人工選択の代償 大型犬とサラブレッドが払う代価
人間が作った体
前回まで、クジラとゾウの話をした。
何百万年という自然選択の時間をかけて、大型化と同時にがん抑制機構を共進化させてきた動物たちだ。体サイズに見合った防御を持っているから、理論値を大きく超えた寿命が実現できる。
では、数百年という短い時間で人工的に大型化された動物はどうなるか。
答えはすでに身近にある。グレートデンの平均寿命は7〜8年。チワワは15〜17年生きる。同じ「イヌ」という種の中で、体格差に比例した寿命の逆転が起きている。大型犬の死因統計を見ると、グレートデンやバーニーズマウンテンドッグでは死因の40〜50%をがんが占める。早死にの中身は、多くの場合がんだ。
適応遅延という概念
大型化に伴うがんリスクの増加は、自然選択の圧力として働く。その圧力に応答してがん抑制機構が進化するには、世代を超えた時間が必要だ。クジラやゾウは何百万年かけてその応答を完了させた。
人間が数百年で作り上げた大型犬種には、その時間がなかった。体だけが大型化し、がん抑制の進化が追いつかない。これを「適応遅延(adaptive lag)」と呼ぶ。
骨肉腫の発生率は大型犬で小・中型犬の200倍に達する。グレートデンやセントバーナードは2〜3歳という若齢で発症することがある。人間の骨肉腫でも診断時点で肺転移を伴うケースは多いが、犬の場合は発症から数ヶ月で外科的介入の余地がなくなり、安楽死を選択せざるを得ないことが大半だ。クジラが200年かけて蓄積するDNA損傷と向き合う機構を、大型犬は持たないまま大きな体を維持しようとしている。
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