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【陰間茶屋始末】第十九話:『鉾(ほこ)の重み、火の静寂』

宮川町の路地裏に、祇園囃子の「コンチキチン」という稽古の音が、どこか弱々しく響いている。

例年なら町中が浮き足立つ時期だが、今年は違う。
お上から「山鉾の装飾は控え、行列の人数を減らし、一切の贅を禁じる」という、冷酷な通達が下されたのだ。

陽向の店に、その日の寄合を終えたばかりの氏子たちが、沈んだ面持ちで現れた。

「……陽向さん。お上は、この祭りが何のためにあると思てはるんや」

一人が、力なく酒を煽る。
その手は、山鉾の縄を締めるためにマメだらけになっていた。

「『華美を排せ』やて。千年も前から、疫病を払い、都を清めるために命を懸けて飾ってきた鉾を、ただの『贅沢』やと切り捨ておった」

別の男が、悔しそうに付け台を叩く。

「巡行を止めるわけにはいかん。けど、お達しに背けば町ごと取り潰しや。……いっそ、今年は鉾を出さん方が、先祖に申し訳が立つんと違うか……」

苦渋の決断を迫られる男たちの前で、陽向は静かに、熾火で「加茂茄子の鴫焼き」を仕上げていた。

「……旦那。お上は、形だけを見てはるんですわ」

薪が爆ぜる音のように、低く通る声。

「派手な刺繍や金箔を剥ぎ取れば、祭りが死ぬと思てはる。……けど、祭りの『芯』は、そこにはおへんでしょう」

香ばしく焼けた茄子が差し出される。
漆黒の皮の中に、とろけるような白い実が隠れている。

「表が地味になっても、中の火さえ消さへんかったら、それは『負け』やあらしまへん」

陽向は、ほんのわずかに目を細めた。

「……お上が見ている表を、これでもかと質素にしてやりなはれ。
その代わり、見えへんところで、かつてないほど鋭い刀を研ぐように、祈りを込めはったらよろしい」

氏子の一人が茄子を口に運び、その熱さに目を見開く。

「……見えへんところ、か」

「ええ」

陽向は、熾火に目を落としたまま続ける。

「お達しを逆手に取って、世界で一番『静かで、恐ろしいほど気高い祭り』を見せてやるんですわ。
……表を削がれても、中身が揺らがんのが、京の町衆の意地やないんですか?」

男たちの目に、諦めではない火が灯る。

「……ほうか。お上の望み通り、地味に、静かにやってやろうやないか。
……その代わり、魂まで削らせはせんで」

一杯の酒を飲み干し、男たちは戦場へ向かうような顔で店を出ていった。

静けさが戻る。

一人残された陽向は、板場の隅に置かれた、お達しの書き付けの影を見つめた。

「……ほんま、お上は無粋なことをしはる」

小さく、笑う。

「……おかげで、今年の祭りは、今までで一番熱くなりそうですわ」

陽向は熾火に、太い薪を一気にくべた。

暗い路地裏に、祇園囃子が、今までよりも低く、重く、地面を這うように響き始めた。

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