QEEG検査とrTMSで稼ぐクリニックの実態〜学術論文が暴いた「科学的診断」の欺瞞〜
先日、自費診療の心理構造について書いた。今日はその具体例を一つ取り上げる。
国立研究開発法人情報通信研究機構の宮内哲氏が、日本臨床神経生理学会の学術誌『臨床神経生理学』(2025年53巻4号)に論文を発表した。タイトルは「精神科クリニックにおける光トポグラフィー検査とQEEG検査の実態」。脳波研究の専門家が、実際にクリニックを訪問し、院長・技師・医師と直接話した上で書いた告発論文だ。宮内氏はX上でもこの内容を投稿しており、10万を超えるインプレッションを集めている。学術誌の中だけに留まらず、すでに社会に届き始めている。
二つの「科学的検査」
光トポグラフィーとQEEGは、見かけ上は異なる検査だが、精神科クリニックでの使われ方は同じだ。「脳の状態を見える化して、科学的に神経精神疾患を検査します」と謳い、高額なrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)の自費治療へ誘導する。
光トポグラフィーは、頭皮に近赤外光を当てて脳血流変化を測る装置だ。うつ病の診断補助として2014年に保険適用が認可されている。「保険適用」と「信頼できる診断バイオマーカー」は別の話で、検査結果の再現性や個人差など、論文で指摘されている問題点は多い。
QEEGは脳波を周波数解析して健常者データベースと比較するシステムだ。ADHDでは前頭部のTheta/Beta比(TBR)が高いという2006年の研究をもとに、FDAが2013年に診断補助機器として認可した。その後の研究で擬陽性率の高さが指摘され、TBRの効果量は年を経るごとに小さくなっている。認可の根拠となった研究自体が、時代とともに再現されなくなっているわけだ。米国神経学会(AAN)は2016年のガイドラインで「TBRと標準的な臨床評価の組み合わせがADHD診断の確実性を高めるかどうかは不明」と結論を出した。
どちらも「使える場面が限定的で、信頼性に疑問符がついている検査」だ。それが、ADHDやASDのグレーゾーン診断に使われている。
院長は「当てにしていない」と言った
宮内氏は11年前、光トポグラフィー検査を実施しているクリニックの院長に直接聞いた。
「光トポグラフィー検査の結果をどの程度信頼されていますか?」
院長の回答は明快だった。「当てにしていません。ただうつ病では患者の家族や会社の上司など、周りの人たちの理解・協力が大切です。光トポでたまたま典型的なうつ病のパターンが出た場合は、家族や上司に見せながら説明すると一発で納得してくれるので、そのためだけに使っています」
「たまたま出た場合は」という言い方が重要だ。大半のケースでは典型的なパターンは出ない。つまり診断的価値ゼロのまま施行された検査が、4万件の大部分を占めている計算になる。このクリニックでの光トポグラフィー検査件数は、宮内氏の試算で11年間に4万件を超える。
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