リハートが薬価収載を見送られた理由〜iPS心筋シートと医療機器分類の壁〜
2月の薬事審議会で「世界初」と報じられたiPS細胞由来心筋細胞シート「リハート」。5月13日の中医協で再生医療等3品目の薬価収載が決まったが、リハートは入っていなかった。
今回見送られたのは2品目。「アロステムシート」は重要原料の調達が困難になり、企業側が今回の収載希望を見送った。一方の「リハート」は、保険医療材料専門組織で償還価格の検討が続いている。同じ「見送り」でも中身が違う。
同時に承認されたアムシェプリは5530万6737円(18瓶1組)で通っている。リハートだけが、医療機器分類のルートで止まっている。
承認されたのに薬価が決まらない。この空白に、いくつかの構造的な問題が積み重なっている。
ハートシートという亡霊
ハートシートをご存じだろうか。テルモが開発した重症心不全向けの再生医療等製品で、患者自身の大腿筋から採取した筋芽細胞を培養してシート化する自家製品だ。
2015年9月に条件及び期限付き承認を取得。当時、世界初の心臓に対する再生医療等製品として大きく報じられた。今回のリハートと同じ報道のされ方だ。市販後に「心臓疾患関連死」を主要評価項目とする検証が課された。
これを満たせなかった。
2023年9月にテルモが追加データを提出。2024年7月19日、薬事審議会専門部会が本承認を認めない判断を下した。テルモは翌7月20日に販売終了を発表。8月7日の中医協で材料価格基準からの削除が報告された。条件付き承認から約9年。世界初の歓声は、静かな撤退で幕を閉じた。
リハートの治験デザインを見ると、ハートシートの教訓が反映されている。主要評価項目を「心臓疾患関連死」ではなく「移植後26週時点における心エコー図検査によるLVEFの+5%以上の改善」に下げた。臨床上明確なエンドポイントではなく、代替指標だ。
ハードルを下げた治験で承認を取り、市販後に再検証する。それでも本承認に至らなかったハートシートと、iPS由来になっただけのリハート。規制当局も中医協委員も、この記憶を共有している。
「全例改善」の中身
2月の報道では「8人中8人で改善」と伝えられた。これは事実だが、主要評価項目ではない。
薬害オンブズパースン会議が4月6日付で厚労相と中医協会長に提出した意見書によれば、主要評価項目であるLVEF+5%以上の改善を達成したのは有効性解析対象8例のうち2例にとどまる。さらにLVEFが-5%以下に悪化した症例が3例(症例2、4、8)あり、最大で11.4%低下した患者も存在する。
NYHA分類は患者の自覚症状と簡単な負荷テストで決まる主観的指標だ。LVEFは心エコーで定量化される客観指標。後者で見ると、目標を達成したのは8人中2人で、3人は悪化している。
報道で使われた「8人全員改善」は副次評価項目を切り取ったものだった。プレスリリースとして間違いではないが、主要評価項目の達成率には触れていない。
主要評価項目と副次評価項目の使い分けは、治験デザインの肝だ。主要評価項目で結論を出し、副次評価項目は補助情報として扱うのが原則。リハートでは、達成率が高い副次評価項目が前面に出て、主要評価項目が背景に退いた。ハートシートが「心臓疾患関連死」で証明に失敗したから、リハートは「LVEFの数値変化」に下げた。それでも8人中2人だった。
この治験には対照群がない。心臓表面を左側開胸して開く侵襲的処置を受けた患者で、プラセボ効果や自然経過との切り分けがどこまでできるか、という疑問が残る。
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