住宅ローン24万円負担増は返済額ではない
金利上昇で住宅ローンを抱える30代は年24万円の負担増。内閣府が7月24日に公表した経済財政白書の試算で、8月6日に共同通信配信で改めて流れた。
白書の備考欄
家計の住宅ローン残高は2025年度末で244兆円。2020年からの5年で30兆円積み上がっている。
年次経済財政報告の第2章第1節に当たった。金利上昇の影響を世代別に試算した図が二つ並んでいる。白書は同じ節で、住宅ローンは残高ベースで7割程度が変動金利だと国交省調査を引いて書いている。つまり試算対象の大半が、5年ルールの効く層である。
読むべきは図ではなく、その下の備考だった。
金融資産のうち株式・投資信託以外の資産に受取利子率の上昇幅を、負債総額に支払利子率の上昇幅を乗じることで計算。そう書いてある。
掛け算である。
答え合わせ
白書は住宅ローン保有世帯の残高平均も出している。30代で約2,600万円、40代で約2,000万円、50代で約1,300万円。
2,600万円に1%を掛ける。26万円。
ただしこの残高は家計の金融行動に関する世論調査から取ったもので、対象は二人以上世帯である。単身世帯が抜け、返済初期のフルローン層も平均に埋もれる。実勢より低めに出ている可能性はある。
報じられた24万円は、住宅ローン以外の負債も含めた負債総額に対する数字であり、しかも受取利子の増加を差し引いた純額である。前者は数字を押し上げ、後者は押し下げる。26万円との差は、その二つが相殺された残りであって、内訳までは白書から読み取れない。
返済額は動かない
では、その負担増は誰の財布から出るのか。
変動金利・元利均等返済で5年ルールが効いていれば、毎月の返済額は変わらない。金利が上がっても動くのは内訳だけである。利息の割合が増え、元本充当分がその分減る。
24万円は、家計から出ていく金ではない。増えたのは利息の発生額であって、支払額ではない。
出ていかない代わりに元本が減らなくなり、その分は残高として残り続けて次の5年、また次の5年と利息を生み続けるので、負担が消えたわけではなく、返済期間の後ろへ移っただけである。白書の試算は、その移動を扱っていない。
ただし全員が同じではない。SBI新生銀行のように5年ルールを採用していない金融機関では、金利が上がればその場で返済額が増える。同じ24万円が、こちらでは本当に財布から出ていく。銀行によって数字の意味が変わる話は、この連載の後で扱う。
上げ幅は一本だけ
前提は、借入金利が1%ポイント、預金金利が0.6%ポイントの上昇。この一組だけである。2%なら、3%ならという刻みは載っていない。
白書はこの1%÷0.6%=1.67倍という比率を明示している。短期金利に連動する預金金利の1単位の上昇に対して、住宅ローンなど長めの金利は1.67倍動く。試算の骨格はこの一本の係数である。
そして白書自身がこう書いている。特定の金利上昇幅を前提としたものではなく、長短金利の上昇幅の違いによって家計の負担や恩恵を可視化する試み。金額そのものより、金利構造や株価との相対関係が与える影響を議論することに意味がある、とも書き添えている。
株価については別の試算も併載されている。年5%の上昇を仮定して株式や投資信託の値上がり益まで加えても、40代までの住宅ローン保有世帯は差引でマイナスになる。
政府文書に書けないこと
感応度分析がないのは手抜きではないと思う。
内閣府が「今後さらに何%上がる」と前提を置けば、政府が日銀の政策見通しを示したことになる。白書という文書の性格上、そこには踏み込めない。
制約の自覚は、文書の中に残っている。白書は日銀法が金融政策の理念として物価の安定を通じた国民経済の健全な発展を定めていることに触れ、このシミュレーションはそうした金利調節の便益を捨象していると自ら注記した。
過去の実績を当てはめる以外の書き方がなかった、と読むのが妥当だろう。2024年から2026年半ばにかけて、預金金利は0.5%程度、住宅ローン金利は0.8%程度上がったと白書は別途書いている。試算の1%と0.6%は、この実績のわずかに先に置かれた数字である。
現在地のほうも、白書自身が書いている。短期金利は2026年6月に1%程度、長期金利は2%台半ば。
26万円の開き
平均という言葉が隠しているものが、もう一つある。
30代の住宅ローン保有世帯では、6割強が年間20万円超の負担増になる。可処分所得の平均を600万円程度として、その4%程度にあたると白書は書いている。平均24万円の裏には、この分布がある。
一方で30代でも住宅ローンがなければ約2万円のプラスになる。同じ世代の中に、26万円の開きがある。
70代も同じで、2割以上が年間10万円超のプラスとなる一方、0〜5万円のプラスにとどまる世帯が約6割を占める。預金残高が少なければ、金利が上がっても受け取りは増えない。
世代別に切った図が並んでいるので世代の話に見える。中身は、ローンの有無と金融資産額という二つの変数の話である。
白書の備考欄には、負債総額に支払利子率の上昇幅を乗じた、とだけ書いてある。
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