11浪8留5国浪の49歳医学生を美談にしてはいけない理由
Xで「11浪8留5国浪」というアカウントを見かけたとき、正直ネタ垢だと思った。医師を目指して浪人11回、留年8回、国家試験5連敗。49歳で医学生。あまりにも数字が極端すぎて、作り話か、何かのパロディだろうと。

同じように思った人は多かったらしい。
ところが実在した。しかもABEMA Primeに出演し、顔出しで自身の経歴を語っていた。ひろゆき氏から「社会にとって悪」と言われ、ネット上では賛否両論が巻き起こっている。
応援する声、批判する声、様々ある。私はどうしても「美談」として受け止めることができなかった。
応援したい気持ちは否定しない
最初に言っておくと、神乃毅さん(49)の「夢を諦めない」という姿勢そのものを否定するつもりはない。
10代で医学に感銘を受け、29歳で広島大学医学部に合格し、43歳で卒業。現在も国家試験合格を目指して毎日7時間勉強を続けている。これまでに約2000万円を費やしたという。その執念は本物だろう。
番組に出演した新開貴子さんは、39歳で藤田医科大学に入学し、53歳で医師国家試験に合格した。還暦の今も現役で働いている。高齢で医師になった成功例も確かに存在する。
だから「中年の挑戦」を全否定する気はない。
だが、医療現場を少しでも知る人間として、どうしても引っかかることがある。
国試5連敗が意味するもの
医師国家試験は、医学部を卒業した人の約9割が合格する試験だ。
もちろん簡単ではない。膨大な範囲を網羅し、臨床的な判断力も問われる。しかし6年間真面目に勉強し、卒業試験をパスした人であれば、普通は受かる。予備校に通って対策すれば、浪人しても翌年には合格する人が大半だ。
それを5回連続で落ちている。
これは「運が悪かった」という話ではない。医学知識を体系的に整理し、必要なときに引き出す能力に、根本的な課題がある可能性を示している。
国家試験は「入口」に過ぎない。臨床の現場では、もっと複雑な状況で、もっと速い判断を求められる。患者の容態が急変したとき、検査結果が予想と違ったとき、複数の疾患が絡み合っているとき。教科書通りにはいかない場面の連続だ。
国試に5回落ちる人が、そうした臨床判断を的確にできるのか。正直、疑問が残る。
「遠回り」でも成功する人との違い
同じ記事に、病理専門医の榎木英介医師がコメントを寄せていた。彼も学士編入で医学部に入り、32歳で医師になった「遠回り組」だ。
榎木医師は「遠回りして医師になることは決して否定しない。年齢ではなく、何ができるのか、どう社会に貢献できるのかがすべて」と述べている。同窓会で20年ぶりに会っても、誰が遠回り組だったかもはや分からなくなっていたという。
この言葉には説得力がある。だが、榎木医師のケースと神乃さんのケースは、質的に異なる。
榎木医師は現役生より8歳年上だったが、学力的な問題で遅れたわけではない。学士編入は別の学部を卒業してから医学部に入るルートで、むしろ社会経験を積んでから医師を目指す人が多い。入学後の学業に問題がなければ、ストレートに卒業し、国試も一発で受かる人がほとんどだ。
一方、神乃さんは11浪、8留、5国浪。入学前、在学中、卒業後のすべての段階で躓いている。これは「遠回り」ではなく、医学を修得する過程そのものに困難を抱えていることを示している。
「遠回りでも成功した人がいる」という事例は、神乃さんの将来を楽観視する根拠にはならない。
本人を知る医師の証言
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