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マムダニ就任45日で八方塞がり〜「無料」の財源が消えた日〜

前回の記事で、私はこう書いた。「NY州のホークル知事がマムダニ市長と共同記者会見を開いた」「州として財源面で協力する姿勢を見せている」と。

あれから3週間。状況は想定以上に悪い。


蜜月は8日間だった

就任8日目の1月8日、ホークル知事はマムダニと並んで保育無償化を共同発表した。「ニューヨークの全ての家庭が同意できることがある。保育料が高すぎる」。華やかな滑り出しだった。

Politicoによれば、この共同発表は2025年夏から水面下で仕込まれていた。ホークルがマムダニの市長選を支持し、マムダニはホークルの再選を支持する。その取引の成果物が、就任直後の「公約実現」だった。

保育では手を組めた。ホークルにとっても選挙で見栄えのいい政策だからだ。

問題はそこから先だった。

増税だけは飲めない

マムダニが「年収100万ドル超の富裕層に2%の増税を」と求めた途端、ホークルは拒否した。1月30日、NBCのインタビューで「富裕層増税には同意しない」と断言。2月17日にも「固定資産税の引き上げが必要だとは思わない」。

マムダニが示した2つの道、富裕層増税か固定資産税引き上げか。ホークルは両方を否定した。

ホークルは2026年に再選を控えている。富裕層ドナーを敵に回す増税は選挙年に飲めない。保育はOK、財源はNO。マムダニの公約の「支出」には乗るが、「歳入」には乗らない。

致命的なのは、マムダニがホークルの再選支持を2月10日にもう表明してしまったことだ。交渉カードを切った後で、肝心の財源を得られていない。

「驚いた」のか

2月17日、マムダニは暫定予算案を発表した。約54億ドルの赤字を埋めるために、固定資産税の9.5%引き上げと、緊急用積立金・退職者医療給付準備金の取り崩しを「最後の手段」として提示した。

だがここで一つ、立ち止まる必要がある。

マムダニは1月28日の記者会見で、前任のアダムス市長から引き継いだ約120億ドルの赤字に「衝撃を受けた」と語った。「この規模の問題を前政権が示していた兆候は一切なかった」と。

本当にそうだろうか。

Vital Cityに寄稿した元NY州予算局長のポール・フランシスは、マムダニの記者会見をこう評した。「カサブランカで、リックのカフェの奥の部屋にギャンブルがあったことに驚くルノー警部長にふさわしい憤慨」。つまり、驚いたふりだ、と。

事実を並べる。2025年6月、州会計検査官DiNapoliが「NYCは年間130億ドルの赤字に直面する可能性」と報告した。8月、マムダニの盟友だった当時の市会計検査官ブラッド・ランダーが「2027年度の赤字は88億ドル」と推計を出した。12月、独立予算局が140億ドルの赤字を推計した。ランダーは退任前の報告書で「何年ものごまかしの後、アダムス政権は次の政権に100億ドル超の赤字を押し付けて去ろうとしている」と書いている。

これらは全て公的な報告書として公開されていた。マムダニはNY州議会議員だった。読める立場にあった。選挙期間中にも一部メディアは報じていた。有権者の関心が家賃や治安や移民に向いていたから、目立たなかっただけだ。

知らなかったのか。知っていて言わなかったのか。

自分も加担していた

もう一つ、フランシスの指摘で見逃せない点がある。

マムダニは赤字の原因を「アダムスの過少計上」と「クオモ前知事の市への資金削減」に帰した。アダムスの予算操作は事実だ。だが赤字の構造はもっと根深い。

赤字を膨らませた最大の要因の一つが、市議会が可決したCityFHEPS(家賃補助プログラム)の拡大だ。もともと膨張していたコストに加え、市議会が受給資格のハードルを下げ、事実上の大規模な家賃補助の新しいエンタイトルメント(権利付き給付)を作った。アダムス政権の推計では5年間で172億ドル、市議会推計でも106億ドルのコスト増になる。

マムダニは州議会議員時代にこの拡大を支持し、市長選では「当選したら実施する」と公約していた。

もう一つ。州が市に課した「クラスサイズ縮小」法案。独立予算局の推計で年間16億〜19億ドルの追加コスト、新教室建設の資本コストは100億ドル超。マムダニはこの法案にも賛成票を投じ、「州からの追加資金がなくても実施する」と言っていた。

つまり、赤字を作った政策の一部に自分も関わっていた。「アダムスの予算危機」と名づけて責任を前任に押しつけたが、構造的に見れば、マムダニと彼の政治的同盟者も赤字拡大の当事者だ。

フランシスの結論はこうだ。「アダムスの予算操作は確かに問題だったが、マムダニの同盟者が推進し、マムダニ自身が支持した一連の支出拡大政策も同様に問題だった」。

家賃補助の撤回と現場の声

その公約していたCityFHEPS拡大を、マムダニは2月12日に撤回した。

約47,000世帯を新たに対象にするという約束だった。市議会が2023年に可決し、アダムスが実施を拒否し、市議会が訴訟を起こし、控訴裁判所が「実施せよ」と命じた。マムダニは選挙中、「訴訟を取り下げ、拡大を実施する」と公約していた。

就任後の決定は「訴訟の取り下げ」ではなく「和解の追求」だった。事実上の先送りだ。

CityFHEPSは月4%のペースで膨張している。予算6億ドルの見込みが20億ドルを超えた。会計検査官レヴィンの推計では、拡大を完全実施すれば5年間で60億〜200億ドルの赤字拡大になる。撤回の理由は明快だ。払えない。

だが現場の反応は厳しい。

VOCAL-NY(シェルター居住者を組織する団体)のアドルフォ・アブリュー。「市庁舎とニューヨーク市に新しい時代が来るという約束だった。だが市長は過去の政権と同じ失敗を繰り返しているように感じる」。

Women in Need(家族向けホームレスシェルター運営)のクリスティン・クインCEO。「CityFHEPSは何千人ものニューヨーカーがシェルターを出て永続的な住居を得ることを可能にした実績あるプログラムだ。市長に約束を守るよう求める」。

Homeless Services Unitedは2月17日付で声明を出した。「CityFHEPSの拡大は法律で定められている。市は法律に従わなければならない」。

Legal Aid Societyのエドワード・ジョセフソン弁護士。「マムダニの決定はさらなる遅延を招くだけだ。その間、この法律でカバーされるはずだった退去手続き中の全ての人が保護されない」。

注目すべきはWINが出した試算だ。CityFHEPS拡大を完全実施すれば、シェルターコストの相殺で市は6億3500万ドルの節約になると主張している。市民予算委員会(CBC)の「コスト膨張」の分析に真っ向から反論する形だ。

増税しなくても節約できる道がある、という主張。どちらの試算が正しいかはわからない。だが少なくとも、「払えないから撤回」で済む話ではないことは確かだ。

左からも叩かれる

ホークル支持の表明は、マムダニの出身母体であるNYC-DSA(民主社会主義者)も苛立たせた。

DSAの声明。「ホークル知事は、強いられたときにしか労働者階級の利益を優先しないことを繰り返し証明してきた」。マムダニの名指し批判は避けているが、支持表明の直後に出された声明だ。

2月25日にはオールバニーで「Tax the Rich(富裕層に課税を)」の大規模集会が予定されている。DSAや労組が主催する。マムダニの財政政策の根幹を訴える場だ。

NYタイムズによれば、マムダニ本人は参加しない方向だという。ホークルとの関係を壊したくない、と。

自分の支持基盤が主催する、自分の政策の核心を訴える集会に、顔を出せない。

市議会も通さない

固定資産税の引き上げには市議会の承認がいる。市議会議長ジュリー・メニンは即座に反対した。「手の届く生活コストの危機に直面している今、積立金の取り崩しや大幅な固定資産税の引き上げは議論の余地すらない」。

クイーンズ区長のドノバン・リチャーズは「完全に論外だ」と言い切った。

NYの固定資産税制度は40年以上前に作られたもので、黒人住民が多い地域の住宅所有者は、白人が多い地域の2倍近い税率を負担している。マムダニは就任演説で「壊れた固定資産税制度を改革する」と宣言していた。その改革なしに一律9.5%の増税をかければ、すでに重い層がさらに重くなる。

市議会副議長のナンタシャ・ウィリアムズは、主に黒人の住宅所有者が多い地区を代表する。「この不公平に対処せずに増税を進めることは、サウスイースト・クイーンズの黒人、ブラウン、労働者階級の住宅所有者にとって深刻に的外れだ」。

「手の届く生活コスト」を掲げた市長の増税案が、最も手の届かない層を直撃する。市議会はこれを通さないだろう。

家主からの反発

固定資産税の引き上げは住宅所有者だけの問題ではない。家主が税コストを家賃に転嫁する。

ニューヨーク・アパートメント協会のCEO、ケニー・バーゴス。「これは事実上の家賃引き上げだ。家賃安定化住宅の入居者にとっては、修繕費の圧迫、住環境の悪化を意味する」。

マムダニは家賃安定化住宅の家賃を4年間凍結すると公約している。固定資産税を上げながら家賃を凍結すれば、家主は修繕費を削るしかない。バーゴスはこれを「ダブルパンチ」と呼んだ。「スラム化を加速させる」。

小規模不動産所有者の団体の会長の言葉はもっと激しい。「市長は何千人もの移民系不動産所有者に宣戦布告した。多世代にわたる家族が全財産を投じた小さな建物を持つ人々だ」。

なぜこうなったか

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