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前職で売れていた人が、転職後に売れなくなる本当の理由

以前、求人広告事業の営業組織で、採用と育成を担っていたときのことです。

当時、私は拠点長として、営業を積極的に採用していました。

採用したのは、車のディーラー、メーカーの部品営業、商社の営業、販売スタッフなど、何らかの営業・接客経験がある人たちです。前職で実績があり、コミュニケーション力もある。質問の回答も的確。
「この人なら活躍できる」と考えて採用していました。

結果として、10人を採用し、10人全員を早期離職させてしまいました。

軒並み、求人広告の営業として成果を出せなかったのです。

なぜ、ここまで採用と育成に失敗したのか。

当時は、採用計画に合わせて人数を採らなければ、組織の売上目標を達成できない状態でした。そのため私は、「自社の営業環境で活躍できるか」よりも、「採用人数を充足できるか」を無意識のうちに優先していました。

そして何より、営業経験を一つの能力として捉えていました。

営業で実績がある。コミュニケーション力がある。ならば商品知識を教えれば、求人広告も売れるはずだ。

でも、これは間違いでした。

私が見ていたのは「売れた」という結果であり、その人が「どのような環境で、どのように売っていたのか」ではなかったのです。

今振り返ると、10人が活躍できなかった理由は、本人たちの営業力だけではありません。採用、オンボーディング、マネジメント、評価のすべてに問題があったのです。

営業力が落ちたのではなく、顧客の買い方が変わっている


十分な営業経験と実績がある人でも、顧客が変われば、売り方も変えなければいけません。顧客の買い方が違うからです。

たとえば、営業職として転職した場合、次のような違いがあります。

  • 問い合わせ商談から、アウトバウンド営業へ

  • 小規模顧客から、エンタープライズ企業へ

  • 既存顧客から、新規顧客へ

  • 既存商材から、新商材へ

  • 担当者中心の検討から、複数部署を巻き込む意思決定へ

  • 短期・低単価の契約から、長期・高単価の契約へ

問い合わせ商談では、顧客側にすでに興味や検討理由があります。一方、アウトバウンドでは、そもそも「なぜ今考える必要があるのか」からつくらなければなりません。

小規模な契約では、目の前の担当者が納得すれば進むことがあります。しかし、高額なエンタープライズ案件では、現場担当者の納得だけでなく、決裁者、利用部門、管理部門など、複数の関係者が意思決定に参加します。

顧客の買い方が変われば、営業に必要な行動も変わります。

つまり、本人の能力が落ちたわけではありません。以前の売り方が有効だった条件と、現在の顧客の買い方が一致していないだけです。

それにもかかわらず、会社は「前職で売れていた」という結果だけを見て、売り方にも再現性があると考えてしまいます。ここに、即戦力採用の最初の落とし穴があります。

車のディーラー営業と、求人広告営業は何が違うのか

たとえば、店頭型の個人向け車のディーラー営業から、求人広告の法人営業へ転職したケースで考えてみます。

もちろん、ディーラーによって営業方法は異なります。法人営業や新規開拓を行う人もいるため、ここでは違いを分かりやすくするために、来店客を中心に担当する営業を例にします。

1. 商談が始まる時点の検討度が違う

ディーラーへ来店する顧客は、少なくとも車に関心があります。

  • 車検が近い

  • 今の車が古くなった

  • 家族が増えた

  • 欲しい車種がある

すでに何らかの購入理由を持っていることが多く、営業はその理由を確認し、条件に合う商品を提案します。

一方、求人広告の新規営業では、相手が採用を検討しているとは限りません。採用予定がない企業へ連絡することもあれば、採用したいが予算化していない、過去に求人広告を出して失敗した、別の採用手段を使っている、という場合もあります。

商品の説明より先に、「なぜ今、採用について考える必要があるのか」をつくらなければ、商談そのものが始まりません。

2. 商品の見えやすさが違う

車には、デザイン、性能、乗り心地、価格など、比較しやすい実体があります。試乗してもらい、競合車との違いを説明し、購入後の生活を想像してもらえます。

求人広告が売るのは、広告枠そのものではありません。その広告を通じて応募が集まり、採用が成功し、入社した人が活躍するという、まだ存在していない未来です。

しかも採用成果は、広告だけでは決まりません。仕事内容、給与、働き方、会社の魅力、選考スピード、面接の内容など、顧客側の条件と行動にも左右されます。

ここには、有形商材と無形商材の大きな違いがあります。

車は、購入前に実物を見て、触れて、試乗できます。購入後に期待との違いがまったく起きないわけではありませんが、顧客は商品そのものを確認したうえで意思決定できます。

一方、求人広告は、掲載前に成果を確認できません。応募数や採用成功を確約できるものでもないため、営業と顧客が期待値を合わせたつもりでも、想定より応募が来なければ「思っていたものと違った」と受け取られやすくなります。

一度この体験すると、その後の営業にも影響します。

自信を持って提案し、顧客に購入してもらった。しかし、期待した応募が来ず、顧客を落胆させてしまった。こうした経験をすると、次の顧客へ同じ商品を勧めることが怖くなってしまうのです。

「本当に成果が出るのか」
「また期待を裏切るのではないか」
「自信を持って勧めてよいのか」

営業経験があっても、成果が購入後にしか分からない無形商材を売る心理的負荷には、慣れていないことがあります。これは話し方やクロージング技術だけの問題ではありません。不確実な成果を扱いながら、何を約束し、何を顧客と合意し、どこまで伴走するのかという営業観の転換が必要です。

求人広告営業に必要なのは、成果を安易に約束することでも、「効果は保証できません」と責任を遠ざけることでもありません。

  • 成果に影響する条件を顧客と整理する

  • 期待できることと不確実なことを分ける

  • 顧客側にも変えてもらう条件を合意する

  • 掲載後の結果を見て、改善を続ける

商品説明だけでなく、顧客の採用課題を整理し、採用条件や選考方法に踏み込み、成果が出る確率を一緒に高めていく力が必要になります。

3. 意思決定の構造が違う

個人向けの車の購入では、本人や家族が主な意思決定者です。

求人広告では、人事担当者だけで決まるとは限りません。募集部門の責任者、経営者、現場社員、場合によっては本社の承認が必要です。

目の前の担当者が「良い」と思っていても、会社として採用の優先順位が上がらなければ、予算は動きません。

営業は、担当者を説得するだけでなく、社内の誰が何を判断するのかを捉え、顧客が社内で意思決定できる材料をつくる必要があります。

4. 成果を出すための行動量と時間軸が違う

来店客を担当する営業では、目の前の商談の成約率を高めることが成果に直結しやすい一方、求人広告の新規営業では、見込み顧客を自分で探し、接点をつくり、検討理由を育てるところから始まります。

テレアポ、再接触、顧客理解、採用課題の整理、提案、社内調整、掲載後の改善まで、成果が出るまでの工程が長くなります。

前職で高い成約率を出していた人でも、新規接点を大量につくる行動や、すぐには買わない顧客を長期で追う経験がなければ、同じ成果は再現できません。

5. 求められる「コミュニケーション力」が違う

面接で話しやすく、印象が良いことは大切です。しかし、それだけで法人の新規営業ができるわけではありません。

必要なのは、顧客と気持ちよく話す力だけではなく、

  • 相手がまだ認識していない問題を見つける

  • 経営や事業への影響まで質問する

  • 耳の痛いことも伝える

  • 複数の関係者の利害を整理する

  • 購入後の成果から逆算して提案する

といった力です。

私は当時、これらをすべて「営業経験」や「コミュニケーション力」という言葉でひとまとめにしていました。

誤解のないようにお伝えしておきますが、車のディーラーで培った経験そのものの価値がないと言っているわけではありません。顧客との信頼構築、ニーズの把握、商品提案、クロージングなど、応用できる力はたくさんあります。

問題は、何がそのまま使えて、何を新しく学ぶ必要があるのかを、採用する側が分解できていなかったことです。

10人の早期離職を生んだ、4つの設計ミス

私の失敗は「採用時の見極めが甘かった」だけでは説明できません。入社後も含め、次の4つが連鎖していました。

1. 採用:実績を見て、成果が出た条件を見ていなかった

前職の売上や表彰歴は確認しても、その成果がどのような営業環境で生まれたのかを確認できていませんでした。

  • 新規営業か、既存営業か

  • 自分で顧客を開拓したのか、問い合わせ中心だったのか

  • 顧客は個人か、法人か

  • 単独決裁か、組織決裁か

  • 有形商材か、無形商材か

  • 短期商談か、長期の案件形成か

  • 本人の力か、ブランド・商品・集客力の影響が大きかったのか

同じ「営業実績」でも、成果を生んだ条件はまったく違います。

2. オンボーディング:経験者だから分かるはずだと考えた

営業経験者には、商品知識や社内ルールを教えれば十分だと考えていました。

しかし本当に必要だったのは、前職と求人広告営業の違いを本人と一緒に整理することでした。

過去の成功体験のうち、何を生かすのか。何が現在の顧客には通用しないのか。どの行動を新しく身につけるのか。

この翻訳をしないまま、「経験者なのだから売れるはず」と商品知識だけを教えて、商談へ送り出していました。

3. マネジメント:自社の正解を教え、違いを説明しなかった

現場に配属されると、直属の上司は、「行動量を増やそう」「もっと深掘りしよう」「クロージングを強くしよう」と営業指導します。

でも中途入社者本人は、その言葉を前職の経験で解釈します。

上司が求める「深掘り」と、本人が知っている「深掘り」は違う。上司が求める「クロージング」と、本人が成功してきた「クロージング」も違う。

求人広告営業の正解を教えようとしていましたが、その人の前職との違いまでは説明していませんでした。

4. 評価:早期成果を求め、過去の型へ戻らせた

採用計画に余裕がなかったように、売上計画にも余裕がありませんでした。

経験者には、早く数字をつくることを期待します。しかし、早く成果を求めるほど、本人は新しい行動を試すより、過去に成功した行動を選びます。

それで成果が出ないと、次第に自信を失っていく。
上司は「本当に前職で売れていたのか」と疑い、本人は「この商品や会社では売れない」と感じる。互いの信頼が崩れ、早期離職へ近づいていきます。

流れを整理すると、次のようになります。

人数を優先して採用する
→ 前職で成果が出た条件を確認しない
→ 即戦力として早期成果を求める
→ 本人は過去の売り方に頼る
→ 現在の顧客の買い方と合わず、成果が出ない
→ 抽象的な指導を繰り返す
→ 本人と上司の双方が「相手に問題がある」と考える
→ 早期離職する

10人が辞めたのは、10人全員に偶然問題があったからではありません。

10人が同じように活躍できなかったのであれば、見るべきなのは個人差よりも、採用と育成の構造です。

ここには、経験者育成の矛盾があります。

過去の成功体験を手放してほしい。しかし、経験者なのだから今すぐ成果を出してほしい。

早く成果を求めるほど、本人は最も信頼できる過去の行動へ戻ります。だからこそ経験者の育成には、単なる学習ではなく、成功体験を現在の環境に合わせて更新するアンラーニングが必要です。

組織には共通の型を、個人には成功体験との差を

中途営業を早期戦力化するには、組織と個人の両方に働きかける必要があります。

1. 組織に「顧客の買い方」を起点とした共通の型をつくる

共通の型は、トークスクリプトだけではありません。

  • 顧客は、どのように問題を認識するのか

  • 誰が検討に参加し、誰が意思決定するのか

  • 商談は、どのような順序で進むのか

  • 各段階で、営業は何を確認すべきか

  • 何が確認できれば、案件が前進したと判断できるのか

こうした判断基準まで言語化されて、初めて組織の型になります。

2. 個人の過去の成功体験を分解する

次に、本人が前職でどのように売っていたのかを確認します。

  • どのような経路で商談が生まれていたか

  • 顧客は商談前に、どこまで検討していたか

  • 誰が意思決定していたか

  • 何を説明すると案件が進んだか

  • どのようなクロージングが有効だったか

大切なのは、過去の成功体験を否定しないことです。その売り方が、どのような環境で有効だったのかを明らかにします。

3. 違いを、次の商談で変える一つの行動に落とす

最後に、現在の顧客の買い方と比較し、次の商談で何を変えるかを決めます。

悪いフィードバックは、こうです。

「ヒアリングが浅い。もっと顧客の課題を深掘りしよう」

これでは、本人が前職で行っていた「深掘り」を繰り返すだけです。

行動を変えるなら、たとえば次のように伝えます。

「前職では、担当者本人の課題が明確になれば検討が進んでいた。一方、今回は部門課題として認識されないと予算が動かない。次の商談では、担当者の困りごとだけでなく、その問題が部門目標にどのような影響を与えているかを確認しよう」

このように、過去との違い、変える理由、次の具体行動までつなげます。

型を渡すだけでは、営業は変わりません。本人が「なぜ自分の売り方を変える必要があるのか」を理解し、実際の商談で試し、結果を振り返るところまでがオンボーディングです。

中途営業の立ち上がりは、採用力より初期教育で決まる

もちろん、採用段階で営業環境との相性を確認することは重要です。

少なくとも、実績とコミュニケーション力だけで判断せず、どのような営業環境で成果を出したのかを確認する必要があります。

ただし、前職と自社の営業環境が完全に一致する人だけを採用しようとすれば、採用できる人数は大きく減ります。現実には、経験者を採用したうえで、入社後に売り方をチューニングする仕組みが必要です。

ところが、即戦力として採用した人ほど初期教育は簡略化されます。

商品説明を行い、資料を渡し、商談に出す。成果が出なければ、上司が案件レビュー、商談同行、個別フォローを増やす。

これでは、営業本人だけでなく、マネージャーも疲弊します。

本来、営業マネージャーが時間を使うべきなのは、顧客を見ること、市場を見ること、戦略を考えること、重要案件に集中することです。中途営業の立ち上がりを個別の案件レビューだけに依存させると、マネージャーはいつまでも目の前の案件対応から抜けられません。

中途営業のオンボーディングは、本人を育てるためだけの施策ではありません。

早い段階で顧客の買い方と営業の判断基準を共有し、過去の成功体験との差を埋める。それによって、本人が自分で案件を考えられるようになり、マネージャーの個別フォローを減らしていく。

ここまで設計して、初めて営業組織の投資になります。

中途営業が活躍できないとき、すぐに本人の能力や採用の失敗へ原因を戻すべきではありません。

見るべきなのは、過去にどのような顧客へ、どのような売り方で成功したのか。そして、現在の顧客はどのように買うのか。その違いを、組織が説明できているかです。

私は当時、「実績のある人を採れば、売上計画を達成できる」と考えていました。

しかし、営業経験は、環境から切り離して持ち運べる一枚岩の能力ではありません。

営業経験は、そのままでは再現性になりません。

顧客の買い方に合わせて成功体験を更新できたとき、経験は初めて新しい環境でも使える営業技術になります。

10人を採用し、10人を早期離職させてしまった経験から、私はそう考えるようになりました。

あなたの会社は、中途営業の「実績」だけでなく、その実績が生まれた「顧客の買い方」まで見ているでしょうか。

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