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イオンモール熊本爆発 「もし入れるなら」という指示

イオンの吉田昭夫社長が、なぜ1時間も館内にいたのか認識していない、と述べたのが7月29日。テナント側からその理由が出てきたのは、8月2日の夜だった。


五日後の自認

雑貨店「ハビタ」の上野景真社長ら幹部2人が2日夜、大竹玖瑠美さん(22)の通夜に参列した後、熊本市内で報道陣の取材に応じた。地震後に一時避難した従業員に対し、売上金を金庫に移すため館内へ戻るよう指示したと認めている。遺族に謝罪し、経緯をまとめた書面を渡した。上野社長は「痛恨の極みだ。両遺族に申し訳ない」と述べ、同席した幹部の1人は「今から考えると、命に代えるものではない」と語った。

RKK熊本放送によれば、爆発直後、同社は「取材はお断りしている」として回答を拒んでいる。自認まで五日が経っていた。

その五日のあいだに、社名の特定はSNSで進んだ。親会社とされる企業の名前、そのサイトから店舗の記載が消えたという指摘、指示を出した人物の特定。いずれも主要メディアが確認したものではない。会社が黙っている時間は、真偽の混ざった話が流通する時間でもある。

もし入れるなら

指示の中身も報じられた。西日本新聞によれば、会社幹部の指示を受けた店長が、亡くなった従業員に「もし入れるなら売上金を金庫に戻してほしい」と伝えている。

ただし経路の詳細は、報道のあいだで一致していない。毎日新聞は、指示を受けたのは大竹さんではなく亡くなったもう1人の従業員だったとし、2人で店内に戻ったと書く。伝達にあたった店長自身が犠牲者の一方だったとする報道もある。誰が誰に何を伝えたのかは、まだ固まっていない。会社の説明が五日遅れた結果が、そのまま経緯の不明瞭さとして残っている。

確定しているのは、指示の内容と物理的な条件のほうだ。店舗は2階、金庫は1階にあった。売上金を入れるには、階を移動する必要がある。大竹さんは駐車場で親族に「会社の人から頼まれた」と話し、館内に戻った約5分後に爆発が起きた。遺族のSNS投稿によれば、電話で指示があったという。

問題は「もし入れるなら」という条件の付け方だと思う。文面上は選択の余地がある。断ってよいと読める。だが受け取る側が22歳の従業員で、伝えてくるのが直属の上司なら、その余地は文面にしか存在しない。条件付きの依頼は、拒否権を与える形をとりながら、拒否したときの責任を受け手に移す。

この形式自体は珍しくない。医療現場の「手が空いていたらお願い」、建設現場の「無理でなければ今日中に」。業種を問わず、命令ではない言い方で命令と同じ効果を出す話法は日常的に使われている。平時なら人間関係の潤滑油として機能するだけだ。震度7の直後に同じ話法が使われたとき、緩衝材だったはずのものが逃げ道を塞ぐ。

二つの空白

吉田社長は7月29日の会見で、マニュアルでは一度避難した者は戻らないことになっている、と説明したうえで、なぜ1時間も館内にいたのかは認識していない、と述べていた。規定は存在し、逸脱は把握されていない。

ハビタ側がその規定を知ったうえで指示を出したのかどうかは、現時点で報じられていない。

爆発で妻を亡くした男性は、なぜイオンモールに戻るなと声をかけなかったのか、と語っている。テナントが戻れと言い、施設が止めなかった。二つの主体の空白が、同じ場所で重なった。

商業施設のテナント契約は、一般に定期建物賃貸借の形をとり、館内の運営管理規程を守る義務が条項として置かれる。営業時間、内装、共用部の使い方、什器の搬入経路。日常の運営を細かく縛る仕組みは存在している。ただし、その規程が災害時の従業員の行動をどこまで拘束するのか、違反したときに何が起きるのかは、契約の主目的から外れる。デベロッパーはテナント従業員を直接指揮できず、テナント側は施設の避難規定に雇用関係として拘束されない。契約でつながっているだけの二つの組織のあいだに、避難を終えた従業員という宙づりの集団がいた。

退避権という穴

指示の存在が会社の自認で確定したことで、法的な議論は仮定を離れた。

労働安全衛生法25条は、労働災害発生の急迫した危険があるとき、直ちに作業を中止させ労働者を退避させることを事業者の義務としている。違反すれば119条により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、122条の両罰規定で法人も対象になる。労働契約法5条の安全配慮義務、民法715条の使用者責任も同様に射程に入る。

刑事の側には依然として壁がある。業務上過失致死を問うには爆発という結果の具体的予見可能性が必要で、地震から1時間の時点でガス漏れは公表されていなかった。制度上の受け皿は行政罰と民事に寄る。

そして、いちばん埋まっていないのがこの部分だ。安衛法25条は事業者への義務としてのみ書かれていて、労働者が危険を理由に業務を拒否する権利と、拒否を理由とした不利益取扱いの禁止は明文化されていない。指示を断って帰宅し、結果として爆発が起きなかった場合、その従業員を守る条文は日本の労働法に存在しない。

この欠落は、国際的にはとうに指摘されていた。ILO第155号条約13条は、切迫した重大な危険がある作業から退避した労働者を「不当な結果から保護される」ものと定めている。日本は長くこの条約を批准しておらず、批准にあたっての検討課題として、まさに「危険からの退避」が挙げられ続けてきた。

批准は昨年動いた。2025年5月23日に参院本会議が全会一致で承認し、2026年4月1日に批准書がILOに寄託され、3日に官報で公布されている。日本は92か国目だった。条約が日本について効力を生じるのは登録から12か月後、2027年4月1日になる。7月28日の爆発は、その待機期間の最中に起きた。

条約を批准した国で、退避権の明文がないまま人が戻らされた。国内法の整備は、これから議論される段階にある。

次に出るもの

売上金を当日中に金庫へ入れる運用が社内規程だったのか、その場の判断だったのか。まだ分かっていない。規程だったなら、報道によれば熊本など九州で十数店舗を運営する同社の他店でも、同じ指示が出ていた可能性がある。一店舗の逸脱か運用全体かは、そこで分かれる。

遺族に渡された書面の内容、労働基準監督署の調査着手、テナント契約や運営規程に災害時の再入館を禁じる条項があったかどうか。いずれも未報道だ。

イオン側の動きも変わっていない。全国の施設で始まった緊急点検はガス設備が対象で、避難後の運用をどう変えるかについての具体策は、8月3日の時点でまだ発表されていない。設備は点検されている。人の流れは、まだ手つかずだ。

爆発原因の側でも動きがある。日本テレビは独自取材として、損傷の激しいエリアに館内マップに載っていない部屋があったと報じた。爆心地の可能性が指摘されている。バックヤードにガスが滞留したという見方と重なる場所であり、従業員が戻った先でもある。

捜索活動は8月1日正午に終了した。死者7人、負傷者5人。

大竹さんは駐車場で親族に「会社の人から頼まれた」と話している。同僚とともに館内に戻り、約5分後に爆発が起きた。

地震と、その後の事故で亡くなられたすべての方に哀悼の意を捧げます。

(本稿の事実関係は8月3日時点のもの)


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