒に考えてみます。
「貧血はありません」と言われたのに、疲れるのはなぜ?
「健診では、貧血はありませんって言われたんです」
外来で、ときどき聞く言葉です。
そのあとに、少し困ったような顔で続きます。
「でも、なんか疲れやすいんですよね」
「朝から身体が重い感じがして」
「夕方になると、もう電池が切れたみたいで」
そう言いたくなる気持ち、とてもよく分かります。
健診結果に「貧血なし」と書かれていると、ひとまず安心しますよね。
血液の問題ではなさそうだな、疲れは寝不足かな、年齢かな、運動不足かな、最近ちょっと忙しかったしな。
そうやって、なんとなく自分を納得させる。
でも、身体のだるさって、そんなにきれいに割り切れないことがあります。
しっかり寝たはずなのに、朝から重い。
休日に休んだはずなのに、月曜日にはもうしんどい。
階段を上ると息が上がる。
仕事終わりに、スーパーへ寄る気力が残っていない。
夕食後、ソファに座ったら最後、もう立ち上がれない。
いや、わかるんですよ。
疲れって、あまりにも日常に溶け込みすぎています。
「疲れています」と言うと、まるで自分の根性が足りないみたいに感じてしまうこともあります。
でも、疲れは気合い不足の証拠ではありません。
身体が「ちょっと見てほしい」と出している、小さな通知のようなものです。
もちろん、疲れの原因はひとつではありません。
睡眠、ストレス、食事、運動量、心臓、腎臓、炎症、ホルモン、薬、生活リズム。
いろいろなものが絡みます。
だからこそ、「貧血がないから血液は関係ない」と早めに閉じてしまうのは、少しもったいないことがあります。
血液検査には、“完成品”を見る数字と、“材料”を見る数字があります。
たとえるなら、今お店に並んでいるお弁当の数を見るのがHb。
冷蔵庫の中に食材がどれくらい残っているかを見るのがフェリチン。
そして、その食材がちゃんと厨房まで届いているかを見るのがTSAT。
健診で「貧血なし」と言われたとき、多くの場合、見ている中心はHbです。
でも、身体の中の鉄の話は、Hbだけでは終わりません。
今日の記事では、疲れを読み解くために知っておきたい3つの血液検査、
Hb
フェリチン
TSAT
この3つを、できるだけ日常の言葉で一緒に覗き込んでみます。
血液検査①:Hbは“今走っている配送トラック”を見る数字
まず、いちばんよく聞く数字からいきます。
Hb。
ヘモグロビン、と読みます。
健診結果では「血色素量」と書かれていることもあります。
Hbは、ざっくり言えば、血液の中で酸素を運ぶ力を見る数字です。
赤血球という小さな乗り物の中にHbがいて、肺で受け取った酸素を、筋肉や脳や内臓へ届けています。
イメージとしては、身体中に酸素を届ける配送トラックです。
トラックが十分に走っていれば、各地の現場に酸素が届きます。
でもトラックが少なくなると、酸素の配送が間に合わなくなり、身体は「なんだかしんどい」「息が上がる」「動くと疲れる」という状態になりやすくなります。
これが、いわゆる貧血です。
だから、Hbが低いと「貧血ですね」と言われます。
逆にHbが基準範囲に入っていれば、「貧血はありません」と言われます。
ここまでは、わかりやすいですよね。
配送トラックの台数が足りているかどうかを見る。
それがHbです。
ただ、ここで大事なのは、Hbはあくまで「今走っているトラック」を見ている数字だということです。
今、道路を走っているトラックの台数は足りている。
でも、倉庫の在庫はギリギリかもしれない。
燃料は少なくなっているかもしれない。
部品の予備がなくなっているかもしれない。
それでも、表面上はまだ配送が回っていることがあります。
身体も同じです。
Hbが正常なら、今の時点で酸素を運ぶ力は大きく崩れていない、と考えられます。
それは安心材料です。
でも、Hbだけでは、「鉄の在庫がどれくらい残っているか」や「鉄がちゃんと使える形で回っているか」までは見えにくい。
ここが、今回のいちばん大事な入口です。
「貧血なし」と言われると、血液の話はそこで終わったような気がします。
でも、実際にはその手前に、まだいくつかの部屋があります。
Hbの部屋の奥に、フェリチンの部屋があって、さらにTSATの通路がある。
健診結果は、表の数字だけを見ていると平面的ですが、少し奥行きを持たせると、身体の景色が変わってきます。

血液検査②:フェリチンは“鉄の倉庫”を見る数字
次に、フェリチンです。
フェリチンという名前は、Hbに比べると少し聞き慣れないかもしれません。
でも、疲れを考えるときには、とても大事な数字です。
フェリチンは、ざっくり言うと、身体の中に蓄えられている鉄の在庫を反映する数字です。
鉄の倉庫、と考えると分かりやすいと思います。
Hbが「今走っている配送トラック」なら、フェリチンは「倉庫に残っている部品や材料」です。
今、街中ではトラックが走っている。
配送もなんとか回っている。
でも、倉庫を開けたら、予備の材料がほとんどない。
こういう状態って、なんとなく不安ですよね。
今日と明日は何とかなる。
でも、急に注文が増えたらどうするの。
トラックが壊れたらどうするの。
次の仕入れまで持つの。
身体の鉄も、少し似ています。
Hbが正常でも、フェリチンが低い場合、身体は今なんとか回しているけれど、鉄の余裕が少ない状態かもしれません。
これを日常でたとえるなら、給料日前の財布です。
今日の夕食は買える。
交通費もある。
なんとか生活は回っている。
でも、急な出費には弱い。
友達に誘われても「今月ちょっと厳しいな」となる。
コンビニで気軽にプリンを買う余裕はない。
いや、プリンは大事です。
疲れた日のプリンは、ほぼ医療資源です。
ただ、身体の鉄の在庫も、余裕が少なくなると、まだ明らかな貧血ではなくても、どこかで省エネ運転になっている可能性があります。
フェリチンが少ないから、必ず疲れの原因です、とまでは言えません。
ここは大事です。
疲れは、そんなに単純ではありません。
でも、「貧血なし」と言われた人の中にも、鉄の在庫という視点で見直すと、もう少し身体の状態が分かることがあります。
特に、疲れやすい、運動すると息が上がる、回復に時間がかかる、という訴えがあるとき。
Hbだけ見て「問題なし」で終わるより、倉庫の中も少し覗いてみると、見える景色が変わるかもしれません。
ここで、もうひとつ大事なことがあります。
フェリチンは、単純な“鉄の在庫”としてだけでは読めない場面もあります。
身体に炎症があると、フェリチンは上がることがあります。
つまり、倉庫の在庫量を示しているようで、同時に「身体の中で火事が起きているかもしれない」というサインにもなることがあるんです。
冷蔵庫の中身を見ようと思ったら、なぜか冷蔵庫の警報も鳴っている、みたいな感じです。
だから、フェリチンだけを見て、鉄が十分かどうかを決めつけるのも危険です。
ここで次に出てくるのが、TSATです。
フェリチンが倉庫なら、TSATはその倉庫から現場に鉄がちゃんと届いているかを見る数字です。
血液検査③:TSATは“今使える鉄の流れ”を見る数字
TSAT。
これも、日常ではほとんど聞かない言葉だと思います。
TSATは、トランスフェリン飽和度という検査です。
いきなり名前が強いですね。ボスキャラ感があります。
でも、言葉の響きほど中身は怖くないので、安心してくださいね。
考え方は、そこまで難しくありません。
鉄は、身体の中をそのまま裸で移動しているわけではありません。
トランスフェリンという運び屋に乗って、必要な場所へ運ばれます。
TSATは、この運び屋にどれくらい鉄が乗っているかを見る数字です。
フェリチンが「倉庫」なら、TSATは「倉庫から現場へ届く物流ルート」です。
倉庫に材料があっても、配送ルートが詰まっていたら、現場には届きません。
逆に、現場には鉄が必要なのに、運び屋のトラックが空っぽに近い状態で走っていたら、身体はうまく使えません。
ここが、少し面白いところです。
鉄の問題は、「あるか、ないか」だけではありません。
「使える形で届いているか」が大事です。
たとえば、慢性の病気や炎症があると、身体は鉄を外に出しにくくすることがあります。
これは、身体が悪者というより、防衛反応でもあります。
感染症のときなど、鉄は細菌にとっても大事な栄養になることがあります。
だから身体は、鉄を倉庫にしまい込んで、簡単には使わせないようにすることがあるんです。
ただ、その結果として、身体に鉄はあるのに、必要な場所で使いにくい、という状態が起こることがあります。
これが「機能的鉄欠乏」と呼ばれる考え方につながります。
専門用語としては少し難しいですが、イメージとしては、倉庫には在庫があるのに、現場に届かない状態です。
会社で言えば、備品倉庫にはコピー用紙があるのに、なぜか各部署には配られていない。
現場では「紙がないんですけど」と困っている。
でも倉庫担当は「在庫ありますよ」と言っている。
こういう、ちょっと噛み合わない状態です。
身体の中でも、フェリチンとTSATを一緒に見ることで、この噛み合わなさが少し見えてきます。
だから、Hbだけでもなく、フェリチンだけでもなく、TSATも合わせて見る。
この3つを並べると、
Hb:今、酸素を運ぶ力
フェリチン:鉄の在庫
TSAT:今使える鉄の流れ
という感じで、血液の状態が少し立体的になります。
もちろん、すべての人が健診でフェリチンやTSATまで測っているわけではありません。
むしろ、一般的な健診では入っていないことも多いと思います。
だからこそ、疲れが続くときに、
「Hbは正常でしたが、鉄の在庫や使える鉄も見る必要はありますか?」
と聞けるだけで、診察室での話が一段深くなります。
ちなみに、実際の検査では「TSAT」という項目名でそのまま出ることもありますが、血清鉄やTIBC、UIBCといった項目から計算して確認することもあります。
なので、受診時には難しく言おうとしなくて大丈夫です。
「フェリチンや、鉄の回り具合も見た方がいいですか?」
このくらいの言い方で、十分伝わります。
疲れを“気合い不足”にしないために、数字を3つ並べてみる
ここまで、Hb、フェリチン、TSATの話をしてきました。
ただ、ここで一度、生活の場面に戻りたいと思います。
疲れって、検査値だけで説明しきれるものではありません。
朝起きた瞬間から、なんとなく身体が重い。
駅の階段で息が上がる。
仕事中はなんとか動けるけれど、帰宅した瞬間に糸が切れる。
夕食後、ソファに吸い込まれて、気づいたらスマホを握ったまま寝落ちしている。
休日に寝だめしたのに、月曜の朝にはまた疲れている。
こういう疲れを、私たちはつい「自分の問題」にしてしまいます。
体力がないから。
年齢だから。
ちゃんと運動していないから。
甘えているから。
みんな頑張っているのに、自分だけしんどいと言っている気がするから。
そう思ってしまう気持ち、とてもよく分かります。
でも、疲れを全部“気合い”に押し込めると、身体が出しているサインまで見えなくなります。
疲れは、生活の中に出てくる症状です。
だからこそ、背景はいろいろです。
睡眠の質が落ちているかもしれない。
ストレスが強いかもしれない。
食事が偏っているかもしれない。
運動不足かもしれない。
甲状腺、心臓、腎臓、肝臓、炎症、薬の影響があるかもしれない。
鉄だけで決めつけるのは違います。
でも、鉄を見ないまま「気合い不足」で終わらせるのも、少し違います。
だから、Hb、フェリチン、TSATの3つを並べてみる。
今走っている配送トラックは足りているか。
倉庫の中に材料は残っているか。
倉庫から現場へちゃんと届いているか。
こうして見ると、血液検査はただの数字の羅列ではなく、身体の物流マップみたいに見えてきます。
健診結果って、ちょっと面白いんです。
怖がるための紙ではなく、自分の身体がどうやって日々を回しているかを教えてくれる、かなり実用的なレポートです。
もちろん、疲れがあるからといって、自己判断で鉄サプリを始める必要はありません。
ここは大事です。
鉄は、不足しても困りますが、過剰でも困ります。
特に、炎症や肝臓の病気、慢性疾患が絡む場合、フェリチンの読み方は単純ではありません。
だからこそ、やるべきことはシンプルです。
「疲れが続いていて、Hbは正常でした。フェリチンや、鉄の回り具合も見た方がいいですか?」
この一言を、次の外来や健診後の相談で出してみる。
それだけで十分です。
診察室では、こういう一言が本当に大切です。
医師は検査値を見ています。
でも、患者さんの“日常の疲れ方”は、検査結果だけでは分かりません。
夕方に電池が切れる感じ。
階段で息が上がる感じ。
朝、身体が布団に沈んでいる感じ。
仕事後に何もできなくなる感じ。
そういう言葉があると、数字に文脈が生まれます。
カルテの中のHbが、ただの数値ではなく、その人の生活とつながるんです。

まとめ:貧血なしは、疲れの話が終わったという意味ではない
最後に、今日の話をまとめます。
健診で「貧血なし」と言われることは、もちろん安心材料です。
Hbが正常であれば、今の時点で酸素を運ぶ力が大きく不足している状態ではなさそう、ということが分かります。
でも、それは疲れの話が終わった、という意味ではありません。
Hbは、今走っている配送トラックを見る数字です。
フェリチンは、鉄の倉庫を見る数字です。
TSATは、今使える鉄の流れを見る数字です。
この3つを並べると、身体の鉄の状態が少し立体的に見えてきます。
そして、疲れを考えるときに大切なのは、数字をひとつだけ見て白黒をつけないことです。
Hbが正常だから大丈夫。
フェリチンが低いから全部それが原因。
TSATが低いからこれで決まり。
そういう話ではありません。
身体は、そんなに単純ではありません。
でも、単純ではないからこそ、見方を増やす意味があります。
疲れを「自分の弱さ」と決めつける前に、身体の中で何が起きているのかを少しだけ覗いてみる。
健診結果の数字を、怒られるための通知表ではなく、身体から届いた小さな業務日誌として読んでみる。
今日も配送トラックは走っている。
倉庫の在庫はどうだろう。
現場にはちゃんと届いているだろうか。
そんなふうに考えると、血液検査は少しだけ身近になります。
もし、休んでも疲れが抜けない。
朝が重い。
階段で息が上がる。
夕方になると電池が切れる。
そんな状態が続いているなら、次に医療機関で相談するときに、こう聞いてみてもいいかもしれません。
「Hbは正常でしたが、フェリチンやTSATも見た方がいいですか?」
もう少しやわらかく言うなら、
「フェリチンや、鉄の回り具合も見た方がいいですか?」
で大丈夫です。
実際の検査では、TSATは血清鉄やTIBC、UIBCといった項目から計算して確認することもあります。
細かい検査名を全部覚える必要はありません。
大事なのは、「貧血なしで終わらせず、鉄の在庫や流れも見る視点がある」と知っておくことです。
疲れは、気合い不足ではなく、身体からの小さなサインかもしれません。
もちろん、全部を検査で説明できるわけではありません。
でも、説明しようと一緒に覗き込むことはできます。
その視点があるだけで、健診結果は少しやさしいものになります。
今日の記事が、「貧血なしだったから、もう何も言えない」と思っていた人にとって、次の相談につながる小さなメモになればうれしいです。
☆今日の一言

参考文献
本記事は、心不全・慢性腎臓病領域で用いられる鉄欠乏評価の考え方をもとに、一般の方向けに読みやすく再構成しています。
Hb、フェリチン、TSAT、機能的鉄欠乏、貧血の有無だけで判断しない鉄評価の考え方などを参考にしています。
医学情報は今後更新される可能性があるため、実際の診断や治療、サプリメント使用については、主治医や専門医と相談してください。
