女子校の文化祭で始まる恋(リライト版)【第5話】写真のモデルは彼女
佐藤さんと手紙をやり取りする中、徐々に距離が縮まる二人だが、どちらかと言えば、未だ微妙な関係のままだった。
大和は生徒会と週末のバイトで忙しくなり、安奈もまた大会に向けたテニス部の練習で忙しくなり始めていたからだ。
ゆっくり会えない日が続く中で、大和は中学の卒業アルバムを開き、安奈の写真を見つめていた。
当時は携帯もスマホもない時代……。彼女の写真は緊張した面持ちの卒業アルバム位しかなかった。
そして大和はふと思った。
「あ、佐藤さんの写真撮れば良いじゃん?」
大和の手元にはバイトで貯めた金で買った
Canonの一眼レフ+望遠レンズがある。
「小学生の頃からカメラ小僧だったんだ、それなりに知識やテクはある。佐藤さんの可愛い所だって撮れるはずだ……」
翌朝、大和は意を決して安奈にお願いをしていた。
「佐藤さん……、今度写真撮らせてくれないかな?」
「え! 何で?」
「俺、佐藤さんが高校生になってからの写真持ってないし……だから佐藤さんの写真が欲しいんだ」
「え、えぇ~。恥ずかしいよ」
「そこを何とか……お願いします!」
「う〜ん。分かった」
安奈は、大和の真剣な眼差しを見ながら心の中で葛藤していた。
(写真のモデルなんて緊張するな……。でも、あんなに真剣に言われたら断われないよ。……撮影か……可愛い服あったかな? あ、美容院も行かなきゃ……。お母さんに美容院代、出してもらえるかな……)
土曜日、待ち合わせは安奈の家の前。
大和は半日授業のある土曜日は、いつもなら学食を食べてから帰宅するのだが、この日は急いで帰宅して、安奈の自宅前で心を整えていた。
「ま、間に合った…。お願いしておいて、遅刻は出来ないからな」
数分後、安奈が家から出てきた。
「大和君、お待たせ……」

「いや、俺も今着いたばかりで……。あれ? 佐藤さん、髪型……変えた?」
「分かる? 所で服とか、これで良かった?」「……いや、その、髪型も、か、可愛いと思う」
「うん。あ、ありがとう……」
1970年代、誰もがカメラを持っている時代じゃないから、皆、写真を撮られる事になれていない。当然、安奈も緊張しているし、カメラを握る大和すら緊張していた。
「とりあえず、裏通りに行こうよ……ここだと目立ち過ぎるから」
「そうだね……」
二人は人通りの多い場所から、人が少ない裏通りに移動する事にした。大和は安奈に自然にしてもらうため、数m 離れた場所でカメラをローアングルで構えた。
「佐藤さん、その辺からゆっくり歩いてみて」

ただ安奈は、緊張からか歩き方すらぎこちない。当然のように、その表情にはいつもの柔らかさがなかった。
大和は良い写真を撮りたい一心でどうすれば良いか考えていた。
(笑って、なんて指示したって彼女もプロじゃないからそんな簡単に笑えないし、多分苦笑いみたいになっちゃうだろう。いや、それよりそんな偉そうな指示なんて出せない……)
当時のカメラはフィルムカメラだ。だから、撮影した写真は現像するまでその出来具合いは確認できない。
確認ができないゆえに、例えば、まばたきをしてしまったとか、逆光で顔が暗くなったりと失敗も多いし、一瞬の柔らかさを捉えられたかも判らない。
だからこそ、大和はワンカットの写真に数枚のシャッターを切り続けていた。
ただ安奈の表情は硬いままだ……。この状態では、カメラテク関係なく大和が欲する安奈の写真にならない。
大和は一旦カメラを外して、安奈と雑談する事にした。

「佐藤さん、文化祭で先輩に詰問されてた時みたいな顔だったよ……(笑)」
「だって……(苦笑)」
「ごめんね……。カメラの前だと緊張するよね。少し休憩して話そうよ」
「うん、そうだね」
「最近テニス部はどう?」
「後輩もできたけど、上級生との板ばさみ……。大和君は、生徒会忙しそうじゃん」
「……うん、最近、帰宅は毎日暗くなってからだね」
「中々、会えないよね」
「ごめん……でも、だから佐藤さんの写真が欲しいんだ」
二人が電話以外で会って長く話すのは、久し振りだった。話している間、安奈の表情は柔らかくなっていた。
「そろそろ、また撮っても良いかな?」
「う、うん」
大和は撮影を再開したが、今度はカメラから目線を外してもらい、近くで話ながらシャッターを切る事にした。休憩の続きのような会話に、安奈の表情は柔らかくなっていった。
途中フィルム交換の時だけ、安奈は緊張が解かれ、素に戻った本当に良い表情になっていた。大和は「あれが撮りたい」って思っていたが、そのチャンスは偶然に訪れたのだった。

撮影中、近所のオバチャンが安奈に声を掛けた瞬間。安奈は素になって照れながら笑っていた。
大和はその瞬間を逃さずにシャッターを切った。そして、思わず声にしてしまった。
「うわっ、すげ〜良い表情……」
「えっ?」
安奈は、撮られた事も、今また撮っている事も判らずに、目線を大和の方に向けた。それは見事なカメラ目線で、素の安奈がカメラに収まった。
「あ、大和君……ダメだよ~。今のは〜」
そのはにかんだ最高の笑顔が、大和のカメラに収まった。


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