21人に聞いて0人は「闇」か〜南阿蘇村YouTube調査と統計の初歩〜
36%の確率で起きることを「闇」と呼ぶ人たち
北海道のYouTuberが南阿蘇村まで飛んで、住民26人に投票先を聞いた動画が19万回再生されています。チームみらいの得票率4.8%の地域で、21人から回答を得て、チームみらいは0人。タイトルは「闇すぎた」。
10日前に書いた記事で、チームみらいの得票分布は所得地図と一致すると書きました。港区18.5%、足立区8.5%。不正ではなく政策設計の結果。南阿蘇村の4.8%も全国比例平均6.66%を下回っていて、高齢化率の高い地方で得票率が下がるパターンと合致する。
でもSNSでは「不正だ」が止まらない。この動画を見て確信を深めている人もいる。
0.952の21乗
得票率4.8%。投票者の約21人に1人がチームみらいに入れた計算です。
ここから21人をランダムに選ぶ。その中にチームみらい投票者が1人も含まれない確率。
0.952の21乗。約36%。
サイコロを振って3以下が出る確率が50%。36%はそれよりやや低い程度で、珍しいことではない。
袋に100個の玉。5個だけ赤い。目をつぶって21個取り出して全部白だった。これで「赤い玉は存在しない、数字は捏造だ」と言う人はいないでしょう。
動画にすると19万人が信じる。
500人いる
もう少し踏み込みます。
仮に「得票率が本当に4.8%あるのか、それともほぼ0%なのか」を統計的に区別したいとする。有意水準5%、検出力80%——学術研究で標準的に使われる基準で必要なサンプルサイズを計算すると、約500人。
21人ではない。500人。
「少なくとも1人見つかれば不正なし」という最も甘い基準でも、80%の確率で1人以上見つけるには最低33人が必要です。21人では、チームみらい投票者が実在していても見逃す確率のほうが高い。
動画の終盤で投稿者は「100人に聞いてもチーム未来っていう人いるのかな」と言っています。得票率4.8%なら100人聞けば期待値は約5人。95%の確率で1人以上見つかる。直感と計算はこれだけずれる。
平日の昼間に街を歩いている人
サンプルの数以前に、もっと手前の問題があります。
平日昼間の街頭。歩いている人にだけ声をかける。動画内で本人が「ほぼ誰もいない」「人を探すのが大変」と言っている。回答者の大半が50代以上。
チームみらいの支持層はどこにいるか。前回の記事で示した通り、得票率は所得水準と相関します。テクノロジーに親和性がある現役世代。リモートワークで移住してきた若年層。平日昼間に外を歩いていない人たち。
動画の中で、40代の移住者が1人だけ登場します。投票先は参政党でしたが、チームみらいを「知っている」と答えた。街頭では捕まりにくいこの層が、実際には票の母体になっている可能性がある。でもこの調査方法では、そこに手が届かない。
世論調査が電話やネットで数千人規模の無作為抽出をやるのはこのためです。「誰に聞くか」の設計が間違っていたら、何人に聞いても正しい答えは出ない。
数千人の調査は整合している
コミュニティノートが既に指摘しています。
選挙直前の世論調査、投票日当日の出口調査、選挙後の調査——いずれもチームみらいの実際の得票率と整合する結果が出ている。神戸新聞は投票日に出口調査を実施し、兵庫県内のチームみらい比例得票率6.36%について「不審な点はない」と報じました。前回衆院選で国民民主に入れた人の10.4%、維新の8.6%、れいわの8.2%がチームみらいに流れたことも出口調査で確認されている。
数千人規模の複数の調査が同じ方向を示しているのに、21人の街頭インタビューが「疑惑を深めた」として拡散される。
南阿蘇村は突出していない
過疎地で得票率が不自然に揃っているという別の陰謀論もありました。「過疎60地域でチームみらいの得票率が4.69%に固定、標準偏差0.10%」。これもデータソース不明のまま拡散されたものです。
プログラマが15都道府県の公式開票データから過疎地域208市区町村を抽出して検証したところ、得票率は1.33%から6.73%まで広く分散していました。標準偏差は0.98%。元の主張の約10倍。南阿蘇村の4.8%はこの分布の中にごく自然に収まる数字です。
「断定しません」の構造
ここから先は
よろしければ応援お願いします!チップはnote更新用のPC購入費用に当てる予定です。よろしく!
