ミュトス、選別されて戻る 100社の外はまだ立ち入れない
前回、僕はFable 5が消えた日のことを書いた。観測対象が観測中に消滅する、と。API価格を入力100万トークン10ドル・出力50ドルまで下げた直後、リリースから3日目の夕方に書簡が届いて消えた。
その観測対象が、選別されて戻ってきた。停止からは2週間。停止3日、復活14日。日数からして非対称だ。ただし戻り先は米国のインフラ組織だけ。約100社のリストの内側に入っていなければ、復活も届かない。日本で個人で使う僕は、そのリストの外にいる。
6月26日、二つの動きが同じ日に出た。Mythos 5の部分復活と、GPT-5.6の限定スタート。停止のときは「外国籍全員」という乱暴な一括だった。復活は、用途と提供先と所属で細かく刻まれている。線の引き方が、国籍から組織所属へ移った。
何が戻ったか
Anthropicは26日、Mythos 5の再導入を発表した。商務省から、重要インフラの運用や防衛を担う米国の組織に戻してよい、との通知を受けたという。書簡の宛先はチーフ・コンピュート・オフィサーのトム・ブラウン。差出人は商務長官ルトニックだ。
提供先はCNBCによると約100の米企業・政府機関。ルトニックは書簡で「適切な安全対策が施されていると判断した。信頼できる一部のパートナーがMythos 5にアクセスすることを認める」と書いた。SemaforとReutersが書簡を確認している。
ここで停止時との線引きの違いが出る。今回の認可は、対象100組織で働く非米国籍の従業員にもアクセスを広げている。当初の禁止で締め出されたAnthropic自身の非米国籍スタッフも、認可に戻された。つまり「外国籍だから使えない」のではなくなった。「100社のリストに属していないから使えない」に変わった。僕が日本で個人で触れないのは、後者の理由だ。
価格を並べる。停止前のMythosは入力25ドル・出力125ドル。Fableはそれを10ドル・50ドルへ、半額以下に下げていた。商業展開のアクセルを踏んだのはFableのほう。そのFableが止まり、値下げ前の価格帯のMythosが先に戻る。日本を含む外国の企業への提供は、見通しが立っていない。
Fableは置き去り
戻ったのはMythos 5だけ。Fable 5は復活許可が出ていない。NHKはそう報じ、朝日も書簡がFableに言及していないと書いた。Semaforも「書簡はFableについて沈黙している」とし、関係者は復活に向けて動いているが時期は不明だと伝えている。
皮肉が刺さる。Fableは安全策付きの版だ。サイバーと生物の危険領域は、自動でOpus 4.8にルーティングされる。より安全側に振った設計。なのに、安全策なしのMythos 5が先に戻り、安全側のFableが残された。
Mythos 5の利用には30日間のデータ保持ポリシー受諾が条件として付く。安全側に厚くした設計ほど、復活したあとの制約も重い。安全策の厚さと復活速度が、きれいに逆を向いている。
僕が2日間だけ使えたのは、このFableのほうだった。広く配られた版が、停止前のわずか数日だけ市場にあった。値下げで商業展開のアクセルを踏んだ直後の停止であり、いま復活レースでも出遅れている。Anthropicが「広く安全に配ろう」として作った版が、一番遅れて戻る。
同じ日のGPT-5.6
OpenAIも26日、GPT-5.6を出した。最上位「ソル」、標準型「テラ」、低価格「ルナ」の3モデル構成。価格はSolが入力5ドル・出力30ドル、Terraが2.50ドル・15ドル、Lunaが1ドル・6ドル。当面は政権が承認した提携先に絞り、数週間以内の一般提供を目指す。
提供先は当初約20社。政府が顧客を一社ずつ承認する仕組みで、名前が個別に政府の許可を経る。米国のAI企業がフロンティアモデルを政府管理のアクセスリストの下で出すのは、これが初めてだ。
注意したいのは、これが「安全だから開けた」ではない点だ。OpenAIはSol・Terra・Lunaの三つすべてを、サイバーと生物・化学の両方で自社の「High」リスク水準に分類している。最廉価のLunaでさえHighに達する。High水準を承知の上で、政府承認付きで限定的に開けた。危険領域をOpusに逃がして塞いだFableとは、設計思想が違う。
アルトマンの構えは二段だ。6月2日の大統領令は「バランスが取れている」と評価した。だが今回の段階的リリースについては、Xで「悪い報せだ」と書いた。本来はもっと広いオープンアクセスでのローンチを計画していた、と。協調と反発が同居している。3月から政権を提訴しているAnthropicの姿勢とは、温度が違う。
承認の窓口は一つに集約している。Mythosは「商務省が適切と判断」、GPT-5.6は「政府が一社ずつ承認」。誰が最先端AIを使えるか、その許可を出すのは同じ場所だ。
二つのモデルの現在地は一致する。Mythosは上から閉じてきて、GPT-5.6は下から閉じて出てきた。出発点は真逆だったのに、いま両方が「米国の審査済みパートナーだけが使える」という同じ高さで出会っている。
ここから先は100社と20社という数字がどう作られたか、その分析を置きます。
100と20の作られ方
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