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迫っているのは製薬企業〜MFN対象国で値上げを説く論法〜

外来で薬を処方したくても、日本未承認ですとなる。数年前なら珍しかったその場面が、今は珍しくない。

日経電子版に、編集委員の署名記事が載った。「トランプ政策が揺さぶる日本の安い医療 『過剰』改める好機に」。タイトルにトランプの名を冠し、結論に過剰と低価値の削減を据える。読み終えて、向きが逆だと思った。

迫っているのはトランプではない。製薬企業だ。


外圧の向き

最恵国待遇(MFN)で、日本は薬価の参照国に指定された。米国内の薬価を、先進国で最も安い国に合わせる構想。日本の薬価は、品目によるが米国の3分の1前後とされる。だから日本が参照されると、米国の薬価が日本水準まで引き下げられる。

ここで起きる力学は、日本が米国に「上げろ」と迫られる話ではない。逆だ。米国にとって理想は、日本が安いまま固定されること。安くなければ、参照値が下がらない。トランプが欲しいのは日本の安さそのものだ。

では誰が日本に値上げを迫るのか。製薬企業だ。日本がMFN参照国になった以上、日本での安値が自社の米国収益を直接削る。だから「日本の薬価を上げろ」「上げないなら出さない」と引いていく。これは企業の収益防衛であって、米政府の対日要求ではない。

現に、海外バイオベンチャーが日本企業へのライセンス供与で「日本での薬価を米国価格の参照に使われたくない」と交渉を渋る事例が報告され始めた。迫っているのは政府ではなく、契約のテーブルにいる企業だ。

記事は、この二つを混ぜている。米政府のMFN政策と、製薬企業の撤退判断を、「トランプ政策が揺さぶる」の一語でくくる。企業のロビイングが、抗いがたい国家間の力学に格上げされる。

下げたのは誰か

2026年度改定で、薬価は0.86%下げられた。薬剤費ベースで見れば4.02%の引き下げになる。表向きの微減と、現場が呑む実態は、桁が違う。

毎年下げる。売れた薬を市場拡大再算定で狙い撃つ。長期収載品をG1ルールで後発品の水準まで落とす。安いから新薬が来ない。来ないからジェネリックも生まれない。ドラッグロスの原因は、この国内の総額管理にある。財務省と厚労省が握る財政の論理だ。

記事は、この下げる構造を叩かない。叩く先を「国内医療の過剰」にずらす。

薬価を下げ続けてドラッグロスを作り、その穴を「日本の医療が過剰だから」という別の場所のせいにして、患者と現場に埋めさせる。

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