見出し画像

イラン戦争72時間後〜5つの戦線が開いた

前の記事を書いたのは攻撃開始から48時間後だった。あれから丸一日。

停戦の気配はない。戦線が広がった。


3月2日

未明、ハイファと上ガリラヤで空襲警報が鳴った。15か月ぶりだった。レバノンからミサイルとドローン。ヒズボラが撃った。

着弾したのはロケット3発。負傷者はゼロ。

イスラエルは即座に動いた。ベイルート南郊で12回以上の爆発。レバノン全域のヒズボラ拠点への空爆。レバノン保健省の集計で31人が死亡、149人が負傷した。ロケット3発に対して、31人の死者。

日付が変わった直後、キプロス島南岸の英空軍基地アクロティリに無人機が落ちた。シャヘド136。イランの自爆ドローンだ。滑走路に軽微な損傷、死傷者なし。キプロスのクリストドゥリデス大統領が「イラン製」と確認した。英国防省は「我々は戦争状態にはない」と述べた。

NATO加盟国の軍事施設への、この紛争で初の着弾だった。

パキスタンでは街路が燃えていた。カラチで数千人がアメリカ領事館に向かって行進し、治安部隊と衝突。AP通信によれば全土で少なくとも22人が死亡、120人以上が負傷した。北部ギルギット・バルティスタン州では群衆が国連事務所を襲撃した。

イラン赤新月社は死者数を555人に更新した。

イラクの民兵

「抵抗の枢軸」で最も早く動いたのはイラクだった。

「イスラム抵抗(IRI)」——親イラン民兵の連合体——は2月28日、攻撃開始から数時間で行動を起こした。同日中に16回のドローン攻撃を実施したと発表している。

名前を並べる。

カタイブ・ヒズボラ。イラク最大の親イラン民兵。「米国を長期消耗戦に引きずり込み、この地域から米国のプレゼンスを一切排除する」と宣言した。

カタイブ・サイイド・アル・シュハダ。参戦を表明。指導者のワラエは、イランが湾岸諸国の民間施設を攻撃した理由をこう説明した。「米軍要員は基地から逃げ出し、ホテルや民間ビルに身を隠した」。だから撃った、と。

ハラカト・ヒズボラ・アル・ヌジャバ。指導者カアビの声明。「我々のムジャヒディンは、集まりの場で"我々がそこにいれば"と口だけの者ではない」。参戦宣言。

アサイブ・アフル・アル・ハク。3月1日、「米・イスラエルの空爆」で戦闘員4人が死亡したと発表。

標的はエルビルの米軍飛行場、米国領事館周辺、アイン・アル・アサド基地。クルディスタン地域では電力供給の大半を賄うガス田が「安全保障上の懸念」で操業を停止し、大規模停電が起きた。

AP通信が伝えた情報がある。2か月前、イランの当局者とイラク民兵の間で会合が持たれ、イランが攻撃された場合の対応が事前に割り振られていた。標的はクルディスタンの米軍とヨルダンの米軍。計画通りの応答だった。

戦局を変える規模ではない。ドローンは飛んだ。声明は出た。クウェートで米兵3人が死んだ。しかしイラクの民兵がイランの運命を左右する力を持っているかと言えば、持っていない。刺し傷は与えられる。致命傷は与えられない。

バグダッドの矛盾

イラク政府の立場を説明するには、矛盾という言葉しかない。

スダニ首相は2月28日、英国大使と会談し、「戦争の継続を拒否する」「対話と交渉のテーブルに戻ることが唯一の責任ある対応だ」と述べた。

同じ日に、彼の連立政権を構成する親イラン政治ブロックの武装部門が、米軍基地にドローンを飛ばしていた。

スダニ首相の連立は、カタイブ・ヒズボラやアサイブ・アフル・アル・ハクと政治的につながる勢力に依存している。人民動員隊(PMF)——これら民兵の公的な傘——はイラクの正規の安全保障機構に組み込まれている。首相の指揮下にある、という建前だ。

建前だ。

PMFが首相の命令で動く組織なら、米軍を攻撃する前にスダニが止めていたはずだ。止められなかった。止めようとしたかどうかすら、分からない。

米国の同盟国でありながら、米軍を攻撃する民兵の母体が政府機構に埋め込まれている。この矛盾は2003年のイラク戦争以来20年以上続いてきた。今がもっとも鋭い瞬間だ。

バグダッドのグリーンゾーンでは米国大使館に向けて親イラン民兵の旗を掲げたデモ隊が押し寄せた。大使館の外で、民兵の旗が翻っている。大使館の中では、米国がその民兵の後ろ盾であるイランを爆撃している。

同じ街の、同じ日に。

ロケット3発

ヒズボラの話に戻る。

ロケット3発。負傷者ゼロ。この規模を理解するには、15か月前からの経緯がいる。

2024年11月、米国の仲介でイスラエルとヒズボラの停戦が成立した。ヒズボラはリタニ川以北へ撤退する取り決めだった。ヒズボラ側からは、守られた。

イスラエル側からは、守られなかった。

時事通信の報道。停戦後の15か月間に、イスラエルは370人超のヒズボラ戦闘員を殺害し、1200回以上の作戦を実施した。アルジャジーラの表現を借りれば「事実上の一方的停戦」。

この間にヒズボラの戦力はかつての5分の1に落ちた。ナスララ師は2024年9月に殺害されていた。後任のカセム書記長のもとで再建は進んでいたが、兵器の大多数は破壊され、幹部の多くを失い、シリアのアサド政権崩壊でイランからの補給路も断たれた。

戦力5分の1の組織が撃てたのが、3発だった。

では、なぜ3発でも撃ったか。

ヒズボラは「抵抗の枢軸」の中核を自任してきた。最大の後援者の最高指導者が殺されたのに沈黙すれば、支持者からもテヘランの残存勢力からも見放される。組織の存在意義が消える。

3発は軍事行動ではなく、存在証明だ。「我々はまだここにいる」。

代償は即座に来た。イスラエルはレバノン全域を空爆した。レバノンのサラム首相はXに投稿した。「誰が背後にいようと、レバノン南部からのロケット発射は無責任かつ疑わしい行為だ。レバノンを新たな冒険に引きずり込むことは許さない」。自国の武装組織を、首相が公然と非難した。

ロイターによれば、攻撃前にレバノン大統領府は米国大使から「敵対行為がない限り、イスラエルはエスカレーションしない」と伝えられていた。

その約束は3発で消えた。

前の記事で、湾岸諸国がイランのミサイルの巻き添えになった構図を書いた。同じことがレバノンで起きている。代理人の行動が、代理人の暮らす国を焼く。

フーシ派の沈黙

フーシ派はまだ撃っていない。

2月28日の演説で指導者アブドルマリク・アル・フーシは、米・イスラエルの攻撃を「イスラム国家に対する不当で野蛮な行為」と非難し、「完全な連帯」を表明した。「あらゆる必要な展開に対して万全の準備がある」。

3月1日、首都サヌアで大規模デモ。フーシ派の軍事メディアが「百万人行進」の写真を流した。

声明。デモ。写真。軍事行動の宣言だけが、ない。

水面下は別だ。AP通信がフーシ派の匿名幹部2名から得た情報では、イスラエルおよび紅海の船舶への攻撃を近く再開する計画がある。アラブニュースは、2月28日の時点でイランから紅海攻撃再開の指示が出たと報じた。

フーシ派は2024年、紅海で商業船舶を次々に攻撃し、世界の海運を混乱させた実績がある。マースクが全船団を喜望峰回りに迂回させ、保険料が跳ね上がり、物流コストが跳ね上がった。あの組織が「準備完了」と言っている。

前の記事でホルムズ海峡の通航量70%減を書いた。フーシ派が紅海で動けば、ペルシャ湾と紅海が同時に塞がる。

世界の海上原油の約20%がホルムズ海峡を通る。世界の貿易量の約12%が紅海を通る。二つの水路の同時機能不全は、現代の海運史に前例がない。

ブレント原油は月曜の取引で80ドルを超えた。バーンスタインは極端なシナリオで120〜150ドル。ガーディアンは100ドル超えを警告するアナリストの声を伝えている。

フーシ派の一発目が、次の価格ジャンプのトリガーになる。

ハマス

書くことは少ない。

ガザ停戦中。2023年10月7日以降の戦闘で壊滅的打撃を受け、軍事機構は事実上解体された。声明レベルの連帯表明があった。軍事的に動く力は残っていない。

「抵抗の枢軸」で最も早く潰され、最も深く壊れた結節点。

枢軸は機能したか

ここから先は

4,373字
この記事のみ ¥ 280
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

メンバーシップは医療マガジン、有料日記を全部読めます。 僕を応援してください!お願いいたします! 毎…

ちょっと応援プラン(全部プラン②)

¥2,000 / 月
あと15人募集中

もっと応援プラン(全部プラン③)

¥3,000 / 月
あと31人募集中

どんと応援プラン(全部プラン④)

¥9,999 / 月

全部プラン

募集終了

よろしければ応援お願いします!チップはnote更新用のPC購入費用に当てる予定です。よろしく!