女子高の文化祭で始まる恋(リライト版)【第6話】 安奈の姉のいたずら、告白したのは安奈の姉
二人の朝デートや、手渡しの文通は続いていた。安奈の父親の障害はあるものの、夜の電話も変わらず続き、大和にとってのそれは一日の終わりを彩る大切な時間になっていた。
だが、ある夜、思いもよらぬ事態が起きた。
「佐藤さんのお宅でしょうか?」
「はい、佐藤です」
「あ、佐藤さん? 電話に最初に出るなんて珍しいね。今晩は、大和です」
「大和くん? こんばんは。何か用?」

「え、いや、用って訳じゃないけど……」
「ふふ、ごめんなさい。ちょっと意地悪だったよね。大和君の電話嬉しいから」
「え、佐藤さん、どうかした?」
「ううん、私ね……素直になろうと思うんだ」
「素直って?」
「私、大和くんが好き」
「えっ……あ、あの……ど、どう答えれば……」
「好きって言って!」
「え、えっと……わ、分かった。言います。佐藤さん……いや俺、安奈が好きだ! 文化祭で告白した通り、大切に思ってるから」
その時だった。
「うわぁ〜そうなんだ! 安奈、愛されてるじゃ〜ん」
「え? 佐藤さん?」
「あ、ごめんごめん。私、安奈の姉の杏里」
「はあ?」
大和は頭が真っ白になった。
受話器を握る手は汗がにじみながら微かに震えていた。
受話器の向こうで、杏里は楽しそうに笑っていたが、その笑い声に大和の顔は一気に火照った。
「今のは安奈に伝えとくからさ。安心して」
「い、いや、安心とかじゃなくてですね……俺、今の台詞、本人に直接言ってないんですよ。それを他人から伝えられるって最悪じゃないですか!」
「だから〜、安奈には上手く言っとくって」
その軽さにますます焦る大和。けれど次の言葉には、からかいだけではない響きがあった。
「でもさ、大和くん。安奈は照れ屋だからね。心の中じゃ、あんたの言葉をずっと待ってると思うよ」
「だったら……」
言いかけた大和だったが、一瞬、杏里の声の奥に、姉としての優しさがのぞいた気がした。もしかすると杏里自身も、恋愛で同じように悩んだことがあるのかもしれない……そう思ってしまった。そんな時だった。玄関からもう一つの安奈の声が響いた。
「ただいま〜」
「お〜安奈、ちょうどいい。今、大和くんって彼から電話が……」
「お姉ちゃん!なに勝手に!」
「いや〜、ちょっと聞いただけだって」
「もう、信じられない!」
「でもさ、大和くんだっけ? 安奈のこと好きって言ってたよ。安奈、良かったなぁ」

その言葉に、安奈は顔を真っ赤にして受話器を奪った。

「……電話代わりました、安奈です。姉が失礼しました」
「あ、さ、佐藤……安奈さん? 本物?」
「うん……私たち、声が似てるから、よく間違えられるの」
「そ、そうなんだ……マジか……」
「で、お姉ちゃんに何か……言ったの?」「い、いや、その、うん、何でもない」
「……」
大和は、慌てて言葉を濁してしまった。そして、心の中で後悔が走っていた。
(取り返しのつかない間違いをしてしまった。いつかハッキリ言わなきゃいけないと思いながら、その一言を言えないでいた。
それを他人に告白して、本人には言えないなんて……)
安奈は受話器越しに大和の嘘を感じていた。姉、杏里から聞いた事実があるにしても、大和の態度に苛立ちを覚えていた。
「……大和君の、嘘つき……。ずるいよ……。お姉ちゃんには言えたのに……どうして、私には言ってくれないの……?
文化祭の時に『大切に思っている』とは言ってくれた。けれど……本当に欲しかった言葉は、まだもらえていない」
そう思うと胸の奥がモヤモヤした。
同時に、姉の言葉を通して大和の想いを知った嬉しさもあった。矛盾する気持ちが入り混じり、涙が溢れそうになった。
一瞬の沈黙のあと、大和が話出した。
「あ、あのさ……佐藤さん。遅くまで何かあったの?」
「……うん、お父さんとちょっとね」
大和は話を逸らしながら、『お父さん』と言う言葉に安心していた。
「お父さんとか……。そっか……」
「うん……。お父さんとはたまに出掛けるんだよ。いつか大和君ともどこか行けたら良いね」
「そ、そうだね……でも俺デートスポットとか詳しくないから……、あっ」
「デート? 誘ってくれるって事?」
「いや、その、だから……」
「ふふ、変なの、まあ良いか……」

姉のいたずらから笑いが生まれた夜。
けれど安奈の胸に残ったのは、喜びと切なさが入り混じる想いだった。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。
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