【健診の読み方】血糖値に出る前から始まっている|お腹まわりと眠気で気づくインスリン抵抗性のサイン
こんにちは。内科の医師をしています、くまのです。
普段の診療で、健診結果や生活習慣病を見ながら、いつも思うことがあります。
それは、身体はすべてつながっているということです。
病気という名前がつく前に、自分の身体が出している小さなサインをすくい取ること。
それが、いちばん優しくて、いちばん身近な予防医療だと思っています。
だから、診察室で伝えきれなかったことや、健診結果の裏側にあるストーリーを、ここに少しずつ言葉として残しています。
私がどんな人間なのか、そしてなぜこのnoteを書いているのかは、こちらにまとめました。
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前置きが長くなりましたが、今日は「血糖値に出る前から始まっている|お腹まわりと眠気で気づくインスリン抵抗性のサイン」について、健診結果の読み方から一緒に考えてみます。
血糖値が正常だと、少し安心しますよね
健診結果を開いたとき、たぶん多くの人がまず探す数字があります。
血糖値。
HbA1c。
それから、A判定かB判定か。
このあたりに目が行きますよね。いや、わかるんですよ。血糖値って、健診結果の中でも妙に主役感があります。生活習慣病チームのセンターというか、健康診断界の主演俳優というか。
ここが正常だと、少し肩の力が抜けます。
「よかった、糖尿病ではなさそう」
「HbA1cも大丈夫そうだし、今年はセーフかな」
「甘いもの、まあまあ食べてるけど、意外といけたな」
そう思いたくなります。
僕も自分の結果を見るなら、まずそこを見ます。血糖値が正常だと、心の中で小さくガッツポーズしたくなる。人間ですから。
診察室でも、本当によくあります。
健診結果を持ってきた方が、少し安心した顔でこう言います。
「先生、血糖値は正常だったんです」
その言葉の奥には、たぶんいろんな気持ちがあります。
糖尿病ではなさそう。
薬はまだいらなさそう。
生活を全部変えなくてもよさそう。
とりあえず、今年は大丈夫そう。
そう思いますよね。
それは自然な反応です。
でも、ここで一緒にもう少しだけ、健診結果を覗き込んでみたいんです。
血糖値は正常。
HbA1cも正常。
でも、腹囲が少しずつ増えている。
中性脂肪、つまりTGが高くなっている。
HDL、いわゆる善玉コレステロールが低め。
血圧も去年より少し高い。
肝機能もなんとなく脂肪肝っぽい動きがある。
こういうとき、身体は本当に何も起きていないのでしょうか。
ここで大事なのは、血糖値が正常だからダメ、という話ではありません。正常なのはちゃんと良いことです。そこは安心していい。
ただ、血糖値は静かでも、身体の裏側では少し頑張り始めていることがある。
今日の話は、そこです。
インスリン抵抗性は、身体の“残業”として考えるとわかりやすい
ここで出てくるのが、インスリン抵抗性という言葉です。
名前だけ見ると、ちょっと難しそうですよね。
インスリン抵抗性。
急に白衣の人たちが会議室で使っていそうな単語です。
友達とのランチで「最近インスリン抵抗性が気になってて」と言い出したら、たぶん一瞬だけ空気が止まります。いや、言葉が強い。
でも、実はかなり日常に近い話です。
まずインスリンとは何か。
インスリンは、血液中の糖を細胞の中に入れるために働くホルモンです。
ホルモンというと少し難しく聞こえますが、ざっくり言えば、身体の中で指示を出すメッセンジャーです。
ごはんを食べると、血液中に糖が増えます。するとインスリンが出てきて、筋肉や脂肪細胞に向かってこう伝えます。
「糖が来ました。中に入れて使ってください」
細胞がその合図を受け取って、糖を中に取り込む。
すると血糖値は下がっていく。
ここまでは、身体の中の自然な流れです。
ところが、内臓脂肪が増えたり、運動量が減ったり、睡眠不足が続いたり、夜遅い食事が増えたりすると、このインスリンの合図が効きにくくなることがあります。
インスリンはちゃんと来ている。
ちゃんと声もかけている。
でも細胞側の反応が少し鈍い。
インスリンが「糖を入れてくださーい」と言っているのに、細胞が「え、今ちょっと忙しいです」みたいな顔をしている状態です。
身体の中でも既読スルーが起きている。
インスリン、ちょっとかわいそうです。
これが、ざっくり言うインスリン抵抗性です。
つまり、インスリンの合図が効きにくくなって、糖を細胞に入れにくくなる状態。
ただし、ここが大事です。
インスリン抵抗性が始まっても、すぐに血糖値が上がるわけではありません。身体はけっこう頑張り屋です。
インスリンの効きが悪くなると、膵臓がインスリンを多めに出して、なんとか血糖値を正常に保とうとします。
つまり表向きは、
血糖値:正常。
HbA1c:正常。
でも裏側では、
インスリン:増員対応中。
膵臓:やや残業中。
身体:なんとか平常運転を維持中。
みたいなことが起きているかもしれません。
ここが、血糖値だけを見ているとわかりにくい理由です。
血糖値が正常なのは良いことです。そこはちゃんと安心していい。でも、正常を保つために身体がどれくらい頑張っているのかまでは、血糖値だけでは見えないことがあります。

血糖値だけ見ていると、“始まり”は見えにくい
インスリン抵抗性のやっかいなところは、見えにくいことです。
健診結果に大きく「インスリン抵抗性あり」と書かれることは、普通あまりありません。血糖値のように、ぱっと見て高い低いがわかる数字でもありません。
だからこそ、周りの数字や日常の感覚を一緒に見る必要があります。
腹囲。
中性脂肪。
HDL。
血圧。
脂肪肝。
食後の眠気。
昔より太りやすい感じ。
こういう小さなサインです。
もちろん、これらがあるから必ずインスリン抵抗性です、と言いたいわけではありません。身体はそんなに単純ではないです。
眠気だって、睡眠不足かもしれないし、食事量かもしれないし、仕事の疲れかもしれない。夕食後にソファに吸い込まれるのは、もしかすると重力の問題かもしれません。
いや、あの重力、かなり強いですよね。
でも、いくつかのサインが同じ方向を向いているときは、少し立ち止まっていい。
血糖値は正常。
でも腹囲が増えている。
TGが高い。
HDLが低い。
食後に眠い。
昔より太りやすい。
こう並ぶと、健診結果の見え方が変わります。
「糖尿病ではないから大丈夫」で閉じるのではなく、
「血糖値に出る前の身体の頑張りがないかな」と覗き込む。
ここが今回の記事でいちばん伝えたいところです。
なんというか、血糖値が黙っている間に、TGとHDLと腹囲が裏で小声会議をしている感じです。
「そろそろ気づいてもらった方がよくない?」
「血糖値さんはまだ静かだけど、こっちはけっこう動いてるよ」
「腹囲さん、最近ちょっと主張強いよね」
健診結果って、こういうふうに見ると少し面白くなります。数字がただ並んでいるのではなく、身体の中の会話みたいに見えてくる。
血糖値だけが主役ではありません。
脇役に見える数字が、実は伏線だったりします。
お腹まわりと眠気は、身体からのかなり日常的なメモです
まず見たいのは、お腹まわりです。
体重よりも腹囲。
ここを一度見てみてください。
体重はそこまで増えていない。
でもベルトがきつい。
昔のズボンが苦しい。
お腹だけ残る。
写真で見ると、なんとなく体型が変わった気がする。
これ、30〜50代では本当に多いです。
診察室でも、「体重はそんなに変わってないんですけど、お腹だけが」と言われることがあります。いや、わかるんですよ。全身じゃなくて、なぜそこに集まるのか。身体の収納場所、もう少し分散してほしい。
ただ、このお腹まわりは見た目の問題だけではありません。
内臓脂肪、つまりお腹の中の臓器のまわりにつく脂肪は、インスリンの効きにくさと関係しやすい場所です。
脂肪というと、ただ余ったエネルギーをしまっておく倉庫のように思われがちですが、実際はもっとアクティブです。
脂肪組織は、身体にいろいろな信号を出します。増えすぎると、インスリンの効きにくさ、血圧、脂質、脂肪肝などに影響してきます。
つまり腹囲は、ただのサイズではなく、身体の代謝の空気感を映す数字です。
腹囲が増えたからダメ、という話ではありません。責める話でもありません。むしろ、身体が早めにメモを出してくれていると思ってほしい。
「最近、少し内臓脂肪方面に寄ってきています」
「血糖値に出る前に、こっちも見てください」
そんな控えめなメッセージです。
次に、食後の眠気です。
昼ごはんのあと、眠い。
午後の会議で意識が遠のく。
夕食後、もう何もしたくない。
ソファに座った瞬間、身体が沈む。
「少しだけ休む」が、気づいたらしっかり休んでいる。
これも、よくあります。
もちろん、食後に眠くなること自体は珍しくありません。睡眠不足でも眠くなりますし、食べすぎても眠くなります。炭水化物が多い食事でも眠くなりやすいです。
だから、食後に眠い=インスリン抵抗性と決めつけてはいけません。
でも、毎回のように強い眠気がある。甘いものや炭水化物をしっかり食べた後にどっと眠くなる。午後のだるさが続く。そのうえで、腹囲が増えていて、TGが高くて、HDLが低い。
こうなると、身体が糖やエネルギーの処理で少し頑張っている可能性を考えたくなります。
食後の眠気は、健診結果には書かれません。でも、あなたの毎日の中には出ています。
健診結果は年1回の報告書。
食後の眠気は、日々の身体メモ。
そう考えると、眠気もただの敵ではなくなります。身体が「この食べ方だとちょっと重いかも」「この時間に食べると午後がつらいかも」と教えてくれているのかもしれません。
眠気は、だらしなさではありません。
身体の反応です。
その反応を少しだけ観察すると、健診結果の数字と日常がつながってきます。

痩せているから安心、血糖が上がってから頑張る、を少しだけ手放す
ここで、よくある思い込みを少しだけ揺らします。
「自分はそんなに太ってないから大丈夫」
そう思う人は多いです。実際、明らかな肥満がないと生活習慣病の話は自分ごとになりにくい。いや、わかります。見た目でそこまで変わっていなければ、「まだ大丈夫」と思いたくなります。
でも、見た目だけではわからないことがあります。
体重は標準でも、内臓脂肪が増えている人。
昔より筋肉量が落ちて、糖を使う力が弱くなっている人。
体重は変わらないのに、腹囲だけ増えている人。
TGやHDLに変化が出ている人。
こういうことがあります。
だから、痩せているか太っているかだけで判断しない。
体型を責めるためではなく、身体の流れを見るために、腹囲や脂質の数字を使います。
健診結果は、見た目ではわからない身体の近況報告です。
もう一つの思い込みがあります。
「糖尿病って言われたら頑張ります」
これも、本当によくわかります。
人は診断名がつかないと動きにくいです。忙しい毎日の中で、まだ起きていない病気のために生活を変えるのは簡単ではありません。
でも、血糖値が上がる前に気づけるなら、その方が身体には優しい。
血糖値が上がってからでも、もちろんできることはあります。治療もあります。そこからでも遅すぎるわけではありません。
ただ、血糖値に出る前に、腹囲やTG、HDL、食後の眠気、脂肪肝、血圧などで気づけるなら、もっと小さな修正で済むかもしれない。
大きく崩れてから立て直すより、少し傾き始めたところで支える。
急ブレーキではなく、早めに車線を戻す。
このくらいの感覚です。
生活習慣病の予防は、気合いのイベントではありません。
毎日の小さな方向修正です。
今日から見るのは、血糖値の隣にある数字です
では、今日から何を見ればいいのか。
まず、血糖値とHbA1cを見ます。
正常なら、まず安心してください。ここは大事です。良い結果はちゃんと受け取りましょう。
そのあとで、腹囲を見ます。
去年より増えていないか。
次にTGを見ます。
じわじわ上がっていないか。
HDLを見ます。
下がっていないか。
余裕があれば、血圧、肝機能、体重も見ます。
できれば3年分。
なければ2年分でも大丈夫です。
完璧じゃなくていい。
まずは、今年と去年を見比べるだけでも十分です。
そして、日常に戻って考えます。
食後に眠くなりやすくなっていないか。
夕食後に動けなくなっていないか。
甘い飲み物や夜食が増えていないか。
運動量が減っていないか。
睡眠が削られていないか。
ここまでできれば、もう十分に一歩進んでいます。
いきなり生活を全部変える必要はありません。むしろ全部変えようとすると、続きません。人間のやる気は、たまにすごく元気ですが、だいたい長期契約には向いていません。
まずは一つでいいです。
甘い飲み物を減らす。
夜食を週に数回だけやめる。
昼食後に5分歩く。
寝る時間を30分だけ守る。
腹囲をたまに測る。
小さくていい。
身体は急に変わりません。でも、小さな変化にはちゃんと反応してくれます。
今日の話をまとめると、こうです。
血糖値が正常なのは、良いことです。
でも、それだけで身体の代謝が全部わかるわけではありません。
インスリン抵抗性は、血糖値が上がる前から始まることがあります。最初は膵臓がインスリンを多めに出して、なんとか血糖値を正常に保ちます。だから健診では、血糖値だけ見ると静かに見える。
でもその裏で、腹囲、TG、HDL、血圧、脂肪肝、食後の眠気などが、先に小さなサインを出していることがあります。
怖がらなくて大丈夫です。
これは、身体からの脅しではありません。
むしろ、早めに教えてくれているんです。
「最近ちょっと頑張りすぎているかも」
「このままだと、あとで血糖値にも出るかも」
「今ならまだ、少し整えられるかも」
そういうメッセージです。
血糖値が黙っている間も、身体の裏側ではインスリンが少し残業しているかもしれません。
その残業に、早めに気づいてあげる。
「最近ちょっと頑張らせすぎてたね」
「少し楽にしていこうか」
そんなふうに、自分の身体と話してみる。
病気という名前がつく前に、自分の身体が出している小さなサインをすくい取ること。
それが、いちばん優しくて、いちばん身近な予防医療だと思っています。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
この記事が、血糖値だけでは見えない身体の頑張りに、少し目を向けるきっかけになれば嬉しいです。
☆今日の一言

参考文献
・日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン 2024
・American Diabetes Association:Standards of Care in Diabetes 2026
・日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
・日本肥満学会:肥満症診療ガイドライン関連資料
・糖尿病 体系的臨床テキスト:血糖値だけでなく、血圧・脂質・体重・心腎リスクを含めて包括的に評価する視点を参照
・脂質異常症 臨床判断テキスト:TG高値、HDL低下、糖尿病型脂質異常症、Non-HDL-C/ApoBの考え方を参照
・肥満症 包括的テキスト:内臓脂肪、インスリン抵抗性、慢性炎症、脂肪組織を内分泌臓器として捉える視点を参照
※本記事は、上記のガイドライン・臨床テキストの内容をもとに、一般の方にも読みやすいように再構成したものです。個別の診断や治療方針については、必ず主治医や医療機関でご相談ください
