パナリ焼を再現する⑧海岸にて
石垣島の東側の海岸を歩いている。
あてどもなくウロウロと。
何を探すでもなく、景色を見るでもなく。
ただ歩きながら、頭の中をぐるぐる回っている1つの疑問。
「七輪パナリ焼。あれ、なんでうまく行ったんだろ?」
・焼き上がりの色
・割った断面の黒い層
・水の保持時間。
全くこれまで焼いたものと違っている。
そしてなにより、いちばんパナリ焼に近い感じがする。
でも、まさか本当に七輪で焼いていたはずはないよね?
古謡にも茅やススキで焼いたとあるのだし、何らかの「野焼き」だったのは間違いないんだ。
文化財課の方から聞いた話を思い返してみる。
パナリ焼を焼いたと思われる明確な痕跡は、八重山全島においていまだに見つかっていない。
時々、石灰岩やサンゴが組まれた跡を一般人が見つけて
「窯跡なのでは?」
ということがあるが、
「地面が高温で焼き固まっている」
とか、
「組まれたサンゴが通常の焚火以上の熱で変質している」
などの事実は確認できていない。
つまり、考古学的な視点から見て、野焼き、あるいは土器の窯と断定できるようなものは存在しない。
八重山各地から、生活の痕跡と共に大量のパナリ焼が発掘されているにもかかわらず。
とのことでした。
これって、すごく不思議なことだ。
伝承のように、「新城島(パナリ島)だけでパナリ焼が焼かれていた。」
というのなら、他の島(石垣・西表)で焼き場跡が見つからないのは当然のこと。
「すべてのパナリ焼は新城島から海路で渡ってきたから。」
と一言で説明が付く。
でも、発掘調査では、
・西表島で生産されたと考えられるもの→胴部が丸く膨らむ。成形技術が優れている(壺類が多い)

・波照間で生産されたと考えられるもの→胴部が丸いもの、底部が広いもの、両方ある。(窯印が付いてるものが多い。手取りが重いとも)

・黒島で生産されたと考えられるもの→土器製の勾玉(なぜか黒島だけで大量に見つかっている!)

要するにこういうこと
↓
八重山各地から大量のパナリ焼が発掘されている。
しかも、島ごとに特徴が違う。
つまり普通に考えれば
各地で作られていた。
にもかかわらず──
どこにも焼成跡が見つかっていない。
ということなんだ。
思考はフラフラと七輪に戻っていく。
炭火って、焚火の後の熾火(おきび)とよく似てるよね。
炎が上がらず、煙が出ず、一定の温度で熱を供給し続ける。
違いがあるとすれば、地面の上で火を焚くと、熾火になった時の温度は炭火ほど高温にはなりにくい、という点だと思う。
二回目の野焼きで失敗したのは、地面の湿気と被せたススキの煙で酸素の少ない炭化焼成になり、煤で表面は真っ黒、内部は土器に必要な温度にならず粘土のまま。
結局、水を入れたら崩壊してしまった。
となると、酸素供給が肝だってことになるよなぁ…。
・七輪と同じように、下から空気がたくさん入る。
・地面の湿気が遮断されて、温度が安定して上がる。
この二つを同時に満たす野焼きの条件って何だろう?
今歩いている白保や大浜の海岸は、いわゆる砂浜ではない。
サンゴや貝殻がゴタゴタと広がる、風の強い海岸。
歩くたびに足が取られて、ゴロゴロと音を立てる。
油断すると転びそうになる。
でも、まさにこんな海岸、
「湿った土が無く、穴や隙間だらけのサンゴが敷き詰められたような場所」こそが、パナリを焼く最適地だとは言えないだろうか?
さらに言うと、こんな場所でいくら土器を焼いたとしても、数日後には波と風が痕跡をすべて消し去ってしまう。
焼き損じた壺の破片も含めて何もかも。
検証実験
この見立て、説得力はあるし発掘調査と整合性も取れてる。
でもね、「筋が通ってるから即事実である」とは限らないんだ。
やってみたら全然ダメだった。なんてよくあること。
だから・・
やってみるしかないじゃない
海辺で農業と陶芸を生業としていて良かったとつくづく思う。
パナリ焼に必要なものは全て身の回りから調達できるんだから。
海辺からサンゴを集める。
拳大のもの、一抱えもある穴だらけのもの。


できるだけたくさん。
地面に敷き詰めて小さな炉床を作る。
土の地面と違い、隙間だらけ。
風が通るし、湿気も上手く遮断してくれるはず。
二時間ほどで「ミニ東海岸」が出来上がった。


隙間があるうえにサンゴに穴が開いてるおかげで空気がよく通るはず。
火床が完成したので事前に作っておいた壺を周辺に配置。
七輪のときの予熱プロセスを再現するため、焚火の熱を活用するというわけ。

いよいよ点火!
細めの薪を組んであるのでよく燃える!

細木が燃えたら太めの薪を追加していく。
この太い薪がちょうど七輪の炭火のような働きをするはず。
火床の隙間が良い仕事をしてくれているようで、ぶっとい薪でもしっかり燃える!

いい感じに火が落ち着いてきたので、熾火になったと判断し壺を載せていく。
ここが一番緊張する工程なんだ。
だって、壺に水分が残っていると熱で気化して壺を爆発させてしまうから。

予熱がしっかりできた壺から順に火中に投じていく。
注意点は、
決して炎が燃え上がっている時に壺を投入しないこと
熾火の温度はせいぜい600~700℃程度なのに対し、炎の温度は900度を軽く超える。
これが生土の壺に触れると「バーン」となる!
大壺投入
一時間くらい経って、大壺も予熱が完了したので投入していく。
ここから先は未知の領域。
七輪の小壺のように、
・上側は空気に晒されて冷たい
・下側は熾火の熱で真っ赤!
な状態で、冷め割れしないかな?
ほんとに大丈夫かな?
っていうか、熾火の熱で大壺の内部まで熱が伝わるものなのかね?
もう、やってはいけないことを全部やってるよ、これ…

炎が上がっていないから、全体を熱する事が出来ない。
30分ほど経ったところで、本日のハイライト、ひっくり返しタイム!
火ばさみで持てるサイズじゃないので、なんと壺の中に棒を突っ込んで、少しずつ回転させるという荒業!

やってはいけないシリーズ最終章、
試しに持ち上げて、赤熱の度合いを確認!
はい、ちゃんと赤くなってるね。(普通の土器ならここで割れます)

なんともクレイジーな野焼き風景
最初の壺を投入してから2時間ほどの間に、大小5個の壺をすべて焼き上げることが出来てしまった。

豪快といえば豪快。雑といえば雑…
赤く光を放つ壺は、冷めるにつれてパナリ焼の橙色に変化していく。
明らかに以前の野焼きとは違う手応え。表面の亀裂は無く、棒を差し込んだ時もしっかり響くよい音がする。
そして何より驚いたのは‥
本当に冷め割れしなかったってことなんです!
なぜ、そんなに意外なのかと言いますと…
普通、大型の土器を大量に焼こうと思ったら、石や割れた土器片で囲いを作って簡易的な窯の状態で焼く。
屋根はなくても良いが、土器の周囲が囲まれていることが必須条件なんだ。
理由はシンプル。
①温度がムラなく上昇すること。
②焼成後、温度がゆっくり下降すること。
この2つが守れないと割れるから。
ところが、今日の焼き方はそのどれも守っていない。
•片面だけ赤熱するまで加熱
↓
•外気に触れた状態で回転させ続ける。
↓
•焼き終わったら外に出して急冷。
こんな荒業ができてしまうということは、
小さな焚き火の範囲で、
周りを囲うことなく、
理論上、何個でも焼き続けることが可能
ということになるんだよね。
2時間で壺5つ焼けたから、単純計算で10時間で25個焼けることになる。
ここで思い出すのが、古謡の一文
夜ヌムムカ プシティ
(数夜、弱火で焼いて)
これ、
「1回で複数のパナリ焼を数夜にわたってじっくり焼いた。」
という意味だと思っていたけど、たった1mにも満たないサンゴの火床で、数の制限なく焼けるのなら、
「たくさんのパナリ焼を、一度に1〜2個づつ順番に焼いて、全て焼き上げるのに数夜掛かった」
とも解釈できるのじゃない?。
海岸で閃いた仮説が、急に信憑性を帯び始める。
面白くなってきたよ、これは。
part⑨へ続く
